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「うっわー・・・ねえ、本当に行くの」

「何今更行ってるんですか。早く行きますよ」

「いや・・・あ、ちょっと待って!」





相変わらず無駄の無い動きの後輩君に、私は慌てて後を追った。
そもそもチョウジタウンまで行くのに徒歩って言うのが可笑しな話だ。車とかヘリとか悪の組織にはないのか。
だがそんな言葉も「資金削減の為ですよ」と冷たく返されてしまう。今時エコしてる人でもそんな事は思わないだろうに。
流石はロケット団とでも言っておこうか。空を飛べるポケモンを配給するのも惜しいらしい。畜生!
おまけに団服は着ずに、私服での移動。これでまあ知り合いにあって面倒なことにはならないんだろうけど。

でも私は一つの問題に頭を抱えた。
それは此処からチョウジタウンに行くにはエンジュシティを横切らなくてはいけないと言うこと。
出来れば私は通りたくない。何故かって、理由はただ一つ。





「会いたくない人が居るんだよなあ・・」





ボソリと私が呟けば、隣で歩いていた彼は「あ」と突然声をあげた。
立ち止まっているのを私は不思議そうに見れば、彼は思い出したかのように手を叩いた。




「会わないといけない奴がいた・・・」




今思い出すのかよ。てか早くエンジュから出たいのにそりゃねーぜ。
ガクリッと私は地面にしゃがみ込んで落ち込んだ。
駄目だ、このままでは本当に会ってしまいそうだ。ここ意外と狭いし。

そうやって焦っていると、腕を掴まれて無理やり立たされた。
相変わらず、仕事を完璧にこなそうとしている顔が憎い。





「行きましょう、名前先輩」

「・・・行くってどこに」




スッと指差された場所へと目を向ければ、私は驚いて目玉が飛び出そうになった。
いやいやいや。待って、気を早めるな。

私は後輩の腕をギリギリと握りしめながら足に力を入れた。




「行かないよ?私は行かないよ?」

「何言ってるんですか、行きますよ」

「何で!?やだやだやだ!だってあそこ踊り場だよね!?」

「それ以外の何に見えますか」

「だってあそこ・・!」




もろ目立つ。そして見つかってしまう。
そう思うと背中から嫌な汗がぶわっと湧き出てくるのを感じた。
お願いだから目立つ所は行きたくない。そう言わんばかりの顔を彼に向ければ「ですけどねえ」と呟く。




「アテナ様からの命令で――」

「あっぶねーな!!どけどけどけええ!」




バンッと踊り場のドアを蹴破って出て来た人物に、私達は言葉をなくした。
そこにはロケット団の服を着たしたっぱが焦った様子で逃げ出していて、物凄い全速力で町の中を駆け抜けていた。
途中すれ違う人たちとぶつかりながらも、彼は蒼白な顔をしながら町の外へと逃げていく。
行く先はきっと、チョウジだろうか。
どよどよと騒ぎ出した踊り場周辺に焦る私だが、横に居る後輩君は相変わらず通常運転のようだ。




「やっぱり・・・馬鹿な奴だ。アテナ様の言ったとおりだ」

「な、何が?」

「・・・いや、こっちの話です」




先程の会わなければいけない人とは、彼のことだったのだろうか。
「もう用は済んだので、行きましょうか」と言って歩き出す後輩の後姿を、私はホッとして見つめた。

やっとここから離れられる。

そう思って歩き出そうとしたら、人込みの中から誰かの手が伸びてきた。
ぐっと止まる足と掴まれた服の襟に疑問を感じて、私はゆっくりと振り向く。
おまけに「キミ・・」なんて言われたら、私に間違いないだろう。





「はい、なんです・・・」




か。最後のその言葉を呑み込んで、私は驚きのあまり目を見開く。
私に声をかけてきた男性。それは先程から私がもっとも恐れていた人物。
ああ、なんでこの人此処にいるのかな。いや、あたりまえか、エンジュと言ったら彼だもんね。
目をパチパチと瞬かせながら固まってしまった彼に背を向けようと、身体を反転させる。
そしてそこで私は後輩と逸れてしまったことに気付き、よけいに焦ってしまった。どうしよう、走ろうか。

だがそれはガッシリと肩を掴んできた手によって阻止された。




「キミ、名前ちゃんだよね・・・?久しぶりだね、ここで会うとは思ってもなかったよ」

「わあ、どうもこれはこれはマツバさんじゃないですか・・!お久しぶりですね、ではさようなら」




早く逃げよう、早く逃げよう。
私がもっとも苦手な人ランキング1位に入る彼に、私は全力の力で彼の腕を振りほどいた。(ちなみに2位はランス様)
さあ逃げよう。先程からそれしか頭になかった私は当然、足元なんて気にしなかった。いや、普通は有り得ない事だった。
よっぽど『イイ』性格してなきゃ出来そうも無い事を、彼はいつも爽やかな笑顔でやってのけるのだ。
現に今も、彼の長い足が私の足元にスッと伸び、そのまま私はズゴーと豪快に地面に倒れこむ。
土臭い風と共に、彼の綺麗な手が私の服の首裏を掴みあげる。なんだ、私は子猫なのか。
「ぐえ」と蛙のような声を出しながら、私は涙目でマツバさんの顔にゆっくりと振り返った。




「なんで逃げるのかな?忘れたかい?僕はキミのゲンガーを倒すまでは絶対に諦めないって言ったよね?ん?」

「そっそそそそうですね、ですがちょっとその笑顔怖いからもっと離れて下さい」

「よし、キミからの承諾も得たし・・・さっそくバトルでもする?」

「もういいよ、本当にもういいよ」




本気で泣きたい。そう思って私は服の袖で思いっきり目を擦った。
あの時もそうだった。最初は優しい笑顔で接して、気付いたらあの微笑みは腹黒いものへと変化していったのだ。
しかもマツバさんを倒した人は他にも沢山居るはずなのに、何故か私だけにだ。なにこの不思議発見。

私はマツバさんに会いたくなくて、早くエンジュから逃げ出したかっただけなのに、運が無い。




「キミ、今は何してるの?」

「え」




頬に付いた土を丁寧に払ってくれてるあたりはまだ優しいのか。彼は自分のマフラーで私の頬を綺麗にしてくれている。
それを「汚れますからいいです」と言って押し返せば、彼は溜息を吐いて腕を組んだ。




「で、何をしているのかな?」




再び問われた質問に、私は言葉につまった。
どうしよう、ロケット団のしたっぱやってますなんて言えないし。
幸いなことに、自分の今の格好は私服だ。
適当に言って誤魔化そうかと思って、私はマツバさんを見た。
そして私は、目を見開く。





「マツバさん・・」





真剣な顔で、彼は私をまっすぐ見つめていた。
それはバトルで見せる、彼の貴重な素顔の顔。
先程までふざけていた表情は、一切消えていた。




「今のキミは・・」




そう言って私に、彼は鋭い言葉を発す。




「あの時のように、トレーナではないんだね」




ずしりと圧し掛かった言葉に、下唇を噛む。
悔しさなのか、それとも寂しさなのかは分からない。
でも今の言葉は、偽りの無い真実だった。
過去の自分が知ったら、目を背けたくなるような。そんな現実。




「・・・私、今特に目指してるものもないし――」

「もしかして、何かで立ち止まってる?」




ああ、まただ。
彼の苦手なところは、あの腹黒い性格だけでは、どうやらないらしい。
こうして私の気付かなかった現状まで言い当ててしまう彼は、本当に凄い人だと思う。
そしてそれが逆に、自分が受け止めれない物へと繋がっていくのも。
ジムリーダーって、皆こんな感じなのか。バトルのカリスマである、何かが感じ取ってしまうのか。

それをかつての自分にも有った事に、何故か私は寂しさを覚えた。




「ねえ、最近強い子達がいるんだ」




突然語り出したマツバさん。
彼の視線の先を見れば、先程の踊り場の中から二人の子供がくたびれたような顔で出て来ていた。
そしてその顔は、私がよく知っている子達だった。




「彼等、きっと僕に勝つよ」




言った言葉に、私は驚いて彼の顔を見た。
戦う前からジムリーダーは、何を言っているのかと。
だけど彼の目が闘志を燃やしているのを見ると、何故かその言葉は引っ込んでいった。




「きっとチャンピオンリーグで活躍して・・・記録を残す大物になるかもね」

「・・・そっか」

「キミも、そうなると僕は思っていたけど。そうなってないって事は」




「何か理由でもあったんだよね」と、マツバさんは言ってくる。
本当に、なんで今日この人に会ってしまったのか。
後悔してる。でも、少しだけ期待してしまってる自分もいる。
彼ならきっと、答えをみつけてくれそうで。




「僕からジムバッチを受け取った時、チャンピオンを目指すって言ったよね」

「あー・・・・そう言えば」

「先にチャンピオンに勝つって。・・・越えたい人がいるって」




その時、何故か私は肩が震え出した。
怖いとか寒いとか、悲しいとか。そんなんじゃなくて。なんなのか分からないけど。
でもこれと似た感じを、私は何処かで感じた事があった。
赤い少年。彼の背中を思い出した時、私はいつもそれを感じていたのだ。




「彼はキミよりも先に記録を残したみたいだけど、あれから会ってるの?」

「・・・会ったには会いましたけど」

「相手にされなかった?」




図星。私は悔しくてマツバさんを睨むが、彼は涼しい顔で笑っていた。
そして、さも当然かのように「わかるよお」と言う。




「だって今のキミ、彼が一番見たくない顔をしているよ」




その言葉に、一瞬私の頭がフリーズしてしまった。
彼が見たくない顔?私、そんな顔をしていたのか。
自分でも分からないうちに変わってしまったのか。でもいつから?
そうして疑問に思っていることが全てお見通しのかの様に、マツバさんは「いいかい?」と言って私の肩に手を置いた。




「キミはトレーナーとして、僕に勝ったんだ」




だが今いるキミは違う。そう言って彼はポケットからジムバッジを取り出した。
キラリと光に反射して輝くそれは、私がかつて持っていた物を思い出させた。



「彼に会いたいなら、キミはこっちの世界に戻ってくるべきだ。・・・遅くてもいいから」

「・・・え」

「キミが戻ってくることを、エンジュシティのジムリーダーのマツバとして。心から願うよ」



そしてあの子達もと、彼は再び視線を向けた。
疲れた顔をした二人の子供。けどそれは次のバトルへ向かう顔でもある。
今目の前にいるジムリーダーと戦う為の。不安と期待が入り混じった顔だ。
そして「ねえ」と声をかけられ横を振り向けば、ポンポンと頭を撫でられる




「あの子達と、あと彼と。キミは何も変わらないよ」





「だからね」と続けて、マツバさんは綺麗な顔で笑っていた。




「頑張って」




気付けば彼は、私の背中を押してくれていた。
ポンと押し出された私は後ろを振り向く。だが彼はもうすでに私を見てはいなかった。
マツバさんの背中が遠ざかっていく中、彼は大きな声で叫んだ。




「ヒビキ君、コトネちゃん」





これも彼の作戦の内なのかは分からない。
でも私は少しだけ、前とは気持ちが変わっていった。




私も早く、あの三人と同じ場所に、帰りたい。















夢と希望の















冒険してた時の気持ちは、消えてはいない。だた、忘れてただけだ。
エンジュで思い出すなんて、本当に―――






「運がないなあー」






そう笑って、私は彼等に背を向けて歩き出した。

途中、何処かから「うおおおスイクゥウウンンンっだあああああ!!!」とか聞こえたけど、もうこれ以上知り合いと会いたくないから無視しておいた。













NEXT→

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本当はスイ君が出て来てドタバタになる予定だったけど、
マツバさんが笑顔で解決してくれました((

結局最後ドタバタしたけど←
ミナキ空気^o^



11/07/01


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