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「じゃ、これお願いね」



ニッコリと微笑みながら渡してくれた書類を、名前は感動しつつ 大切に抱きしめた。



「はっ、はい」

「それからあの花瓶の水も替えといてくれると嬉しいんだけども」

「は、はい」

「あと、そこの書類の処分と仕分けに・・・・あとは・・」

「あっ、アテナ様」

「なあに?」

「今日も素敵です!」

「そう?有難う」



まるで天使の笑顔かのようにニコリと笑ったアテナに、私の胸はいとも簡単に打ち抜かれた。
最初は色々身体ベタベタ触られて何この人とか思ったけど、彼女が幹部の中で一番人間的な方だと思った。

それもこれも、今までは少しの間だけとは言えポケモンを傷付けてはそれを売る等。
ろくに仕事も出来ずに馬鹿にされ続けたばかりか、今でも一部のしたっぱ達に嫌味を言われ続けてる私に
アテナ様は無理を言わず、ごく普通の仕事を私にさせてくれている。それも凄く親切に。


(ああもう自分ここで良いよ。アテナ様以外の幹部の所でなんか働かないから!)


にへにへ笑いながら、私は花瓶から溢れ出す水も気にせずにジョウロを傾ける。
ぼたぼた落ちていく水を横目で嫌そうに見ながら、昨日の後輩したっぱ君が溜息を吐く。



「名前先輩、」

「はい、なんでしょう」

「水、こぼれてますよ」

「うん、楽しいよね、仕事」

「・・・・・」



ジョウロをひったくられたが、そんなのも気にせずに私は幸せの溜息を吐く。
将来有望である彼と仕事なんてどんだけ大変かと思って来てみたら、それがビックリ。
実に誰でも出来る平凡な仕事を、アテナ様はやらしてくれた。それも、彼も普通にやっている。




「アテナ様、お茶どうぞ」

「有難う」




この部屋で仕事しているしたっぱ達も皆、穏やかな顔をしていた。
どちらかと言えば男が多いが、皆アテナ様が好きなのか。今の私と同じ顔をして仕事をしている。
現に今アテナ様にお茶を渡している彼も、デレデレ顔だ。



「アテナ様、そろそろ時間では」

「ん、あら」



お茶を飲みながら、アテナ様はチラリと視線を時計にやる。
そんな些細な動きですら、声をかけたしたっぱは釘付けになってしまう。
そしてアテナ様は「ご馳走様」と言って席を立った。



「ちょっと出かけなきゃいけないから、ゆっくり仕事しててちょうだい」

「は、はい!」

「行ってらっしゃいませ、アテナ様!」




そう言ってドアまで行くと、最後に私の方へと顔を向ける。
アテナ様の笑顔って反則だよなあと、この時ほど思ったことはあっただろうか。




「・・・後はよろしく頼むわね」

「はい、アテナ様」




だが声をかけたのは、私の横にいた後輩君にだった。
何がよろしくなのか。明らかに私を見て面白そうに笑っているアテナ様と、少し溜息交じりに返事をした後輩に頭を抱える。
と言うか、もしや私今からこの人と仕事するんですか。アテナ様抜きで。




「名前先輩、」

「え、あ。はい」




気付けば皆各自の作業に取り掛かっていた。この切り替えの早さ、皆よっぽどアテナ様を慕っているんだなとか思ってしまう。
呆然とそんなこと思っていたら、いつの間にか私の手の中にあった書類はひょいっと取り上げられていた。
代わり手渡された書類をまじまじと見ていると、上から地図が差し出された。




「これでなんとか出来ますよね」

「え、何が」

「書類見て下さい」

「え」




下に恐る恐る目を向ける。するとそこに写っていたのは見慣れない色をしたポケモン。
そして見覚えのある湖に目を点にしていると、「アテナ様から」と言う言葉が降ってきた。




「これって・・・え、ちょっと待って」

「生憎急ぎの用ですので、手短に説明します」

「え・・え?」

「なんで貴方がアテナ様の部下になったのか、教えてあげましょうか」

「な・・なんでって」




いろんな所で問題起してるし。てかアポロ様が決めたし。
いや、今はこの写真の方が大事だ。
ぎゅっと紙を握り締めて、私は落ち着くために書類をゆっくり胸に抱いた。それでも、目の前にいる彼は口を開く。




「電波の実験に人手が足りないから、協力してほしいと。今いろいろな所から人がそっちに抜かれている」

「電波って・・・・じゃあ」

「ええ。その赤いギャラドスも、電波によって進化しましたよ」

「そ、そんな」




衝撃的な発言に、私は足元がふら付いた。
ヤドンのしっぽの時はまだ余裕があったが、今は違う。
電波でロケット団が何をしようとしているのか、今ここにいる私には分からない事だった。
でももうそろそろ時間がなくなってきていることは確かなようだ。




「あと、計画の為にポケモンの捕獲を他の所属のしたっぱ達に頼んでいるようですよ」

「え」

「それぐらい、今は人手が足りないんですよ。だから名前先輩と僕は現地で見張り番ってだけでもラッキーですかね」




「他の雑用と比べたら」と付け足した彼の台詞に、私は心臓の鼓動が早まっていくのを感じた。
ポケモンの捕獲。それは、そこに捕まえられたポケモン達が保管されていると言うことなのか。
私は此処に入ってきた理由を、今になって思い知らされたような気持ちになる。そして焦っていることも。





「ねえ」

「何ですか」

「それ、いつ行くの?」

「準備が出来次第早急にだそうですよ」

「じゃあ」




すぐ行こう!
そう言って私は地図と書類を持って、彼の腕をひっぱりながらドアへと向かった。
パソコンを打ちながら作業していた他のしたっぱ達はポカンとした様子で見ているが、今はそんなのどうでもいい。


そしてドアを開けた瞬間、私の焦りは過去の記憶へと繋げる物となった。
懐かしいポケモンの顔と、弟の顔を。








「そうやって・・・ずっとウジウジしてっからいつまでたっても戻ってこねーんだよ。今のお前・・・・見てるだけでイライラしてくる」







シルバー。今更かもしれないけど。
本当に、時間がなくなってきているから。



私、頑張るよ















復活への動き















「一応アテナ様には報告しときました」

「うん、有難う」

「・・本当に、もう良いんですか」

「うん、先輩には置手紙しておいたし」




よっ、と荷物の入った鞄を背負って、私は後輩君に笑顔を向ける。
彼が言うには、邪魔が入らないうちに迅速に計画を行うため、そう長くは向こうに居ないらしいから。
移動時間含めて、3日ぐらいらしい。そんな短期間なら、置手紙でも許せるだろうと思った。




『ガーディの餌よろしくお願いします』




向こうに連れて行ったらまた何か起こっては遅いしね。
そう思って、ボールと共に手紙を置いておいた。また怒られるかなとか思ったけど、ガーディが被害にあうよりはよっぽどマシだ。





「行こうか」





目指すはチョウジタウン。
そしてこれが、最大のチャンスだと思う。












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アテナ様の出番すくねええええ
でも絶対出してやる・・・チョウジでからませます
そしてそろそろ新章みたいなの始まります。中盤頃ですが過去ほじくり篇みたいな((
よろしくおねがいします!



11/07/01


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