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「なー、名前ちゃん」



興味深し気に、ニヤニヤ笑いながら目の前いにる幹部様は髭を撫でた。
だがじっと見つめている目は真剣そのもので、私はどうしたものかと視線を逸らす。
それでも彼は相変わらずの笑顔で、私を逃がすことはしなかった。



「お前サカキ様と、どーいう関係だったわけ?」

「し、知りません」

「んなわけねーだろ?さっきこの口から出てきたんだけどなー」

「イタタタタタッ、ちょっ口痛いです」



グギギギと顎を掴まれ、彼の親指が私の唇を押し潰す。たったそれだけのことなのに、私は号泣しそうになった。
なんであの時考えもしないで発言してしまったんだろう。そしてなんで決して言うまいと思ってたことを言ってしまったのか。
後悔しまくりだ。私は人生のどん底に突き落とされた気分に陥る。こんなの、男装がバレた時以来じゃないのか。
サカキ様のことをどう誤魔化そうか。そう思って意味もなく「あー」「うー」と唸っていると、後ろで無言で立っていた先輩が動いた。



「ラムダ様」



持ち歩いていた時計を見ながら、先輩は落ち着いた声でラムダ様に話しかけている。
そんな些細な事さえ、相変わらず凄いと私は感心してしまった。
いや、寧ろよっぽどなことがない限り驚かないように、いつの間にか私がさせてしまっただけなのかもしれないけど。



「そろそろ戻らないと、仕事ヤバイんじゃないっすか」



溜息を吐きながら、少しだけ面倒くさそうに言えば、「えー」と不満の声が漏れる。
だが先輩が小声で何かを呟いた後、ラムダ様は黙り込んだ。
勿論その声は私にまで届くことはなく、二人の間だけに響いて消えてしまう。
少し気になってしまったが、私の事が頭から消えてくれるならこの際もうなんでもいい。

そしてラムダ様は少し考えた後に、少しだけ口角を吊り上げながら呟く。




「あー、まあそうだなぁ」




今回は見逃してやるか。
その言葉を聞いた瞬間、私は嬉しさで心臓が飛び跳ねそうになった。
よかった!面倒事がバレなくて!少しことが遅いような気もするが、今はそんなことどうでも良い。
後でいくらでも言い訳を付け足せば良いじゃないか。そんな気持ちでいたら、目の前まで彼の笑顔が迫ってきていた。




「また今度、じっくり聞かせてくれな?」

「いや、生憎私はアテナ様で予約がいっぱいですので今度はないかと・・」

「あまいなぁ」




にやにや笑いながら、彼は中腰になって私との視線をピッタリと合わせた。
相変わらず私は苦笑いしか出来なく、失礼を承知で全力で嫌だオーラを放ったが、それも意味がなかったようだ。




「あるんだよ、その『今度』が」




まるで次に私と彼が会う事が確定しているかのように。どの言葉よりも意味有り気な声で、彼は私に微笑んできた。
















******

















無言。今はただ廊下が長くて憎らしい。
こんな重い空気の中、私と先輩は部屋に戻っている。そう、最初に言ったように無言で。
助けてくれたは良いけど、まだ私は謝ってもいないし、ガーディの件もあるから尚更だ。
そんな息苦しい中、部屋まで目前と言うところで、一人の人影を発見する。


「あ、」



私が声を漏らせば、部屋の前にいたしたっぱはコチラに視線をやる。
そしてチラリと先輩へと視線を向ければ、隣から軽い溜息を吐くのが聞こえた。



「俺、先部屋に入ってるぜ」



ドアの前に立っていたしたっぱが軽く横に退き、そのまま私の目の前までやってくる。
先輩は何事も無かったかのように部屋へと戻り、ドアが閉まる音と共にまた廊下は静寂に包まれた。



「ど・・・どうしました?」



勇気を振り絞って聞く。そんな簡単な事でさえ酷く緊張してしまうのは何故だろうか。
目の前に立っている彼。直接話したことはないが、確かここ最近「期待の新人」で騒がれてる奴だ。
優秀で、若くて。確か私より後に入団したから、一応私は彼の先輩にあたる訳だが。
なにせ私は「お騒がせ新人」で有名なしたっぱだから、ぶっちゃけ立場的には彼の方が先輩だと思う。
でもそこは彼の性格が許さないのか、ちゃんとした敬語で私に「すみません」って話しかけてくれるから凄い。



「アテナ様から報告があったからきました」



スッとお辞儀をして、背筋をピンと伸ばす。よく見れば、彼は私より背が高い。
そして冷静な声音に、クールな外見がより一層彼を大人に見えさせたから、おもわず私まで「は、はい」と敬語を使ってしまう。



「明日から一緒に仕事をさせてもらいますので、宜しくお願い致します。名前先輩」

「・・・は」



な、なんで。
ただ私にはその言葉だけが頭に残る。いや、本当に何で。
確かに彼はアテナ様の所属だし、私も一応そうだから仕事場で会うのは分かる。
でも何故優秀な彼と私が一緒に仕事を?意味が分からない。てか名前先輩て、ヤベえ。




「いやいやいや、無理無理」

「何でですか」

「だって私、君みたいにそんな凄い仕事とか出来ないからね・・!」

「大丈夫ですよ」




そういって目の前のしたっぱ君は何処かつまらなそうな顔をして、床を見る。
独り言の様に、溜息を吐きながら彼は呟いた。





「簡単な仕事ですから、先輩」






最後の「先輩」を強調して、彼は深く帽子を被り直した。
そしてゆっくりとさって行く彼の背中に、妙な気持ちが生まれる。




もしかして私
















馬鹿にされた














「何なのあの子・・・恐ろしい子・・!」




冷や汗をかきながら、私はドアを開けた。
何でか知らないけど先歩から心臓がドクドクと五月蝿い。きっと一度に色んなことが起こりすぎて動揺してるだけだよね。平常心、平常心だよ私。
とりあえず一杯飲んで落ち着こうか。そう自分に言いきかせて私は高速移動さながら震える手で食器棚を握る。
本当どんだけチキンだ私は。そしてコップが握れない。水飲めねえ。




「おらよ」




にゅっと後ろから伸びてきた手に、私は顔を上げる。
そこには一杯の水が入ったコップを持った、先輩が居た。




「あ、ありがとうございます」




お礼を言って、コップを受け取る。
だが逆に手が震えてしまって、私はうまくコップを受け取ることが出来なかった。
そのせいか、水がびしゃっと床に落ちる。本当に、今なら死ねる、私。



「ご、ごめんなさい、すぐ拭きま・・」




「す」と、最後まで言い終わる前に、ダンッと私の体が食器棚に押し付けられる。
残ったコップの中の水が服にかかってしまったが、そんな事も気にせずに、先輩は私の手首をギリギリと握る。
幸いガラスじゃなくて良かった。そんな事を思いながら、カランと手からコップが落ちた。





「お前さあ」





無表情で、先輩は俯きながらポツリと言う。
顔はあまりよく見えないが、彼が凄く真剣な事だけは分かった。




「いい加減、大人しくしてろ」

「え・・・」

「お前そこの辺の馬鹿な新人したっぱと変わらねえだろ?だったら、アイツ等みたいにしてろよ」



「普通にしててくれ」と何度も言う彼に、私は疑問を抱く。
面倒だからなのか。だがそんなのいつも言われているから、何を今更。




「俺は馬鹿な新人を指導する役目なんだぜ・・・なのになんで」




そこで彼の声が少しだけ震えているのに、私は気付く。
もしかして、と思った予想は的中していた。




「お前は他のしたっぱと違って、普通じゃないんだよ・・・何でお前ばっかり」




グッと近くなった顔に、私は息を呑んだ。
彼の顔がやっと見れたのに安心したのと、真っ赤な顔に少しだけ涙目な表情に胸が締め付けられた。






「俺様を心配させんなよ!したっぱのしたっぱが!」






ずっと言いたかった事がやっと言えたかのように、彼は肩を少しだけ落とす。
そして私は、先程の事で心配してくれた先輩に、ぶわっと涙を流した。





「うわあああ!もう好きいいいい!!」

「調子にのんなよ」

「へぶっ!」




ドンッと、今度は床に押し付けられ、私は床に歯を勢いよくぶつける。え、何このプレイ、聞いてない。
そっと後ろを振り向けば、怒った先輩の顔が私を見下ろしている。
ああ、折角先輩の泣き顔が見れると思ったのに、どうやらもうすっかり引っ込んでしまったようだ。
ていうか寧ろニヤリって笑ってるような・・・うわドS顔だよねこれ。




「あ・・・あの」

「お前さんざん人に迷惑掛けておいて謝罪の一言もねえのかよ」

「あ・・・いや・・・」

「何とか言えよ、ああ?」

「ぐああああ、痛い痛いギブギブ、マジ私今から仕事!仕事!」

「俺様だって仕事だぞあああ”」

「痛いから寝技はやめて!!ってか柔道やってました!?」

「ゴチャゴチャ言ってねえで謝ったらどうだ!」

「どっ・・ドS!!はあはあ・・・ゴメンなさい・・・ああ萌え」

「余分な言葉を入れんじゃねえ!」

「ぎゃー!」





この日のお昼は最後まで先輩にメリメリと身体を変な方向に曲がらされて終わった。マジあの糞ヤドン仕事から帰ってきたらしばく。














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糞ヤドンがでしゃばったな((
次はアテナ様ああああ



11/07/01

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