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バチバチと火花が散り、戦場と化したこの場で私は肩を震わす。
怖い。何がって先輩達が本当に人を殺しそうな目で彼等を睨みつけているのが、凄く怖い。
そして今にも始まりそうなバトルを目の前にして、私はガーディをぎゅっと抱きしめた。
どうか、早く終わりますように。できれば皆が元気なままでお願いしたい。
骨折とか絶対しそう。そう何度も心の中で呟いていたら、私は「ん?」と少しの疑問を感じた。

気のせいかな。そう思って無意識の内に瞑っていた目を開く。
パチリと瞬きをするが、やはり何かがおかしい。
何故ならこの場に居るのは私を含めて5人のはず。なのに何で。




目の前に4人の人物を視界に映して、私の肩に誰かの手がのせられているのだろうか。




しかもそれは馴れ馴れしく置かれていて、結構な体重を肩にかけられている。
見たくはないが、勇気を振り絞って横をゆっくりと向く。ギギギと錆びついた機械のように首を動かせば、そこには見知った顔が一つ。






「よお」






遊びに来たぜ まるでそんなノリで言葉を発した彼に、私は度肝を抜かれた。
そしてその声に気付いた彼等も一斉にこちらを見る。やはり私と同じく大きく目を見開いて。





「なーんか楽しそうな事やってるねえボウヤ達。オジさんもまぜてくんない?」





ニヤニヤと笑いながら手をヒラリと振ってみせた彼に、一瞬時間が止まったようにも思えた。
だがそれを打ち破るかのように、その原因でもある彼が再び「なあ」と喋り出す。





「聞こえてんだろ、とっととしろよ糞ガキ」





ドスの効いた声で睨み付けた途端、この場が凍りついたかのように寒気で満ち溢れる。
私はそれを誰よりも近い位置で聞いたものだから、更にカタカタと震えた。これ、着ボイスにしたら寝坊しなさそう。
くだらない事を考えているだけ、まだ私には余裕があったのかもしれない。そう思わせたのは、目の前にいるアポロ様のしたっぱ達の顔。
真っ青にさせ、今にも死にそうな唇の色。そして動揺を隠し切れない表情が実にリアル過ぎて、ぶっちゃけこっちの方が怖かった。






「あっ・・あああアポロ様にバレてしまう・・・!」

「くそっ、邪魔な虫が2匹来なければ・・・すぐ片付けられたものを」

「兎に角戻りましょう、あまり大事になっては俺達が危ない・・!」





おそらく虫2匹であろう彼等に目をやれば「ああ”?」と酷く怖い目をして睨みつけていた。
二人とも俺様なだけあってか、妙に変な所でプライドが高い。それも耳が凄くいいだけあってか。




「落ち着いてください、先輩。私助けてもらって凄く嬉しいですから!虫じゃなくてヒーローですよ」

「ああ?お前虫って言われて嬉しいか?コイツと一緒に。なあひゃひゃひゃ虫」

「そうだなヤドン虫」

「・・・・やんのか?」




なんでこの二人が喧嘩してるのか。先輩達は私よりも大人なんだから、言い合うなら後にしてほしい。
そして先輩達を最後まで睨みつけながら先程の彼等は走り出すと、最後に私を見てニタリと微笑んだ。





「ああ、3匹だったか」





そう言って彼等は素早く姿を消した。それはもう忍者さながら。素晴らしいものだった。
そして横からじっと感じる先輩達の視線。無言の気持ちが分かってしまって更に私の頭は冷静さをうしなった。




「何あのガキ!チクショー!!!」

「落ち着け、言葉が乱れてるぜ」




私も仲間入りした事で少し冷静さを取り戻した先輩の反応がなんかウザい。本人に言うと怖いから言わないけど。
ギリギリと拳を震わせながら耐えていると、横からまたしても「プッ」と笑う声が聞こえた。
忘れてた。そう思って、笑っている彼の方へ振り返る。突然、そこにはゲラゲラと笑っている上司の姿があった。




「あー、お前等おもしれーな。単純馬鹿って奴?そういう部下俺様可愛くてたまんねーよ」

「ラムダ様、いい加減肩から手離して下さい。セクハラですよ」

「いーじゃねえの。肩ぐらい抱いたって」

「じゃあ鎖骨撫でるの止めてもらえます?」

「・・・チッ」




最後に舌打ちが聞こえたのはこの際流しておこう。今はとりあえずラムダ様が私の肩から離れただけでも幸運だと思うことにする。
そうやって自分に暗示をかけながら彼から少しずつ距離を広げる。さりげなく先輩の後ろに隠れるようにすると、ラムダ様は目を見開いた。




「なんだよ、せっかく俺様がアイツ等から助けてやったのによお」

「いやそれに関しては本当に有難う御座いました。流石幹部様のお力いや凄い凄いビックリシタナー」

「うわー・・・俺こんなに棒読みで上司に感謝してる奴初めてみたぜ」

「ひゃひゃ、だからコイツは面白いって言ったじゃないですか」

「あー、そうだったなあ」




何、いつのまに私についての話しをしたんだこの人達は。確かに部下と上司だろうけど。
「今時こんな度胸のある奴いねーしなあ」とか言って楽しそうに髭を撫でているラムダ様と、その部下である彼の笑い声。
なんとも独特な雰囲気をもつこの空間に、私は動揺してしまう。



「あー、そんな怖がんな、ただの世間話程度だからよ」



ニッと笑ってラムダは私に軽くウインクをする。それに「良い歳して・・」と嫌そうな顔をする部下の彼。
そういえば、私この人たちがこうやって仕事以外で話しているのあまり聞いたこと無いけど、仲良いのかな。



(初めて会った時はラムダ様ってもっと怖い人かと思ってたけど・・・でもこうして見てると良い人そう)




意外な一面に呆けていると、何故か再びバチリとラムダ様と合う視線。うわ、なんか少し危ないかも。
しかも私の危険の察知もあながち間違ってはいなくて、彼はするりと私の腰に腕を回すと、熱い溜息のような囁きを私の耳に吹きかける。



「なあ、とりあえず」



視線はとろけるように、片方の指は私の耳裏を撫で付けながら、ぞくぞくする感覚を彼は私に注ぐ。



「今日、俺様の部屋くるか?」

「いい加減にしてくださいよ」



ベリッと私からラムダ様を勢い良く引き剥がすと、いつもの独特の笑いは何処へ消えたのか。余裕の無い顔で下っ端の彼は冷や汗をかいていた。
そしてそれを楽しそうにラムダ様は唇を舐めながら、ニタリと笑う。



「俺様可愛い子に目がないんだよ。特に若い新人は楽しそうでいいじゃねえか。色々と」

「とんだエロ上司ですね・・アンタ」




いつもの「ひゃひゃひゃっ」と言った笑い声は出ず、少し疲れたような声で彼はそう呟いた。
そして先輩はというと、ずっと石のように固まっていた。
私はきっと、大人の怖さに涙が出てたんだと思う。
ラムダ様は相変わらず私の腰を離さないし・・。なんなんだこの状況は。
















俺様上司


















「ていうか本当にアポロ直属の部下っていたんだなー」

「知らなかったんですか」

「いや、なんていうかアイツ等弱いじゃん?」




サラリと言ってのけたラムダ様に、私は肩を落とした。
よくあんな強面の猛獣よろしくな二匹を見て言えるよな、と思ったけど口には出さなかった私偉い。成長したな。

もうよっぽどなことが無い限り驚かないぞ。自信満々に一人意気込んでいると、不意にラムダ様が「なあ」と話しかけてくる。




「嬢ちゃんはポケモンバトル弱いのか?」




おもわず私はぐっ、と喉から声がつっかえてしまった。今此処でそれを言いますか、この上司さんは。
情報収集と興味本位と言ったところか。目の前で獲物を捕らえたかのようにギラつかせた瞳に、私は苦笑いをしながらぎこちなく答える。




「いや、弱いっていうか・・・今手持ちいないので」

「ほお・・・なら過去には?」

「過去・・・は」





そこで呆然と過去の記憶を思い返す。昔の栄光、仲間、そしてライバル。
一緒に旅をしてきてくれた大切なポケモン。いや、友達のような存在であるあの子達に、もう一度―――
思い出してはいけないはずなのに、どんどん意識が過去へと引き込まれていってしまう。
私は自分のポケモン達がまるで此処に居るかのように、会いたい一心でそんな気持ちになってしまっていた。
そしてラムダ様が話しかけてきても、私の心は過去に囚われたままだ。勿論再び「じゃあ」と言われても、ぼうっとラムダ様に向くだけ。





「いたんだな、一応」

「そうですねー・・・いたって言えば・・いましたねえ」

「ほおー・・・なんか訳ありそうだなあ」

「ええ」

「なー、なんで今いねえの?」

「あー、それはサカキ様が・・」

「・・・・・サカキ様?」



あ、ちょっとまって今の無し。カットカット。いや本当に。ぼーっとしすぎてた私!
バッと口元を両手で押さえるが、それが更に真実味を増してしまった。
目の前にいる男3人は、私を見て黙りきってしまった。それも凄い視線で。






「なあ、お前って」






此処くる前まで何してた?

そんな言葉が聞こえてきた。












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普通にラムダ様にからませたかったんだ・・・!
そして動揺してるひゃひゃひゃ君、二人で漫才するぐらい仲良かったら萌え禿げる((



11/07/01


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