RE:START(男主)
変態と拉致B
バシャンと顔にかけられた冷水に、コウはゆっくりと目を開けた。
一番最初、視界に写ったのは、ミュウツーの姿。
「やっと、目が覚めたか。人間」
「ここは……」
「私の基地だ」
「……」
辺りを見回した様子だと、洞窟の奥地みたいだ。横を見ると大きな湖があって、正直驚いた。
視線の低さから考えて、どうやら、地面に寝かされているらしい。体を動かしてみようとしたが、先程の感覚に痺れたような感覚が合わさって動きそうもない。
「私のかなしばりに合わせて、お前が寝ている間に、多種多様の痺れ薬を嗅がせたからな。指一本動かせないだろう」
「俺に、なんの、用が、あるの?」
「言っただろう。興味があると」
「なんで、俺に?」
「勘違いするな。別にお前自身には、興味などない。私が興味あるのは、お前の体だ」
「体?」
どういう事だ? 何故、体? なんだか、此処に来てからは疑問しか浮かんでないような気がする。
体に興味があるという疑問は、次のミュウツーの発言で解決したが。
「お前の体、アルセウスが作ったのだろ? あの気まぐれが、人間の体を作ったなど前代未聞だ。珍しいなんてものじゃない。天変地異に相当するほどの事だ。そんな体を与えられた奴が目の前に現れれば、誰だって興味を持つだろ」
「……」
「人間は、全く好かんが、アルセウスが作った人間の体なら話は別だ。お前は今日から私のコレクションにする。異論は認めない」
「……」
「近いうちにユクシーを呼んで、お前の記憶を消して貰おう。記憶があると面倒な事しかないからな」
「――な」
「ん?」
「ふざけるな!! 俺は、お前の、モノ、じゃない!!!!」
「な!?」
怒声と共に起き上がったコウは、そのままミュウツーを押し倒し、隠し持っていたナイフを首筋にあてる。まだ手には痺れが残っていたが、怒りに任せたこの体は、その痺れすら感じないかのようにしっかりとナイフを握っていた。
まさに、形勢逆転。そんな中で、ミュウツーの表情は、怒っても悔しがってもいなかった。
「くくく。まさか、私のかなしばりが解かれるとはな」
彼は、笑っていた。悪者のような不気味な笑い。それは、恐怖を呼び起こし、絶望感を与えるようなものだ。
しかし、コウの中で生まれたのは、恐怖でも絶望感でもなく、ただ純粋な怒りと殺意だった。
「……殺され、たいの?」
「いや、まだ殺されるのはごめんだな。ただ、思ってしまったよ。……余計、お前を私のコレクションに加えたいと」
彼が言い終わった瞬間、コウは見えない何かに吹っ飛ばされた。なんとか体制を整え、地面に足を擦った刹那、飛んできたミュウツーの蹴りを、腕で防ぐ。
薬の痺れとはまた違う腕全体に広がるじんわりとした痺れ。それは、ミュウツーの蹴りの重さを物語っていた。衝撃を緩和する行動をきちんとしてなかったら、きっと骨折していただろう。
「私を楽しませてくれよ人間!!」
また飛んできた足をコウは掴み、それを軸に、ミュウツーを地面に沈めようとする。が、その数瞬で体制を立て直したミュウツーから出された鋭い拳を手の平で受け止め、鳩尾へ向かって持っていたナイフを刺そうとした。しかし、ミュウツーが体を後退させた為、ナイフはミュウツーの服を切るだけに止まる。
チッ! とコウの口から舌打ちが出たのは、致し方ないだろう。
「やるな。人間」
「どうも」
少し離れていた距離を一気に積め、2人の手が繰り出され、防ぎ、また繰り出す。両者一歩も引かない攻防。それは、人の目で辛うじて見えるか見えないか位、速い。
「まだだ。まだだ!」
歪む表情を浮かべながら、コウに突っ込むミュウツー。コウもそれを防ごうと構える。が、
「「お前ら、なにやってんだ!!」」
「ごぶぅ!!」
「あだ!」
それぞれの頭に、クリムとダイルの拳骨が落ちた。まぁ、クリムは拳骨に続き、踵落としが加わったので、それを受け、地面に倒れたミュウツーは目を回していたが。
「たく、本当になにやってんだよ、おめぇらは」
「……喧嘩?」
「なんでそこで疑問系なのさ」
「と言うより、コウ! なんで此処に入ってんだよ!! 入るなって言っただろうが」
「クリム、達が、遅かった、から」
「……まぁ、あれだけスバットやらゴルバットやらイシツブテやらゴローンやらに囲まれれば、流石にクリムの旦那やルイ嬢ちゃんがいても骨が折れるって。まぁ、途中でナギの旦那とトウリ嬢ちゃんが来てくれたから、思ったよりも速く片付いたけど」
「で、ルイとトウリとナギは? 怪我は?」
「後から来る。怪我もねーよ」
クリムの言葉に、コウはホッと息を吐く。ダイルが骨が折れると言うくらいなのだから、かなりの数だったのだろう。下手したら、怪我をしていたかもしれないと思うと、何事もなくて良かったと本当に思う。
「じゃ、帰ろ」
多分、外はもう夜明けに近いだろう。ルイやトウリの事も考え、早く帰りたいし、もう今日はへとへとと言っても良いほどコウも疲れていた。早く寝てしまいたい。
「そう言えば、コウ。クリムが殴ったそいつってだ……あれ? いない」
「あいつなら、さっき消えたぞ」
「消えたって……。あれなんなのさ。ポケモンっていうのは分かったけど、見たことはないよ」
「まぁ、ミュウツーは、大概この洞窟内にいるからな。知ってる奴も少ねぇだろうな」
「うっそ、あいつが、あのミュウツーなの!?」
「あの?」
あのっていうことは、それなりに有名なのだろうか? コウ自身には、ウツギ博士やヨウジから聞いた情報しか持っていない。きっと、ダイルが言っているのは、ポケモンだけが知っている情報だろう。
「ミュウツーって言ったら、変態コレクターでかなり有名だよ。なんでも、気に入ったモノが手に入るなら、それが生きていようと死んでいようと全く構わないって聞いてるけど、違ったっけ。クリムの旦那」
「大幅合ってんな。ちなみに、今のあいつのマイブームは、神に纏わるモノらしい」
「………………」
「おめー。案の定、目、付けられたな。だから、洞窟はいんなって言ったんだぜ。あいつ、諦め悪いぞ」
「次、来たら、殺す。あいつ、嫌い。俺の、声を、潰そう、とした、ヤツに、似てる」
思い出したのか。コウの眉間にシワが寄っていた。無表情が殆どなコウが、こんな表情を浮かべているのを見たのは、クリムだけではなく、ダイルも初めてだった。
と言うより、コウが心を許している人物以外に感情を表す事自体、稀な事だったりする。しかも、無関心が取り得の彼が、嫌悪感を記す奴など早々にいないだろう。
「なんでだ。コウの見たこと無い一面が見れて嬉しいはずなのに、すっげームカつく」
今度、ミュウツーに会ったら一発殴るか。そんな事をクリムは思いながら、コウ達と共に洞窟を後にするのであった。
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