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小説
伸ばした腕
とくになにもない平日の夜。


その日は、珍しくパパの帰りが早かった。


「リカ。ちょっと話があるんだが。」


珍しくなにかしら。成績は落ちてないはずだたけど。


「なに?改まって。」

「すぐに終わるさ。はは、リカみたいな出来の良い子を叱ったりしないから安心をし。」


あたしは、洗い物をやめて、義五智なくテーブル席に座った。


「リカ。お見合いをしてみないか?
パパの知り合いで、とても紳士な男性がいるんだが、リカの話をしたら、とても気に入ったようでね。」


「はあ?会ったこともないのに?」

「はあ?、なんて汚い言葉遣いよしなさい。いいじゃないか。仕事もしっかりしてるし、将来性もある人だ。
会ってみるだけでも構わないし、どうかね?」


面倒だわ。

お互い、サイコンしたいからよね?

遠回しに邪魔だって言われてるのくらいわかる。魂胆がみえみえなのよ。



「あたし、恋人がいるのよ?」

「彼と結婚したいのかい?」

「そうよ。愛しているわ。
パパには悪いけど、彼以外、考えられないの。」


あたしは、断る理由にタカヒロを使ったことに罪悪感などなかった。


あたしは作り話を次々並べた。


「彼だって、期待されてる若手のデザイナーよ。
まだお互い若いし、結婚できるほど大人じゃないけど将来のことは二人で話しているわ。」



「そうか!そうか!それはよかった!
リカには専業主婦が向いている。
彼の仕事を捗らせるためにも、早めに結婚をしたらどうだ?
金が必要ならいくらでもパパが援助するさ。」



医学大学に放り込んでおいて専業主婦になれって、随分ね。




「パパ。お金の援助は、彼のプライドに傷がつくと思うの。
あたしたち二人でやっていきたいのよ。」



どうにか黙らせてやろうと、早口で攻撃を続けた。


「あたしは結婚はちゃんと大人になってからすべきだと思うの。
わたしも彼も、まだ子供だもの、早まらないほうがいいわ。」



パパはしばらく黙って、これは困ったな、という顔をした。


それから無念を嘆くように呟いた。



「...そうか。リカはじゅうぶん大人だけどな。」




そうね、パパより全然大人よ。




あたしが涙を何度も飲み込んだことなんて知らないでしょう?


あたしの胸が張り裂けそうになっていることも...。







あたしは、これからどう生きていくんだろう?

あたしは、誰のもとで幸せになればいいのだろう?




自分がどうしたいか、なんて考えは怖い。

そんなの慣れてない。







なのに、少しずつ芽生え始めた気持ちに、戸惑って仕方がなかった。



会いたい人がいる。



あたしは、ただ一人、未だに求めて止まない人がいる。



抑えられない自分の欲求を否定することなど、もうできなくて。



掴みたくて伸ばした腕が、あなたを求めて言うことを聞かないの。





あなたの背中に。

髪に。

長い睫毛に。




触れたいの。



もう一度、で良い。






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