■耳から始まる恋もある!
3
「といっても、多忙の会長だし、すぐ忘れるんじゃない?」
「……、…、…そっか。」
それはそれで、悲しいかも…と思っていると、
「…、もう!大丈夫だよ、もしかしたら気になって、向こうが探してくれるかもでしょ?」
と、キョーが慰めてくれた。
それは凄く、希望的観測だな…と思ったが、ふとあることを思い出してザッと血の気が引く。
「…!そ、そ、それは、困る!」
「…何で。」
「…、…。」
「…ヨイチ?」
「…俺、その、会長の声聞いて…、その…、た、勃っちゃったんだ…。」
「…、…は?」
「だ、だから…」
ほぼ半泣きになりながら、もう一度言おうと口を開くと、聞こえてる、とキョー。
「…声フェチって、そんな風になんの?」
「…違う、会長が変なんだ。俺、確かに声フェチだけど、他の人のは大丈夫だし…。」
「…ふーん。」
納得した様に頷くキョーにとは対照的に、俺は非常に焦っていた。
別段耳がいいという訳ではないし、声フェチといっても、ああ良い声だな…と思う程度の筈だったのに…。
そもそも、会長への一目惚れの原因もそこにあるのだ。
それは一年の入学式。
舞う桜に見惚れていると、あっという間にはぐれてしまった俺。
幸い校舎が見える位置だったため、その方向へ歩き出した。
暫く歩くと校舎の入り口が見え、その入り口からは男が携帯で何やら話しながらこちらに向かって歩いてくる途中であった。
携帯を耳に当てて歩いているだけなのに、こうも絵になるのは何故だろう。
俺の身体のあちこちに花びらがついているのか、一歩足を踏み出すたびにふわりふわりと花びらが舞う。
それを少し面白いなぁ…思うと同時に、目の前に迫っている男をカッコいいなぁ…とも思いながら、その横をすれ違う。
小さな風と共に、低い落ち着いた声が、俺の耳に届く。
その声に、一瞬腰が抜けるような感覚。
ガクリとほんのわずかに膝が折れ、思わず歩みを止めてしまう。
耳を押さえて、思いっきり振り返る。
心臓が、ばくんばくんっと大きな音を掻き鳴らし、体温が上がっているのが分かった。
きっと顔は真っ赤だ。
身体中が熱い…。
一目惚れならぬ一耳惚れをしてしまったのだ。
後にその男が会長であることを知り、茫然としてしまったのは無理も無いことだろう。
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