■耳から始まる恋もある!
2
何故厄介かというと…、
この学校は全寮制の男子校。
ゲイ、バイが全体の9割近くを占め、顔の良い者にはアイドルさながらの親衛隊なるものが存在する。
不用意に近づこうもんなら、制裁という名のお呼び出しがかかるのだ。
制裁の内容は想像に任せる。
あ、キョーにはないのかと思われた方も多いだろう。
なんせあの美貌だ。
当然、親衛隊が出来るレベルである。
結論から言うと、存在しない。
キョーのバックには、それはそれは怖い人がいるのだ。
ヤのつく自由業の人とかじゃないよ?
まぁ、その話はおいおい話すとして…。
「…よくねーよ…。すげー急だったんだ…。話しかけられたのに、逃げちゃった…。」
せっかくの機会だったのに…と肩を落とした。
そんな俺を見てため息を一つ付き、
「…どこで?」
と短く尋ねてくるキョー。
「化学室。」
「あー…一限目の後ね。片づけ頼まれたんだっけ?」
運悪く今日の日付は、俺の出席番号。
簡単な片付けで終わる予定だったのに…。
「そう。んで、終わって帰ろうとしたら、会長が…」
「…ふーん。何の用だったんだろうね。」
「え?気にすんのソコ!?」
「ん?あー…、こめん。…それでヨイチ二限出なかったの?」
「え、ああ、うん。走って逃げたら迷った。」
「…、…ヨイチに期待した僕がバカだったよ。」
「…キョー…。」
何を隠そう、俺は酷い方向音痴だ。
この学校がいくら広いとはいえ、二年近く居れば、大方把握出来るはずなのだが、行き帰りはキョーとだし、教室移動も同じ、ましてや帰宅部となれば覚えないのも無理はない。
キョーの目線が怖いので、余り胸を張って言えることではないのだが…。
散々、覚えろと言われ続け、後回しにしてきたツケが今日回ってきたのだろう。
落とした肩が、ますます落ち込んで、なんか凄く悲しい。
「…ごめん、ちゃんと覚える…。」
「それがいいと思うよ。」
「…うん。」
「で?何て話しかけられたの?」
「…、お前誰だ?って。俺が固まってたら、何してんだ?ってノート見られて…。あー…もっとキレイな字で書いときゃよかったー!」
「…で?」
「…ここムズいよなー…って、笑って…、」
「ああ、その笑顔にヤラれて、逃げて来たと。」
「…ソウデス。」
会長は絶対変に思ったはずだ。
俺だって、声掛けて何も言わずに逃げられたら、は?って思うし…。
「まぁ、変に思われただろうね。」
キョーは俺の心が読めるんだろうか?
なんというドンピシャ。
「…ヨイチ、顔に出てるからね。ヨイチ程分かりやすい顔はないよ。」
…何だ、それは。
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