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石楠花物語中学生時代
不思議な出会い

通学路
   麻衣と千里が並んで帰っている。

麻衣「でもせんちゃん、今日は良かったに。あんた、溌剌堂々としとってかっこよかったに。」
千里「本当に?なら良かった…」
麻衣「ん!!これで少し自信ついた?」
千里「まぁ、ちょっとはね…でも、そのときはついたと思っても…」

   下を向いたままもじもじ。

千里「数週間、数ヵ月と日をおいちゃうとダメなんだ…又すぐに逆戻りさ…」

   ため息。

千里「どうしよう…僕、今年の九月がピアノの発表会なんだ…」
麻衣「まぁ、ほーなの?実は私も。あんた何処のピアノ教室?」
千里「僕はね…少し遠いけど…富士見の富里の、芳江先生のところへ行ってるの…」
麻衣「まぁ!!実は私も!!」

   千里、驚いて立ち止まる。

千里「それ、本当に!?」 
麻衣「えぇ!!せんちゃんもそうだなんてビックリ!!でも、諏訪からなんてえらい遠いな…どいで?京都から来たばっかの頃は富士見の方に住んでいたとか?」
千里「いや、そうじゃないんだ。ママがこっちでも僕がピアノやりたいっていったら色々と探してくれて、見つけたのがそこだったんだ。お月謝安いのに、結構名門らしいから…」
麻衣「確かに!!」

   二人、笑いながら歩いている。


岩波家・和室
   岩波、幸恵、健司。健司、座蒲団の上に正座をしている。岩波はテストの答案を持っている。

岩波「健司っ!!お前ってやつは…又もこんな点をとって!!岩波の次男として恥ずかしくないのかっ!!」
幸恵「そうよ!!もっとちゃんとお勉強しなさいっ!!やらないからこうなるのです。」
健司「俺だってちゃんとやってるよ!」
幸恵「ちゃんとやっているのなら、何でこんな点数になるのです!?あなたは、本当に岩波の息子として」
健司「別に恥ずかしくねぇーよ!!」
岩波「分かった…こうしよう…」

   立ち上がる。

岩波「健司、お前のために家庭教師を雇うことにする!!」
健司「か、家庭教師をっ!?」
幸恵「そうよ。いいでしょう…家政婦兼、家庭教師をやってくださるいい方がいらっしゃるらしいのよ。あなたたちも大きくなったから、母さんもそろそろ仕事に復帰したいと思ってる。だから母さんも丁度…」
健司「ならいいだろう、家政婦だけで!!」
幸恵「いいじゃないの。そんな方がいらっしゃるのなら一石二鳥だわ。いつまでも悟にあなたの勉強付き合わせるのも可哀想ですものね。」
岩波「では健司、これで決まりだ。意義はないな…解散。」
 
   二人、部屋を出ていく。

健司「お、おいっ、ちょっと待てよ!!俺家庭教師についての勉強なんて絶対に嫌だからなっ!!おいっ!!きんてんのかよぉ!!親父!!お袋っ!!」
幸恵「少し考えますっ!!嫌ならしっかりと勉強やりなさいっ。もしこの次でいい点が取れないようなら…おやつとお夕飯は抜きにします。そして、家庭教師もつけさせていただきますっ!!いいですね。」

   健司もむっつりとして立ち上がり、部屋を出る。出入り口には岩波悟。

健司「兄貴…盗み聞きかよ…?」
悟「タケ、お前はいつでも説教の種がつきないな。」
健司「ったく、怒らなくていいこんで怒られてんだぜ?俺は!!どいで!!」

   悟にテストの答案を見せる。

健司「国語85点、数学76点、理科89点、社会99点、英語90点の平均点439点であんなにお説教されなくちゃいけねぇーんだよ!!俺にはさっぱり意味わかんねぇ。」

   ツンッと鼻を鳴らして自分の部屋へと階段を登っていく。

白樺高原・コスモス湖岸
   麻衣、健司、田中磨子、リータ

健司「ってわけ。どいで400点以上もとってるだに怒られなくちゃいけないんだ?」
麻衣「確かにねぇ…今回はあんたのいうこんも一理あるわ。」
健司「おいっ、今回はってどいこんだよ!!今回はってのはよぉ!!」
磨子「ほりゃ、あんたの家系が如何に優秀かってことね。みんなつまり、あんたよりいい点数とったのよ。だからあんたが赤点に見える。」
健司「てっめえまーらなぁ!!」
リータ「で?あんたは家庭教師がつくのかい?つかんのかい?」
健司「家庭教師なんていやっ!!絶対にいやっ!!」

   ツンッとして湖に思いっきり石を投げ入れる。

磨子「で、麻衣ちゃんの方は?最近の暮らしはどう?仕事終わってからも上手くやってる?」
麻衣「えぇ、今かりん水の生産を始めたの。ほれを手伝っとる。三月までな。後はまぁ、凍み大根。」

   ため息をつく。

麻衣「春が来たら…又私は転校させられる。」
健司「は、又転校かよ?」
磨子「今度は何処へ?」
麻衣「茅野だに。…茅野の東中…」 
リータ「何?又って?」
磨子「麻衣ちゃんね、気の毒なくらい小学校の頃から転校が多いのよ。」
リータ「何で?」
磨子「麻衣ちゃんや、麻衣ちゃんのご両親が仕事やお手伝いで親戚の家や学校圏内にその度に駆り出されるからよ。」
リータ「そんなぁ、めんどくさいぜ…」
麻衣「だらぁ?」
健司「ふんとぉーにな。麻衣も大変だよな…ほの度に…。あーあ、俺も親父の会社さえ原村なんかになければ俺だって…」

   ため息。
 
磨子「あんたはダメさ。」
健司「どいでだよ?」
磨子「だって、原村に新しいお家を建てて永住することが決まったんだら?きっとお父様もその土地に住みたかったからそこに建てたんよ。なら転校は当たり前よ。私たちが言ってるのは、麻衣ちゃんみたいな引っ越し娘の事よ。」
健司「ちえっ、ん?」

   ニヤリ

健司「なら、千里は?」
麻衣「せんちゃん?あぁ…彼にはまだ話してないんよ…」

   申し訳なさそう。

麻衣「きっと彼、寂しがるだろうなぁ…折角お友達になれたのに…」
磨子「千里君って、去年のエレベーターの子でしょ?」
麻衣「ほーよ。」
磨子「諏訪にいるんでしょ?」
麻衣「えぇ…」
磨子「なら又いつでも会おうと思えば会えるじゃない!!もしあれなら彼もコスモス湖岸に連れておいでよ。私も又あの子に会いたいし…みんなで遊べばいいわ。」
リータ「そうだよ!!私も会ってみたいしさ。まぁ…去年のエレベーターっつーのは全く分からないけど…」
麻衣、健司、磨子「去年じゃなくて、一昨年だっ!!」
磨子「あれ、リータ…あんたに話してなかったっけ?」
リータ「いやっ、何も聞いてないよ。」
磨子「あのね…」

   話をし出す。リータ、ほーほーと聞き入っている。


小口家・千里の部屋
   千里、勉強机に向かって勉強をしながら頭を悩ませている。

千里(あー…どうしよう、どうしよう…でも僕にはやっぱり言う勇気なんてないよ…あの叔母さんに立ち向かうだなんて…僕には一生無理だ…)

   時計がなる。

千里(タイムリミット…5問も解けなかったよ…。これじゃあ又叔母さんにこっぴどく叱られる。)

   震え上がる。

千里(ふーっ…何かトイレ行きたくなっちゃったよ…)

   部屋を出ていく。


同・トイレ前
   千里が入ろうとする。そこへ電話。

千里(あ、電話!!)

   電話の元へ行って受話器を取る。

千里「はい、こちら小口…」

   嬉しそう 

千里「あ、麻衣ちゃん!?何?」
麻衣の声「あ、千里君?もしこれから空いていたら私のお家へ来ない?丁度美味しいかりんのお煮物とかりんのヤックァを作ったのよ!!」
千里「わぁ!?本当に!?行く行く行くっ!!絶対に行くっ!!」

   ルンルンと有頂天で防寒をすると家を出ていく。


高橋家
   チャイムがなる。

千里の声「麻衣ちゃんーっ!!来たよぉ!!」
麻衣「はーいっ!!」

   千里が入ってくる。

麻衣「いらっしゃい。さぁ、上がって。」
千里「ありがとう、お邪魔します。」

同・麻衣の部屋

麻衣「どうぞ。」
千里「うんっ!!」

   畳に座る。 

麻衣「ちょっと待っててね、今お茶用意するわ。」

   出ていこうとする。

麻衣「何して遊ぶ?」
千里「えーとねぇ、何がいいかなぁ…」

   キョロキョロ

   麻衣、台所で食事の支度をしている。

千里(へー…彼女、本当に本が好きなんだなぁ…色々ある…)

   そこへ麻衣。

千里「あ!!」
麻衣「どうぞ。今年取れ立てで、作りたてのかりん水と初物のかりんで作ったんよ。お口に会うかどうか分からんけど…食べてみて。」
千里「やったぁ!!いただきまぁーすっ!!」

   食べる。

千里「ん、すっごく美味しいや!!ありがとう!!」
麻衣「ほー?良かったわ。どんどん食べてね。はい、」

   お茶をつぐ。

麻衣「ほしてこれがかりんの紅茶だに。これも今年初物のかりん水で作ったの。」
千里「うわぁーっ!!!」

   ごくごく

千里「どれもすっごく美味しいやっ!!お代わりっ!!」
麻衣「はーいっ!!」

   千里にどんどんと紅茶をついでいる。

千里「僕、何かフルーツの紅茶にはまっちゃいそうだよ。」
麻衣「ほれは良かった。」

   トランプを取り出す。

麻衣「なら、トランプでもやる?」
千里「二人で?」
麻衣「ほれもほーね…なら折角だわ。みんなも呼ぼう!!」


   しばらく後、眞澄、マコ、真亜子、後藤、小平も来ている。七人でトランプをしている。

麻衣「はぁー、楽しかった!!なぁ…ところでみんな…」
眞澄「何麻衣?」
麻衣「折角みんな集まっているんだから私…みんなに言いたいことがあるの。」
マコ「言いたいこと?」
麻衣「えぇ…」
真亜子「どんなこと?」
後藤「何だよ…早く言ってみろよ。」
小平「そうだよ…」
麻衣「では言いますっ!!…実はな…」

   話し出す。


   暫くして

他六人「えーーーーーっ!!!!?転校ーーー!?」
麻衣「ほーなの…ごめんな急で…。地域の慣わしにならって従わなくちゃ…」
眞澄「で!今度は何処に行くのさ?」
麻衣「東中だに、茅野の…」
真亜子「茅野か…少し遠くなっちゃうね。」
麻衣「でもまぁ、すぐお隣で…諏訪圏の内だし…又会おうと思えばすぐに会えるに…いつでも遊ぼ。」
 
   千里、少し俯いて寂しげ

麻衣「せんちゃん…」
千里「いつ?」
麻衣「三学期中はずっとおる。来春からよ…」

   察する。

麻衣「みんな、せんちゃんに何があっても決してからかったり苛めないこと。もし彼がそんな目に遭っていたら助けてあげるのよ。そしてもし…もしも、昨年の初めのようなことが彼にあったとしても決して笑わないって約束して。友達なら庇って守ってあげてな。」
千里「麻衣ちゃん…」
麻衣「もしっ、彼を泣かせるようなことをしたらこの柳平麻衣が黙っちゃいないに!!分かった?」

   他、5人びくりとしてシーンとなってポカンと麻衣を見つめる。

麻衣「レイミーテンデ!?」

   千里、寂しそうにずっと俯いている。


   夕方…全員が玄関で別れて帰っていく。


上川城南の道
   千里、ハッと立ち止まる。

後藤「ん?」

   振り向く

後藤「千里、お前どうした?」
小平「早く帰ろうぜ。」
千里「…忘れてた…」
小平「何を?」
千里「トイレ行きたいっ!!」
後藤「なら家でやれよ、お前ん家もうすぐだろ?」
千里「もうダメっ!!家まで我慢出来ないかもっ!!」  
小平「ったく、じゃあ何で柳平ん家で借りてこないんだよ!!」
千里「…今思い出したんだもん…トイレ行きたかったこと…」  

   泣き出しそうに立ち止まっている。数百メートル先にはコットン1/2。

後藤「しょーがねぇーなぁ…ならコットン1/2までは我慢しろよ。そこで借りてけ。」
千里「う…うん…」

   小平、後藤、千里を支える。

小平「おい、鈴木に永田、北山、お前らは先に帰ってていいよ。俺ら、こいつに付き添うで。」
眞澄「分かった。」
真亜子「気を付けてな。」
マコ「もらすなよぉ!!」

   三人、冷やかすように走って帰っていく。

   千里、後藤、小平のみ。

小平「千里、おい…コットンまで歩けるか?」
後藤「てか頑張って歩けっ!!」

   二人、千里を支えて励ましながら歩いていく。


コットン1/2・男子トイレ
   千里、後藤、小平

小平「ほれ、着いたぞ!」
後藤「早くしろよ。」
千里「ありがとうっ…うぅぅっ、もれちゃうっ…」

   個室に飛び込む。二人、顔を見合わせる。

後藤、小平(何で個室…?)

   やがて千里が出てくる。

千里「お待たせ、ありがとう。」
後藤「おい、どいでお前…個室に入ったんだ?」
小平「腹痛かった?」
千里「あ、いや…」

   照れたように頭をかく。

千里「いっけない!!源チサん時の癖がついちゃったんだ!!」
後藤「さ、帰ろうぜ。」
小平「もうこんな時間だ。お前の母ちゃんも心配してるだろ。」

   千里、腕時計を見て青ざめる。

千里「やばっ、早く帰らなくっちゃ!!」

   急いで手を洗ってトイレを飛び出す。他二人をあとをおってコットンを後にして駆け出していく。


高橋家・麻衣の部屋
   その頃。勉強をしながら時々カーテンを開いては月を眺める。満月。 

小口家
   千里、恐る恐る入る。

千里「た…た…ただいまぁ…」
珠子と夕子の声「千里っーーーーっ!!!」
千里「ひぇーっ、はーい…ごめんなさいっ!!」
珠子の声「ごめんなさいじゃありませんっ!!ちょっと奥間に来て座って待っていなさいっ!!」

   千里、怖々ながらもしゅんとして靴を脱ぐととぼとぼと奥間に入っていく。


同・奥間
   珠子、夕子、千里。千里がガミガミと長いお説教を受けている。

   終わると泣きながら部屋へと戻っていく。

同・千里の部屋
   千里、ベッドに泣き伏せている。

千里(麻衣ちゃん…麻衣ちゃんが…転校しちゃうなんて…折角再会してお友達になれたのに…もう会えないのかな…彼女と遊ぶことは出来ないのかなぁ…) 

   しばらく泣いているが、パッと起き上がる。

千里(あ…あんなに紅茶飲んだから又トイレに行きたくなってきちゃったよ…叔母さんーっ、ママぁーっ!!トイレぇーっ!!)

   部屋を勢いよく飛び出ていく。

岩波家・健司の部屋
   その頃。健司、そこへ幸恵と藤宮つぼと藤宮太郎が入ってくる。

幸恵「健司、紹介するわ。新しく家に入ってくださることになった家政婦の藤宮つぼさんと、あんたの家庭教師をしてくださる息子の太郎くんよ。」

   健司、嫌々二人を見つめて小さく会釈。つぼはぶっきらぼうに頭を下げ、太郎はツンッとした態度で健司に笑いかける。健司、少々いらっとして二人を見つめている。


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あきゅろす。
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