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石楠花物語中学生時代
千里の不安
同・寝室
   麻衣、健司、千里。

麻衣「え、トイレに?…大丈夫?」
健司「あぁ…こいつ、どーしても女子トイレに入るの嫌がってさ。」
麻衣「ほりゃ嫌だら、せんちゃんだって男の子だだもん。なぁ!!」

   千里、真っ赤で俯いている。

麻衣「でも、ほーゆーこんならいいに。少し女の子っぽくても大丈夫なら、ボーイッシュなやつあるで…」

   出してくる。

麻衣「これなんてどーかやぁ?でもほの前に…」

   部屋を出ていく。

麻衣「お風呂に入った方がいいわね。お風呂、沸かしてきます。」
千里「麻衣ちゃんいいよぉ、そんなことまで!!お風呂くらい。」
麻衣「モーマンタイン。今はあんたの体が大事だに。」

   小さくウインクして部屋を出る。千里、ポッと頬を染める。


同・浴室
   千里がお風呂に入っている。

麻衣の声「せんちゃん、湯加減どーずら?」
千里「とっても気持ちがいいよ…ありがとう。」
麻衣の声「ほう、良かった。着替え、ここへ置いておくわね。」
千里「はーい、ありがとう…」

   お風呂の水で顔を流して恥ずかしそうに強く目を閉じる。


同・居間
   健司と麻衣がお茶をしている。そこへ紙を拭きながら千里。ピンク色のチュニック丈のパーカーとオレンジ色のキュロットを履いている。

麻衣「あ、小口君お帰り。お茶どーぞ。」
千里「ありがとう…お世話になりました。ごめんね。」

   席につく。

健司「全く。な、これで懲りたろ?意地張って我慢してるとこう言うことんなるんだ。俺も去年同じことしちゃってるもんでよく分かる。」
千里「え、君も?」

   健司、喋ろうとする千里を遮る。

健司「待て、やめろ。ほれ以上詳しくは何も聞くな。だでさ、な、千里。残りの一週間…明日からは…」

   千里、強く首を降る。

千里「嫌々嫌々!!僕にはもう出来ないよ!!」
健司「千里っ!!」
麻衣「小口君?」
千里「僕…もう自信なくしちゃった…だって、今年に入って二度もトイレに間に合わなんで…せっかくここで立ち直って自信を取り戻してきたのにこれだろ?…もう、ダメなんだ…」

   テーブルに突っ伏せて泣き崩れる。

千里「トラウマ見たいになっちゃって…又、同じ風になったらどうしようって…学校にすら行けなくなっちゃう…町すら歩けない。少しでもトイレから遠ざかれば不安で不安で仕方ない…」
麻衣「せんちゃん、考えすぎよ。大丈夫、ほんな子、あんただけじゃない。全国、世界中にもいっぱいいるわ。だで、何も心配しないで…学校にはちゃんと来てね。」
千里「否が応でも学校は行かせられる…熱が出ても…」
健司「はぁ?」
千里「ほう。どんなに具合が悪くても顔だけは出しなって言われてきて今まで、休ませてもらったことはない…だから、小学校一年生を除いて後の5年間と昨年はずっと皆勤賞なんだよ…」
麻衣「ふんとぉーに?」
健司「す…すげぇな…お前…」
千里「そんな厳しいママと叔母さんなんだもん…んー、今日帰るの嫌だよ…」
麻衣「あんたが帰るまでに下着、綺麗に洗っとくな。」
千里「そんな…いいよ、汚いもん…」
麻衣「モーマンタイン。困ったときはお互い様だに。ほれにあんただって、今はいとる私の下着じゃ気持ち悪かったり何か変だら?ほれに、又ほれで叔母さんやママさんに誤解されて怒られちゃっても可哀想だし。な、大丈夫だに。だで、」

   千里の肩を叩く。

麻衣「困ったこんや、辛いこん、悲しいこんがあったらいつでも力んなるで遠慮なく言ってな。私達はいつでもあんたのみかただで。な。」
千里「麻衣ちゃん…」

   健司も微笑んで頷く。

千里「健司君…ありがとう、本当にありがとう。僕、君達みたいな友達が持てて良かった。とても今、幸せです。」

   嬉し泣きをして涙をぬぐう。麻衣と健司も笑って千里の肩を抱く。

健司「ほれ又泣くぅ、お前男だろ?」
麻衣「へー、全く泣き虫さんね。可愛い子、あんたって。」

小口家
   千里が肩を落として帰宅。

千里「ただいま…」
夕子「千里、帰ったのかい?又、卑しいふしだらなことやってたんだろ。」
千里「もういい…」

   部屋に入る。

同・千里の部屋
   千里、ベッドに蹲る。そこへ夕子。

夕子「元気ないじゃないか?どうしたんだい?」
千里「やっぱり、叔母さんや母さんが正しかったよ…僕には無理だった…。」
夕子「はぁ?」
千里「だから、安心してよ…僕もうやらないから…」
夕子「ちょ、ちょっと待ちなよ千里、お前は…又中途半端で止める気かい?」
千里「もういいっ、」
夕子「バカ垂れっ!!最後までやるって言ったの誰だい!?お前だろ!!あれは嘘だったのかい?」
千里「だってぇ…」
夕子「だってもすってもないよ!!私はねぇ、途中で投げ出すような中途半端な気持ちが一番嫌いなんだ!!」

   そこへ珠子、

珠子「どうしたの夕子、大声出して…あらあらまぁまぁ、」

   泣き出す千里を見る。

珠子「せんちゃんどうしたの?又叔母さんに苛められた?」

   夕子を睨む。

珠子「私の大事なせんちゃんを苛めないで頂戴!!」 
千里「ママ、僕が悪いんだよ…僕が悪い子だから叔母さん、怒ってるんだ。」
珠子「せんちゃん?」

   夕子を見る。

珠子「何かあったの?」 
夕子「あぁ…姉さんや、この子ったらしょうもない子なんだよ。あのねぇ…」

   事を話す。

夕子「って訳なんだ。姉さん、どう思う?」
珠子「そうね…それは確かにせんちゃん、悪い事だけど…何か理由があるのでしょ?」
千里「…。」
珠子「あるのね…言ってごらんなさい。」
千里「だって…言ったら又…叔母さん怒るもん…」
夕子「怒らんで、」 
珠子「約束する。だから、ね。せんちゃん…」

   千里、涙の貯まった瞳で二人を見る。

千里「実は…僕、今日仕事中にお客さん全員の前で…トイレ我慢できなくて、」
夕子「もらしたのかい?」

   千里、躊躇い勝ちに頷く。

夕子「どいでトイレ行かないんだい!!この間学校でもらしちまったときに私ゃあんたに言ったろ?あんたももう14なんだよ?」
千里「店の人やお客さんは源チサが実は男の子だって知らないんだもん…仕事中にトイレ行ったら、僕が男の子だってバレちゃう…。だから今までは、仕事中はトイレには立たないようにしてたんだよ。」
夕子「だけど、みんなあんたの事、女装してても誰も男だなんて疑わないんだろ?」
千里「うん…」
夕子「だったら、女子トイレでも使えばバレないじゃないか!!」
千里「それが出来ないからこうなっちゃったんじゃないか!!」

   顔を真っ赤にして泣き出す。

千里「僕は、女装してても中身は僕、男の子なんだもん…女子トイレになんか入れないよ…。落ち着かないし第一…」

   口ごもる。

千里「だから…」
珠子「そう…では、それがなかったら?どうなの?…お仕事事態は?」
千里「仕事は楽しいよ…だから、こんなことさえなければ…こんなことさえなければ…」
珠子「そう、分かったわ。」

   千里を抱き寄せる。

珠子「夕子、話も聞かずにあまりせんちゃんを怒鳴り付けないで!!せんちゃんを叱るのは理由を聞いてから。」
夕子「分かりました…」

   立ち上がる。 

夕子「ごめんよ千里。」

   部屋を出ていく。

   珠子と千里のみ。

珠子「せんちゃん、明日学校終わったら又お仕事?」
千里「うん…でも…」
珠子「大丈夫よ、ママがあなたが安心して行けるように助けてあげるわ。だからね、せんちゃん。もう泣かないで…」
千里「ママ…」
珠子「そして?汚しちゃった下着と制服は?ある?」
千里「うん…でももう麻衣ちゃんが洗ってくれた…」

   鞄の中からビニール袋を取り出して恥ずかしそうに珠子に渡す。

千里「ごめんなさい…」
珠子「麻衣ちゃんが?」

   千里、無言で頷くと事を話す。珠子、黙って聞いている。

珠子「そうだったの…麻衣ちゃんは本当に優しい子ね。」
千里「ごめんなさい…ごめんなさい…」
珠子「でもせんちゃん、もう泣かないで。仕方のないことよ。せんちゃんが謝ることはないわ。」

   ビニール袋を持って立ち上がる。

珠子「大丈夫、ママ、失敗しちゃったくらいで怒らないわ。だから安心して。でも、」

   悪戯っぽく千里を睨む。

珠子「なるべく早く、行けるときはトイレに行きなさい。」
千里「うん…」

   千里も立ち上がる。

珠子「せんちゃんは、ご飯になるまでに勉強やっちゃいなさい。ピアノの宿題も出ているんでしょ?」
千里「はーい…」

   鞄の中からクリアファイルを取り出して重々しくため息。

千里「はぁ…今日も大量に出してくれたなぁ…」

   肩を落としながら勉強机につく。

同・キッチン
   食卓。千里、頼子、忠子、珠子、夕子が食事をしている。千里は相変わらず肩を落としている。

頼子「千兄ちゃん、どうしたの?」
忠子「お顔の色、悪いねぇ…」
珠子「千兄ちゃん、悩み事があるのよ。だからそっとしてあげようね…」
千里「…。」
珠子「せんちゃん、お代わりは?」
千里「もういらない…」
珠子「そう…」
夕子「千里、勉強したか?」
千里「さっきもう終わったよ…」
夕子「確かあんた、このイベント期間が終わったらすぐテストだって言ってたね?落第点とらんように確りしな。」
珠子「夕子、」

   言葉を遮る。千里、立ち上がる。

千里「ご馳走さま…。」 

   出ていく。

珠子「ピアノの練習はきちんとするのよ。」
千里「はーい…分かってる…。」
珠子「もうすぐバレエの発表会もあるのよ。しっかり準備なさい。」
千里「はーい…」
 
   
同・千里の部屋
   千里、部屋に帰ってバレエのパンフレットを見て、再び肩を落としてため息。演目の「コッペリア」千里は機械人形のコッペリア。

千里(何で僕ってこう…男の子の役をやらせてもらえないのかなぁ…)

   パンフレットを放り出して立ち上がるとバレエのステップを踏み始める。


諏訪中学校・教室

千里「おはよう。」

   ざわざわして、生徒たちみんなが千里を見るとクスクス。

千里「?」
後藤「千里、お前又やっちまったんだって?」
千里「やっちまったんだって?って?何を?」
小平「何をって…決まってんだろ?おもらし…したんだろ?」

   千里、ギクリ。

千里「ど、どうしてそれを?」
マコ「ほら、私の家も飲食店だから諏訪地域中のお店を回ってるのよ。そしたら丁度私のお母さんと家の従業員が永延・花梨畑店に行ったときに、そこの看板娘の子がフロアでおもらししちゃって大変なことになってたって聞いたから、すぐにあんたの事だって分かったのよ。」

   千里、蒼白になって唇をグッと噛む。

眞澄「今やもう、クラス中が知ってるわ。あんたの噂。あんたが源チサとして働いていることや…」

   千里、涙を隠すように教室を飛び出ていく。

眞澄「あーあ、泣いちゃった…。男の癖にだらしないの…あれくらいで泣くなんて。」
マコ「ちょっとした笑い話くらい通じなくちゃ今時やってかれないわ。」

   クラス、更にざわざわクスクスとして笑い声が起きている。


  
同・廊下
 千里、涙を隠しながら廊下を走る。途中、麻衣とぶつかって思いっきり転ぶ。

麻衣「ちょっとぉ、廊下は走んじゃないわよ!ー気を付けなっ!!って…」

   転んだ千里をまじまじ。

麻衣「せんちゃん?」

   千里、起き上がって麻衣を見ると再び泣きそうになって目を伏せる。

麻衣「どーゆーだ?」

   覗き込む。

麻衣「泣いとるの?」
千里「…。」

   立ち上がると再び走り出す。

麻衣「ちょっとせんちゃんっ!!待ってってば、一体何があったのよ!!」

   千里を追いかける。


同・校庭
   土手に座る麻衣と千里

麻衣「まぁ、何て酷い奴ら!!分かった、見てなさい。私がガツンと言ってあげるわね。」
千里「いいよ麻衣ちゃん…どうせ、事実だもん…」
麻衣「あんたは?悔しくないだ?嫌なこんは嫌だってハッキリ伝えなくちゃ…いつまでたってもやまらんに。あいつらも、面白半分にあんたが楽しんで笑い流すかと思ってやっとるの。」
千里「…。」

   麻衣、立ち上がる。丁度チャイム。

千里「あ、」
麻衣「あ、丁度だ。小口君、教室戻ろ。」

   千里、俯いたまま座っている。

麻衣「あいつらには私からガツンと…」
千里「違くて…」

   もじもじ。

千里「そうじゃなくて…」

   麻衣、察したように。

麻衣「又同じことしちゃうかも知れなくて…怖い?」

   千里、泣きそうになって小さく頷く。

麻衣「大丈夫…ほんな心配してると余計にトイレ行きたくなるんだに。もし、ふんとぉーに行きたくなっても…」
千里「君も藤森先生がどんな先生か知ってるだろ?少しでも授業に集中してなかったら罰を与える怖い先生なんだよ。そんな先生が授業中にトイレ許してくれると思うか?それこそ、授業崩壊させる逆賊と見なされて…」

   不安のあまり声をあげて泣き出す。

麻衣「大丈夫、もしもしも、ほーなった場合、あんたと私は隣同士の席だら?だで安心。私にいいな。私には何でも話しなね。」
千里「麻衣ちゃん…」 
麻衣「私はねぇ、小学校の時から悪巧みと悪知恵の天才なの。ほいだもんで、藤森先生が納得するような理由シナリオを考えてやる。」
千里「でも、そんなことしたら君が…」

   麻衣、千里の口を遮る。

麻衣「事はそのときになってから…。さ、とりあえずはへー教室戻るに。今度は遅刻したって怒られるに。」
千里「う、うん…」
麻衣「行こっ。」

   千里の手を取って小走りに戻っていく。


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