serial story
2
スゥースゥー。
と規則正しく聞こえてくる、これは明らかに寝息。
寝てる?
俺は、張の顔を覗きこむ。と同時に安堵のため息を漏らした。
「何かあったのかと思っちまうじゃねぇか。」
その顔は疲労をたっぷり含んだ寝顔だった。
俺は玄関で寝始めてしまった張を布団まで運び、そっと布団を掛けてやる。
そして、その傍らで胡坐をかき、さっき張に受け取った紙を広げて、書かれている内容を見てみた。
明日の朝10時に 東京駅
仕事内容 列車内でのスリ犯の逮捕
左之助、任せた!!
俺は寝る!!!文句があるなら旦那に言え!!
もう、疲労困憊や。
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・。
グシャッ!!
と、つまりこう言うわけだ。
文句があるなら斎藤に言え・・・。
これってつまり、あんとき警視庁で斎藤が言ってた『張、3日後までに言っておいた仕事全部片付けろ。』とか言うのをまさに全部片付けたからなのだろう。
それを言われてから今日で丁度3日目だ。
多分、寝る間もないくらい、ってか恐らく寝てない。ぐらい仕事をして、疲労困憊。
今まさにこの状況まで追いつめられた。結果、疲れきって動けない自分の代わりに明日の仕事を俺に任せたわけだな。
この場から逃げ出すのはいとも簡単なことだが、一度した約束を破ることは絶対したくない。
言うなれば、それは俺のぷらいどとか言うやつが許さないわけだ。
けど、よりによって列車はねぇだろ!?
ただのスリ犯を捕まえるだけなら、楽勝の中の楽勝。朝飯前なのに。
よりによって、列車・・・。
俺は、陸蒸気が大大大大嫌いだ。
あんなもんが動くことが信じらんねぇ、皆絶対に騙されてる!!
妖術とか黒魔術とかタヌキとかキツネとかに騙されてるとかそんな類のもんに違いねぇのに!!
俺は声にならない恐怖を心の中で叫び続けた。
しかし、そんな声も虚しくその時はやってきた。
陸蒸気が汽笛を荒々しく鳴らし、出発の合図を送る。
俺は意を決して、車内へと足を踏み入れたのだった。
車内は思っていた以上に混雑していた。
っていうか、混み過ぎだろう!!
満員すぎて、足一歩たりとも動かせない。皆、体をぎゅうぎゅうに縮こませて押し合い圧し合い合いって状況だ。
俺は、一番後で入った為、扉の前に立ったまま身動きが出来ない。
いや、例えできたとしても、俺は多分一歩たりとも動けない。
だって、怖い。情けないけど、本当に怖い。
この陸蒸気と言う名の走る大魔王が。
俺は一生懸命に手摺に掴まっていた。しかも、両手でしっかりと!!
けど、ここにいる理由を忘れたわけじゃない。スリ犯とやらを見つけなくてはと、動かせない体の代わりに目だけはしっかりと動かして、周りを見ていた。
が・・・。これだけ人が密集している中で、みることが出来るのは、目の前の人だけ。
周りを十分に見回せるはずもなく、無情にも時間は過ぎて行く。
・・・。
・・・・・。
新橋から横浜までの時間はあっという間に過ぎて、既に何回は往復したのだろう。
その度に列車に揺られ、人ごみに流され、もみくちゃにされ、俺はそれなりに疲れていた。
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