手に入らないからこそ
相変わらず、賑やかな星だった。過去にぬるま湯と比喩した青い星は、本来俺達夜兎が踏み入れてはいけない場所だとずっと思っている。
「……なにしてンすか、団長」
ぬるま湯に浸かれば浸かる程、戻れなくなるからか……はたまた、知ってはならない何かに触れてしまう気がして怖かったからか。
吉原の偵察の為に再び降り立った地球の宿に、神威の姿が無いと分かったのはつい三十分位だ。初めは何処に消えたのだろうかと思考を巡らせていたが、屋根の上から聞こえた物音にそれも直ぐに止める。
窓を伝って屋根に上がれば、そこには一点を見詰めて珍しくボーッとしている団長様が居た。
「あ、阿伏兎。おかえりー」
此方に気付いた神威は何時もの笑顔ではなく、穏やかな笑みを浮かべていて。驚いたように唖然とした俺は明かりの灯る町を見詰めた。
「……なに見てたんだ?」
「んー?なんでもないよ」
そんなにも穏やかにさせる何かが、この景色の中にあったのかと目を凝らすが有るのは輝く町と人の笑顔だけだった。
「じゃあ、中入れ。飯だそうだ」
「うん、お腹空いた〜」
大きく伸びをした神威が宿に消えてゆく。その後に続いて宿に入った俺が気紛れに振り返った先に見えたのは、子供を連れて楽しそうに笑う家族の姿。当の昔に捨ててきたソレに苦笑いを一つ。
その瞳が映していたのは、あの平和な日常。
だけど、それを手にするには
その両手は、あまりにも血にまみれていて。
手に入らないからこそ焦がれる
(絶対に手に入らないなら尚更に)
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