010
「あーあー。見事にナレーションまで止まったな」
「どっちもぉー、困っちゃったんでしょぉー?」
「まあ、フェリーは表情豊かじゃないから止まるのも分かる気はするけどね」
「頑張るのだよ。フェリー! 君なら涙目になれる!」
「(涙目、なみだめ、なみだめ?この劇は無謀なことばかり要求してくる…)無理だ。俺には、この役…無理があり過ぎる」
とうとう降参とばかりに白旗を上げ、フェリーは椅子に座ってしまいました。
実はこの後、フェリーは涙目になって熱く熱くアツく菊代を慕い尊敬しているという、そしてもっと長生きをして欲しいと涙を流すのですが彼には無謀だったようです。
「フェリー! まだ諦めるのは早いぞー!」
元気いっぱいな声が聞こえたと同時にドアの開く音。
現われたのは誰が呼んだかサラシンデレラ! そう、4000HIT企画の時に出てきたあの、サラシンデレラ!
「オレはもうシンデレラじゃないってー!」
失礼しました。今のサラは元気いっぱいの男の子サラのようです。
サラは助けに来たとばかりにフェリーに突撃します。
「フェリー! 涙目になれるアイテムだ!」
「まさか目ぐす……………タマネギ」
フェリーは期待していました。
目薬を持ってきてくれたのではないか?と。
しかしサラは予想に反してタマネギを持ってきてくれました。まさかこの場でタマネギを切って涙を流しながら台詞を言え…なんて、非情なことはさせないだろう。
フェリーは淡い期待を寄せましたが、サラは折りたたみ式果物ナイフを差し出してきました。満面の笑顔で。
「サラ…一応聞くが、タマネギを切りながら台詞を言えと?」
「さっすがフェリー! オレが説明しなくても分かってるじゃん!」
タマネギ切りながら、さっきのようなシリアスもどきな台詞(あれがシリアスもどきな台詞とはとても言い難いのですが)を言わせられるなんてどんな罰ゲームだろうか。傍から見ればただのマヌケではないか。
思いながら、遠目を作ってフェリーは折りたたみ式果物ナイフを受け取りました。ニコニコとサラはフェリーを見上げて親指を立てます。
「これで涙目になれるな!」
「…サラ、とても申し訳ないのだが」
「あ、もしかしてタマネギの切り方分からないか? んじゃ、オレが教えてやるよー! オレ、料理できるだぜ?!」
「いや、それは知って…」
サラに腕を掴まれ、フェリーは部屋の隅っこに移動させられました。
これからタマネギの切り方指導を受けるようです。
かくして半強制的にフェリーが抜けてしまい、残された者達はアイコンタクトを取り合います。
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