009
―――…結局、誰一人自分の胸を打つような返答が無く菊代はガッカリします。自分はもう長くない、早く遺産相続人を決めて気を楽にしたいと思っているというのに。
菊代の切な独り言を聞いて、長テーブルを叩いて立ち上がった人物がいます。それはフェリーでした。菊代の独り言に熱く反論しました。
「(熱くは無理なんだが…)菊代大祖母さま。あまり悲しいことを仰らないで下さい。まだまだこれからではありませんか。遺産相続人に選ばれたことはとても光栄に思いますが、俺は本当のところ大祖母さまにそのようなご決断を下すのは早いと思っております。考えてみれば大祖母さまは、500過ぎ。五世紀とちょっと過ぎしか生きておりません。大祖母さまならば二十世紀ほど生きれると俺は信じております。
是非とも生きた可憐なるレディーミイラと言われるまで生きて欲しいのです。
俺が二十世紀まで生きれば、ミイラどころか骨すらも残らないでしょう。しかしながら大祖母さまならば、きっと…そうきっと。
俺は菊代大祖母さまに初めて会った時からずっとお慕いしておりました。
出逢いは初夏の日だったことを今でも憶えております。やけに涼しげな微風が吹いておりました。柔らかな微笑を浮かべながら菊代大祖母さまは俺にこう言ってきてくれましたね。
『侍や忍者は何処会えると思いますか?』と。
幼い俺にとってしてみれば、あの台詞ほど困惑させられたものはありませんでした。侍や忍者が、この現代社会にまだ普通に会えるなんて思ってる人がいるなんて。あの台詞には困惑、同時に菊代大祖母さまの凄さを色んな意味で見せ付けられたのです。
……と、俺の台詞があと2、3ページに渡るため省略します」
いや駄目でしょ!
っつーか2ページって長?!! 今の台詞だって十二分に長かったのに!!
(フェリー、よくここまで覚えられたわね。感心しちゃうわ)
(フウム。フェリー…かなり恥ずかしそうだったな。まあ、台詞が台詞だから仕方ないのだろうが。僕ならばカッコ良く言うぞ!)
(檸檬隊長ほどじゃないですけどぉ、フェリーカッコイイですぅー)
(ククッ…、レディーミイラだってよ。マジ笑える台詞)
(侍? 忍者? とは何でございましょう?)
そんな周囲の心境など露知らず、フェリーは涙目になりながら菊代に言いました。
「………涙目?」
…フェリーは涙目になりながら菊代に言いました。
「………なみだ」
……フェリーは涙目になりながら菊代に言いました。
「………め」
………フェリーさんは、涙目になりながら、菊代さんに言っちゃいました。
「………」
………。
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