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002


  
「残業。残業。残業ばっか。禄に残業代も出さないくせに」
「仕方ないですよ。ウチの会社、景気が宜しくない上に、他の会社に負け気味なんですから」
「人を馬車馬のように働かせる。サイッテー。社長、ムカツク。セクハラ上司もムカツク」


 また、この人、私の話を聞いていない。


 呆れながら、私は芋焼酎を口にする。私もいっそ酔ってしまいたい。
 ベロンベロンに酔っ払っている佐伯さんは、「疲れるよねぇ」と愚痴を零す。

「毎日さぁ。表情作るって疲れる。笑いたくも無いのに笑って。上司の機嫌とって。世の中ツマンナイわぁ」
「はぁ。佐伯さんでも、そう思うんですね」
「だってぼくちゃんニンゲンだもーん」

 佐伯さんが笑い声を上げた。
 ダメだ、完全に酔ってる。
 笑い上戸ってやつか、佐伯さんはホント笑いっ放しだ。私の方が疲れてくる。ああ、早く帰りたい。


 佐伯さんは笑ったまま、奇妙なことを言い出す。

  
「いっそさ。人形のように、表情ひとつで生きていけたら、悩みはひとつ解決だよね。笑顔で生きていくとか」
「謝罪する場面に、笑顔を作られたままだと堪りませんよ」
「それもご愛嬌。やってみようか?」
「即、クビですね。ご愁傷様です」
 
 そりゃそうだ、と同意したように佐伯さんが笑いを噛み殺す。
 何がそんなに可笑しいのか、私には分からない。理解に苦しむ。酔っ払いの言動を理解しようとする方が、阿呆くさいのかもしれないけれど。
 吐息をついてると、佐伯さんが突然笑いをピタリと止め、しんみりとし始めた。


 これもまた、酔っ払いの特色だ。


「時々思うのよね。今、こうやって生きることに意味はあるかって」
「それは切実な疑問ですね」
「だってそうじゃない。この疑問が浮かぶ度に、私の脳裏にドクロマークが浮かんで点滅してくるの」

「ドクロマーク?」

「そっ。今の生活を終わらせようというドクロマークが点滅してくるの」
「またなんでドクロマークですか?」
「ホラ、ドクロって死の象徴とか言うでしょ。でも私は、何か終わる時にドクロが浮かぶの」
「じゃあ、佐伯さんは今の生活を終わらせたいんですか?」


「新しい生活を探したいっていうヤツかな。私さ。本当はデザイン関係の仕事に就きたかった。なのに、いつの間にか事務関係の仕事に就いてる」 

 



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あきゅろす。
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