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001



あどけない表情を作り彼女は僕の顔を覗き込んできた。


 
上の空になって頬杖をついていた僕は心の底から驚き持っていたシャープペンシルを思わず手放してしまった。
 
机の下に転がってしまったシャープペンシルを追って、慌てて机の下に潜り拾おうとすれば机におでこをぶつけてしまう。
 
傍から見ても十二分に分かるマヌケな僕の様子に彼女は声を殺して笑ってきた。

恥ずかしいこと極まりない。
額を擦りながら落ちたシャープペンシルを拾い、椅子に座りなおせば彼女は僕のおでこを指差して吹き出した。


「おでこ、赤いじゃん。ダッサー」

「煩いな。人の不幸を大声で笑うなよ。少し考え事してたら、お前がいきなり顔を覗き込んできたんだろ? 元凶はお前じゃん」

「人のせいにしないでクダサイ。言い訳は見苦しいですよ?」

 
笑いを堪えて人の失敗をおちょくってくる彼女を軽く睨んで、僕は開いていた数学のノートを眺めた。
 
問題だけ書かれているノートには、回答された跡がない。


彼女がいるせいで、問題が1問も解けずにいる。


彼女と教室に残り勉強会をする、というこの状況が間違っているのだ。
 
溜息をついて、僕は自分の失態を悔やむばかりだった。彼女と勉強なんて出来る筈がない。


二度目の溜息をつくと、彼女は機嫌を損ねたように眉を顰めた。


「さっきから溜息ばっかり。あたしと勉強するの嫌なの? 数学の問題は1問も解いてないみたいだし?」

「手遊びやらノートにお絵描きやらしているお馬鹿には言われたくありません。それに、そちら様も1問も解けてないご様子ですが…僕の勘違いでしょうかね?」

「ムカツク! 何この人、すっごくムカツク!」

「お褒めのお言葉をどうも」


皮肉で謝礼を言えば、彼女は完全に機嫌を損ねてしまったようだ。

頬を膨らませたり、悲しむ様子を見せたり、「バーカバーカ」と僕に対して小学生の低学年が使いそうな悪口を言ってきたり。

 
逆に僕を呆れさせる、と彼女は察しないのだろうか?

僕は彼女に気付かれないように細く笑った。彼女はガキだ。


そんな彼女が面白かったり、可愛かったりすると思う。


一頻り喚いた彼女は僕を睨み付けてくる。
きっと僕の様子が彼女には癪なのだろう。ムスッ、とした表情で僕を真正面から睨み付けてくる。
 

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