不良の攻略はムズイです
今から昼休みだ。
ヨウとワタルさんはコンビニで何か買ってくると言い(俺の学校の近くにはコンビニがある。
売店よりも品揃えがイイ為に2人はコンビニに行くそうだ)、俺は弁当を持参しているため、教室に戻ることになった。
ヨウが昼飯代を貸してくれるって言ったけど、折角弁当を持って来ているし勿体無いからと丁重にお断りした。
本音を言えば、早く教室に戻りたかったんだけどさ。
ヨウ、ワタルさんと別れた俺は、やっと解放されたと重い足を引き摺って教室に戻っ。
だって恐かったんだよ。凄く恐ろしかったんだよ。ヨウとワタルさん。
特にワタルさん。
なんか、ところどころキャラが違うし、キレ気味というか喧嘩の話になると一人称が『俺様』になるんだよ。
ある意味ヨウよりも恐いかもしれない。
というか、改めて不良さまは恐いと実感。
色んな意味でヤツれてしまった俺は教室に入った瞬間、安堵してその場に崩れそうになった。
俺が入ってくるのにクラスメートがどよめきの声を上げる中、俺はどうにか自分の席に着くと机に倒れるように顔を伏せた。
つ、疲れた……ひとりでよく頑張ったよ、俺。
孤独にたたか……いや、孤独によく堪えた、俺。
あんな恐い不良二人相手に、よく泣かなかったな、俺。
俺自身を心の中で褒め倒していると、机が大きく振動した。
ヨロヨロと顔を上げれば、利二が地味に俺の目の前に立っていた。
何十年ぶりに利二の顔を見たような気がする。
実際に言えば、朝ぶりなんだけどさ。
利二の後ろには光喜と透が立っているような……嗚呼、もうダメ。俺、疲れ果てた。燃え尽きた。真っ白な灰になった。
軽く利二達に笑って、おやすみなさいモードに入ろうとしたら光喜が俺の肩を大きく掴んできた。
「田山生きているか! 傷は浅いぞー!」
「隊長殿。自分はもう駄目であります」
「死ぬなー! 何があったか隊長の俺に話せ! 敵は取れないが、同情してやる!」
さすが光喜。
敵が取れないってとこが、正直者だよ。お前。
利二が呆れ顔で光喜に「冗談言っている場合じゃないだろ」ちツッコんでいた。
光喜はハッと我に返って、真剣な眼で俺を見据えてくる。
「田山、何があったんだ。今まで何していたんだ?」
「俺? 今、お前と話している」
「ちっげ! 今までの話だよ! 荒川庸一と一緒だったんだろ? 大丈夫だったのか?」
「だいじょうぶ、ダイジョウブ、大丈夫、あははは、勿論……大丈夫なもんか! 俺、マジ死ぬかと思ったんだぞ! ひとり孤独に恐い思いしたんだぞ! クッソー、どうして不良さまは母音に濁点を付けるんだ、恐いっつーんだ! なんで豆乳なんだ! 確かにカラダにはいいけど、豆乳って俺、あんま好きじゃないんだ!」
「落ち着け。田山。言っている意味が分からん」
利二の言葉も、俺の耳には入らない。
だって真面目に恐かったんだ。
ヨウが、ワタルさんが、特にワタルさんが! ヨウよりもワタルさんが恐かった! 下唇のピアスが痛々しかった!
一頻り喚いた俺は、大きく溜息をついた。
そりゃタメだから、話してみればフツーだけど、やっぱ恐いんだよな。
髪は染めているし、母音に濁点つけるし、ピアス痛そうだし。
それでもって舎弟確定みたいだし。
冗談じゃなかったんだ、舎弟の話。
利二達は、各自椅子と弁当を持参して俺の周りに集まった。
こういう場合、何があったか話せってことなんだろうなぁ。
うん、お前等、イイ奴等だよ。友情を感じるよ。
うん、薄情者だけどさ。
弁当を取り出した俺は、食欲が湧かないまま無理やり弁当を胃に押し込み、ポツポツ昨日のことを三人に話すことにした。
俺がヨウの舎弟になったことを話せば、三人が三人とも驚愕な顔を作ってきた。
「うっそだろ。お前、荒川庸一のッ、舎弟になったのかよ」
光喜が素っ頓狂な声を上げる。透は少し顔を顰めて言った。
「冗談じゃないの?」
「だったら嬉しいんだけど、どうも冗談じゃないっぽい」
「……大変なことに巻き込まれたな」
「そーなんだよ。ごめんけど、午前中あった授業の分のノート見せてくれ。利二」
「それは構わないが、田山。お前はこれから大丈夫なのか?」
食事していた手が止まる。
これから大丈夫なのか、それは当人の俺にさえ分かっていない。
大丈夫じゃないかもしれないし、大丈夫かもしれない。
「分かんねぇ。ある日突然、俺がキンパになっていたら笑ってくれ」
「圭太くんが金髪かぁ。あんまり想像つかないけど」
想像して眉根を寄せる透。今のところは笑うところなんだけどな。
「なあ、今から断るってことは無理なのか?」
「光喜。お前が俺だったら、断れるか?」
「……無理。無理。絶対無理」
「だろ? 俺もそんな感じだから、観念するしかないんだ。すでにワタルさん…貫名渉と知り合った上に、メアド教えたもんな」
「うっそだろー」
本日二度目の光喜の絶叫が教室に響き渡る。
やっぱり驚くよな。俺も驚いているよ。
「取り敢えず、お前等は関わらないように気を付けろよ。神経磨り減るから」
「気を付けろって、僕等どうやって気を付けるのさ」
「……俺の半径三メートル以内に近付かないとか」
光喜と透が思い切り椅子を引いて、俺から遠ざかる。
正直な反応してくれるなコノヤロー。
今のは、ちょっと傷付いたぜ。かぁんなり傷付いたぜ。
いやぁ、分かるんだけどな。
俺も二人の立場だったら関わりたくないって本気で思うもんな。ダチの災難が自分にまで降りかかって来るなんて、そりゃ俺も勘弁だしよ。
ただひとり遠ざからなかった利二は、変わらず険しい顔で玉子焼きを口に入れる。
「田山。お前はどうするんだ?」
「どうするって、どうしようもないだろうなぁ。あっちが舎弟の件を切るってなれば話は別だけどよ。今のところ、そういう雰囲気でもねぇし、そういう風な話が俺からデキるわけでもねぇし……ま、利二も俺の半径三メートル以内に近付かないようにして、関わらないように気を付けろよ。その方がお前の身のためだぜ」
「人の心配をしている場合じゃないだろ。自分の心配をしろ」
利二は真っ直ぐ俺の心配をしてきてくれた。お前、薄情者だけどさ、マジ薄情者だけどさ、
「利二は大人だよなぁ。アレより」
「アレ言うなって。俺だって一応、心配してやっているんだぜ?」
「そうそう。これでも僕等、圭太くんを心配しているんだよ」
嘘つけ。じゃあ、さっきの行動はなんだよ。俺から遠ざかったままだし、説得力ねぇって。
そういえば、ヨウとワタルさん。コンビニに飯買いに行くっつっていたけど、その後、何処で食うんだろう? 体育館裏かなぁ?
俺、一緒に食う約束はしてねぇから安心だけど気にはなるな。
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