01-06
容赦なく髪を引っ張られて俺は悲鳴を上げる。
三本ぐらいブチって抜けたような感触がした。
マジ痛いんですけど。
ホント、真面目に痛いんですけど。
俺が頭を抑えて悶絶する間も、貫名渉……いや、ワタルさんは俺の髪を見て「何色が似合うかなー」とニヤニヤ笑ってくる。
茶、赤、青、紫、金に銀。
物騒な色を俺の隣で唱えているワタルさんは、俺の髪にピンクなんて似合うんじゃないかと提案してくる。
仮に染めるとしても、ピンクは、ピンクは絶対に嫌だ。
大きく首を横に振って嫌だと態度で示せば、ワタルさんが物は試しってニヤついた顔で言ってくる。
からかっているのは見え見えだ。
悔しいんだけど反論する度胸がないんだよ、俺には。
心の中じゃ何だって言えるんだけどな! 自信持って言える俺が悲しいよ!
「ヨウちゃーんの舎弟かぁ。いつから?」
「き、昨日から」
「ビックリビビンバーン! 成り立てホヤホヤじゃーん、ケイちゃーん! だから、まだ髪染めてないわけかぁー。いつ染めるの?」
「いや、染める予定は」
「ないのー? それはヤバヤバーンじゃないのー?」
さっきから思うんだけど、ワタルさんって一々リアクションが大きい。
ちょっと大袈裟で口調がウザイ。
口が裂けても言えないけどさ(言ったらマジ、俺の命危ういよ)。
「ワタル。うぜぇってその口調」
「僕ちゃーんショッキング!」
俺の思っていたことをヨウが言った。
さすが天下の荒川庸一、どんな相手でもお前なら喧嘩売れるよ。
神様だってお前に喧嘩売られたら半べそだよ。
あからさま傷付いた振りをしているワタルさんは胸に手を当て、
「ヨウちゃーん、酷い」
嘘泣きしている。
男が嘘泣きってどうよ。男が嘘泣きって。引くって。
綺麗にワタルさんの態度をスルーするヨウは、大きな欠伸をまた一つ零した。
「ワタル。そういえば、お前、昨日はどうだったんだ?」
「それが聞いてよー。僕ちゃーんの不幸話」
不幸話? 俺は首を捻ってしまう。
ワタルさんは散々だったと溜息まじりに笑った。
「昨日、僕ちゃーん喧嘩売られたじゃーん? 僕ちゃーん、喧嘩を買ったはいいんだけど……あのクソ野郎が。俺様に喧嘩売るだけじゃなく、俺様のバイクを蹴りやがった。ふざけやがって。バイク一台がいくらすると思っているんだ? あ゛ーん? 一ミリの引っ掻き傷直す修理代誰が出すと思っているんだっつーんだ。腹立ったから俺様、喧嘩売った野郎の身包み全部剥いでやった」
薄ら笑いを浮かべるワタルさん。禍々しい黒いオーラ全快。とにかく口調が……キャラが違う、違うよ、違い過ぎるよ、ワタルさん。
さっきまでのウザ口調なワタルさんは何処? キレたら人格が変わるってヤツですか?! 身包み全部剥いでやったって、やっぱりカツアゲ伝説は本当だったんですか?
言葉を失っている俺とは対照的に、ヨウが呑気に笑い声を上げて「そりゃ散々だったな」とワタルさんに同情していた。
ワタルさんはコロッと表情を変えて「でしょー」、さっきのウザ口調に戻る。
もう、不良って何ですか。
俺、貴方達についていけません。
ついでに生きた心地がしません。
嗚呼、今あっているであろうクソ面白くない英語の授業が恋しい。
あの平和で眠たい授業が恋しくて仕方がないよ。
英語の授業、ああ英語の授業、英語の授業。
どうして俺は英語の授業に出てないの?
「フッ……それはね、不良さんと一緒におサボりしているからさ。哀れ田山圭太」
「ケイちゃーん。独り言?」
「ケイは絶対、芸人体質だな。オモレェ」
この野郎、人を芸人体質とは。そんな芸人体質にしたのは誰だよ。
「あ、そうだー。ケイちゃーん、メアド教えてー」
「え?」
何ですと? ワタルさん、今、俺のメアドお聞きしました?!
露骨に声を上げてしまったせいで、ワタルさんから訝しげな眼を向けられてしまう。
「なあに? 僕ちゃーんに教える気ないってヤツー?」
「あ、そ、そぉーじゃなくて……俺、今、携帯を家に置いているから教えられないなーみたいな。あはははは」
決してワタルさんに教えたくないって思ったわけじゃ……ないよ。
これ以上、関わりを持ちたくないなんて思ったわけじゃ……ないよ。
俺はヨウにメアドと電話番号を教えてもらうように言った。
ワタルさんは「了解」とばかりに、ヨウに携帯を出すよう強要する。
ヨウは仕方なさそうにポケットから携帯を取り出して、ワタルさんに投げ渡していた。
携帯画面を開いているワタルさんを遠目で見ながら俺は人知れず溜息をついた。
呼び鈴が聞こえてくる。
一時限目の授業が終わったようだ。
けど、二人は動く気配がない。二時限目も出ないって魂胆ね。ええい、だったらもう、俺も出るか! ヤケクソだチクショー!
心の中で叫びながら俺は自棄を起こして、本格的にヨウやワタルさんと一緒に体育館裏でたむろすることにした。
たむろという時間を過ごすと、案外流れる時間が早いもので気付けば4時限目の終わりの本鈴が鳴っていた。
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