10-07
「話は……ある程度分かった。要するにエリア戦争に加担して、お前等の肩を持てということだろ? ……だが自分等と手を組む理由が見えない」
小さな欠伸を漏らし、副リーダーのシズが意見。
ご尤もだと思う。
別に俺等と手を組む必要性は無いんじゃないか? そりゃこっちには腕っ節の強い輩が多いけど、俺等も日賀野達のことで手一杯。
あんまそういうヤヤコシイ問題に関わりたくない。
協定は嬉しいけど、喧嘩の数が多くなるのは俺達としては痛手だしな。
手を組むべき理由を求めると、
「チームの一つを確実に潰すためか」
それまで不機嫌に口を閉ざしていたタコ沢が口を開く。
今日も奴の頭はゆでだこのように真っ赤だ。口が裂けても言えないけれど。
タコ沢は意外とご近所の不良事情を知っている。
フンと鼻を鳴らしながら、説明側に立っている涼さんに視線を投げた。
「エリア戦争は浅倉を筆頭に、刈谷、榊原、都丸チームが関わっているって話だゴラァ。お前等、元々榊原とはチームだったって話を聞いたが?」
「ご名答」浅倉さんは口角をつり上げた。
自分達は榊原(さかきばら)と元々チームメートだった。
しかし、先日誰がチームのリーダーに相応しいか争い、ついに分裂。
まるで今の俺達のように対立していると言う。
だけど決定的にこっちと違うのは、榊原が巧みな手でチームの大半をメンバーから抜き取ってしまったことだ。しかも有能で使える奴等ばかり。
浅倉チームに残っているのは、あまり喧嘩のできない、どちらかといえば力に劣りのある弱小不良達ばかり。
それだけでも苦しいのに、榊原は“あるチーム”と手を組んで圧倒的優勢を見せた。
そう、日賀野チーム。
奴等は日賀野チームと協定を結んで圧倒的力を見せ付けてきやがったそうだ。
このままじゃ対立するどころか、一方的にチームが潰される。
榊原は浅倉さんを含む弱小不良達を甚振りたい魂胆で、こちらが身を引いて終わる問題ではない。
身を引いても甚振られるであろう地獄。向かっていても甚振られるであろう地獄。
浅倉さん自身は喧嘩ができる身の上らしいけど、他のメンバーはそうでもない。逃げるくらいなら立ち向かわなければ。そう思ったらしい。
だからエリア戦争にも加担した。
どうせヤラれるなら精一杯足掻いて向こうにダメージを与えたい。
とはいえこちらにだってプライドはある。
最初から負けの喧嘩など毛頭もする気は起きない。
どうにか榊原と対抗する策は……考えに考えた挙句、浅倉さんは日賀野チームと対等に渡り合えるチームと手を組むことを決意した。
そう、荒川チームだ。
日賀野達と対等に渡り合えるのは、元々奴等と一つのグループだった荒川率いる不良チームしかいないと浅倉さんは考えたそうな。
こっちに頭を下げる気持ちで来たと浅倉さんは断言。プライドをかなぐり捨てても、チームを守りたい気持ちがあるから。
「おりゃあ、馬鹿だから喧嘩しかできねぇ。これでもリーダーなんだがぁ、すぐに熱くなって周りが見えなくなる性格だから。
こんなリーダーに嫌気が差して、大半の奴等は冷静沈着な榊原について行った。深慮ある奴の方がリーダーとして素質があると思ったんだろうな。
それでもこっちに残ってくれた馬鹿もいる。榊原の誘いを断った奴もいるし、チーム分裂後も手前のチームの奴等は全員残ってくれている。抜けることもできるのに、おれに付いて来やがる。
おりゃあ、感動したよ。
正直、大半の奴等が榊原について行っちまって途方に暮れた。おれ的に皆でワイワイできりゃそれで良かったんだが、メンバーはそう思ってなかったらしくて榊原についていった。
けど少しならずおれを慕って、弱小となったチームに居残って、付いて来てくれる。何もしないわけにいかないじゃないか、なぁ? そいつ等を全員守るためにも、荒川、お前に交渉を持ちかけて協定を結びたい。ある程度の難題条件は覚悟した上でな」
そう静かに語る浅倉さんは姿勢を正して、腹を決めているのだと俺等チームを見据える。彼の眼には強い意思の宿っていた。
俺は浅倉さんを恍惚に見つめる。凄いな、この人。
リーダーの素質が無いなんて嘘だろ。
だってこんなにも覚悟が決まっているんだから。
チームのためにプライドも何かも捨てて、俺等に嘲笑われるかもしれないのに身内話をして、俺等と協定を結ぼうと交渉を持ち掛けている。
この人ならどんなことでもしそうだ。
文字どおり、どんなことでもだ。
それとも、チーム分裂がこの人を変えたんだろうか? とにもかくにも、この人の意思は強そうだ。
「浅倉、話は分かった。けど、さっきも言ったがすぐに返事はできねぇ。俺の独断で決められるような問題じゃねえからな。浅倉、テメェの気持ちは分かるが、俺もこのチームのリーダーだ」
腰を上げたヨウは浅倉さんの前に立って、彼を見下ろす。
浅倉さんとヨウはタメ。つまり俺ともタメなわけだけど、なんだか浅倉さんの方が年上に見える。
だって悟ったような顔を作っているから。険しい顔から一変、ヨウは微苦笑を零した。
「身内をエリア戦争に関わらすのは、少しばかり気が引けている。俺の率直な気持ちだ。こいつ等は俺にとって大事なメンバーだからな。それは分かってくれ」
すると浅倉さん。
同じ微苦笑を零してヨウを見上げた後、ゆっくりと立ち上がった。
「アンタは、好いリーダーだな。おれと違ってさ」
そう、屈託なく言う浅倉さんはヨウに砕けた笑みを向けた。
悟った顔から一変、俺等と同じ年齢相応の顔で笑っていた。
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