08-04 「残り五日、追試をパスしたうち等がアンタ等の勉強を見てやる。パスしたのはうち、ハジメ、ケイにココロ。この四人で追試組を面倒みてやる」 え゛? 俺等で勉強を教えるの? ヨウ達に?! 俺だってそんなにできた方じゃないのに?! 「ええぇー……響子。ヨウ達に勉強を教えるって、自学自習より難しいことだって」 ハジメは無理だと意見するけど、「しゃーないだろ」響子さんはヨウ達を親指でさした。 「チームの戦力の大半が追試に回っちまっているんだ。うち等でどうこうできる状況じゃないだろ」 「そりゃそうだけどさ。はぁーあ……ヨウ達に教えるだなんて……骨折るよ。きっと」 仕方が無しに同意するハジメ。響子さんには逆らえなかったみたいだ。 俺やココロも響子さんに逆らえる勇気はなく、渋々と承諾した。響子さんに逆らえる人ってそうはいないと思うよ、うん。追試組も留年の危機が迫っているということで異論はなかった。 早速勉強するべく倉庫裏から、幾分勉強ができるであろう倉庫内に移動する。 幸いなことに此処の倉庫は常日頃から扉であるシャッターが開かれている。机や椅子はないけれど、中は静かだし、外より幾分マシだ。 滅多に人も来ないから好都合だろう。窓辺から日差しも入ってくるから視界も良いし。 周囲にドラム缶や鉄パイプ、木材といった荷はあるけれど、地べたに座り込んで教科書を開くだけの余裕はあるだろう。 さあ地べたに座り込んで勉強を開始……したはいいんだけどさ。 教科書を開いたシズがまず、それを眺めて数秒後におやすみなさいモード。うとうとと居眠りを始めた。早いよお前。まだ教科書を開いただけだろうよ。 シズを起こそうと足を動かす。 けれどその前にどこからともなく欠伸が聞こえた。 首を捻れば、眠気を誘われたかのように弥生も欠伸を噛み締めながら、「意味分かんない」世界史Aの教科書を近付けたり遠ざけたりしている。 胡坐を掻くヨウは俺も眠くなった。 頭に入らないと伸びをして、首をパキポキ鳴らした。ワタルさんなんて「留年でいいやー」もう諦めかけている。なんだこの根性なし達。 タコ沢を見習えよ。 あいつ、壁に寄り掛かって黙々教科書を眺めているぞ。 生物Tだけ赤点だったらしいんだけど、それだけ手をつけていなかったから結果が悲惨なことになったとか。すげーな、タコ沢、意外とやれる男なんだな。 勝手に自分で勉強しているんだもんな。 しかし……ヨウ達のあまりのやる気のなさに教える俺等は絶句。 どーするよ。このやる気皆無の空気。教える教えないどころじゃない。 まずはやる気を出させないと、どーにもなんねぇって。 俺の周りにいる不良って喧嘩には燃えるくせに、勉強になった途端消沈するんだな。 ガン――! 突然、倉庫内に木材の蹴り飛ばす音が聞こえた。 ビクビクッと驚く俺達に対して、響子さんはやる気のない面子にニッコリ。手には錆びかけた鉄パイプ(倉庫に置いてあったものを取ってきたんだろう)。 青筋を立てながら、「ざけてるんじゃねえぞ貴様等」荒々しい口調でヨウ達を睨む。 こ、恐ッ……。 「アンタ等、チームに迷惑を掛けている自覚あっか? 追試以上に面倒事を起こしてみろ。全員焼き入れてやる。うち等の目的はヤマトチームを潰すこと。それなのに保護者呼び出しだの、留年だの、喧嘩どころじゃないだのになってみろ。間接的に向こうチームに敗北するんだぜ? そんな状況にだけはさせねぇ。するような輩はうちが直々に制裁を下してやる。特に野郎共、不甲斐ねぇとこ見せやがったら女にしちまうぞ! あ゛あ゛ん?!」 それってナニをもぎとるってことですか……? 嫌だ、想像するだけでも痛いって! あ、あとツッコんじゃいけないけど、母音に濁点はつけなくてもッ……恐いんですけどー! 響子さんの形相にヨウ達は真面目に教科書を眺め始めた。 うとうとと眠りの妖精さんとじゃれていたシズも、いそいそ教科書を開け始める。 身の危険を感じ、響子さんの逆鱗に触れないよう自己防衛が働いたようだ。真面目に勉強を始めている。 偉いぞ、シズ。明日から女になりたくなかったら素直に響子さんの指示に従うべきだ。 だけどヨウ達はしかめっ面ばっかり。やっぱり勉強はからっきしなのか、何から勉強すればいいか分かってない様子だ。 俺等もヨウ達が何について分かっていないのか教えてくれないと、どう教えていいやら。 タコ沢は自分の分かっていない箇所が分かっているから、そこを重点的に勉強しているけど。 どれどれ、一先ずヨウの下に行ってみるか。 「大丈夫か?」 声を掛けると、イケメン不良はお手上げだとばかりに肩を竦めた。 「これ、俺の答案なんだが、何が間違っているかちーっとも分からん。ぜってぇ合っていると思うんだが」 差し出された解答用紙を受け取り、ざっと流し目に内容を読む。 これは世界史か。 何々ハワイ諸国をはじめて統治し、ハワイ王国を建国したのは誰か。 ヨウの答え『かめはめ波』 「お前。これは天然でやってんの? 漫画の読み過ぎたと言われなかったか?」 「かめはめ波大王だろう? 合ってるじゃんかよ」 「いやいやいやっ、カタカナでカメハメハ大王だからね! お前が書いたのは漫画の主人公が使う技名! サイア人がハワイ諸国を統治したってか?!」 「読み一緒だろうよ、これでペケはねぇよな。オマケしてくれてもいいじゃんかよ」 愚痴を零すイケメン不良の残念具合に溜息である。女の子だって幻滅するに違いない。イケメンでもおばかは論外だよな。 あまりにも酷い出来っぷりに、教える側も困惑。 いきなり手詰まりになった。これは五日以内に範囲を教えきれって方が難しいかもしれない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |