05-05
前橋はヨウの担任に「少し落ち着いて」声を掛けていた。
「服装は今更じゃないですか。取り敢えず、授業の出席のことだけでも」
「甘いんですよ。そうやって見逃しているから、こいつ等はツケあがってくるんです」
こいつ“等”?
待て待て待て、俺も入っているのかよ?
服装に関しちゃ、俺、真面目ちゃんじゃないかー! ヨウとつるんでるだけで、なんでそんなツケあがるとか言われなきゃいけないんだ。
授業サボったのは悪いと思うけど、そんな物の言い方ないって。妙に腹立つぞ。
ヨウは担任の言葉が気に喰わなかったのか、片眉をつり上げて盛大な舌打ちをした。
「ンだよ、エラそうに」
「言いたいことがあるならハッキリ言え。荒川」
「じゃあ、ハッキリ言ってやる。エラそうなモノの言い草してんじゃねえぞ。さっきからマジ、ウゼェんだよ!」
「落ちこぼれほどよく吠えるようで」
ヨウの担任が何か言う前に、誰かがヨウに向かって言ってきた。しかも明らかに小ばかにした台詞。
誰が言ったんだろ? 辺りを見回す。
一人の男子生徒が俺達に歩み寄って来たおかげで、今の台詞はこの人が言ったんだって分かった。
感じの好い眼鏡を掛けて、俺達の前で立ち止まる男子生徒は先輩っぽい。
ヨウにとっちゃ先輩も後輩もないみたいで、今の台詞にかなり腹を立てている。
「ンだと、テメェ、もっぺん言ってみやがれ」
「何度でも。落ちこぼれほどよく吠える」
「ッ、テメ」
「ちょちょちょッ、ヨウ! 此処で騒ぎをデカくするのはマズイだろ!」
腰を上げて掴み掛かろうとするヨウを必死に俺は止めた。
こんなところで目の前の先輩を殴り倒してみろよ? 大問題だろ?! 俺の言葉に納得はしてるみたいだけど、ヨウの腹の虫はおさまらないみたいだ。何度も舌打ちをしてる……恐ッ!
「須垣(すがき)、お前もヤメろ」
挑発に対して前橋が咎めてくる。
すると先輩は前橋に愛想よく微笑み、素直に謝罪。
「すみません。あまりにも態度のデカイ後輩に見ていられなくて。どうもこの後輩は、直ぐに暴力に走るみたいですね」
しかも場所を選ばないとは、ね。
嫌味ったらしい物の言い草にヨウは自分の座っていた丸椅子を蹴り飛ばした。
何事だとばかりに職員室にいる教師や生徒達がこっちを見てくるけど、ヨウは頭に血が上っているのか何なのか視線なんて全然気にしていない。
とにかくヨウは、キレているッ……マジギレしているって絶対!
担任のお小言で機嫌が最悪だったところに、トドメのヒトコトがきたもんだから、マジギレもいいとこ。あまりのヨウの恐さに俺は心の中で号ッ、地味に感じていた嫌な予感は的中したみたいだ!
このまま暴動でも起こすんじゃないかと心配していたんだけど、ヨウにはまだ感情を抑えるだけの理性が残ってたみたいだ。前橋の机を蹴って俺を見下ろしてきた。
「こんなとこさっさと出るぞ、ケイ。マジ胸糞ワリィ」
「え、あ、ちょ、」
速足で歩き出すヨウに俺は焦った。
ちょ、俺まだ説教中なんだけど。
それにお前、鞄を忘れているじゃないか! 前橋やヨウの担任の止める声を、一切無視しているし。
ああっ、ホントもうツイてねぇぜ!
グッバイ、上辺真面目ちゃんの称号。
今日から俺はセンセー達から目を付けられるであろう、上辺不良ちゃんの仲間入りだ! 俺、先公の話なんて聞かないぜ! これからは先公に反論をバンバンしてやるぜ!
……出来るわけねぇ。面倒事はゴメンなのになぁ。泣けてくる。
床に置いていた自分の通学鞄と、ヨウの担任の机の上に置いてあったヨウの通学鞄を持ってヨウの後を追い駆けることにした。
だけど俺は先輩に腕を掴まれてしまう。
「あの、何ですか」
「ちょっと話があるんだ。一緒に来てもらうよ。そっちの落ちこぼれ不良くんも、来てくれたら有り難いんだけどね」
先輩の呼び掛けにヨウが「あ゛?」と声を上げて足を止めた。
ヨウ、ツッコむところじゃないかもしれないけど、母音に濁点は不必要だぜ!
「一緒に来てくれるかい? 生徒会室に」
「フザけるな。ンなとこ行くわけねぇだろうが。行くぞ、ケイ」
「行くぞ……ッ、ちょ、待てって! あの、先輩。手を放して下さいッ、ヨーウ! 待てって!」
「貫名。土倉。苑田。谷沢も生徒会室にいる。君の知り合いだろ? 違うかい?」
俺は勿論、ヨウも驚いたみたいで弾かれたように振り向き先輩を凝視。
「一緒に来てくれるだろ?」
爽やかな笑顔を見せる先輩に地味の勘がまた疼いた。
俺の気のせい、だとイイケド……嫌な、なーんか嫌な予感がする。
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