05-06
◇
『 生 徒 会 室 』
突き出しプレートに印刷されている文字を、俺は声に出さず読み上げた。
生徒会っつったら全校生徒の前で話したり、ダルイ生徒総会の準備をしたり、学校のために陰で一生懸命働いたりする組織だよな。
学級委員だってしたがらない俺にとって生徒会なんて、まったく、と言っていいほど縁がない。
みんなの前に立ちたがらない、出たがらない、話したがらない野郎だぜ?関われって方が無理。そういう系は苦手なんだ、俺。
だから“生徒会”室なんて高校卒業するまで、一歩も足を踏み入れない領域だと思っていたのに。
心の中で溜息。溜息。また溜息。
できることならすぐにでもトンズラしたいんだけど、前に立ってらっしゃる須垣先輩が逃がしてくれなさそうだし、
「チッ、ダリィ」
ヨウを置いてトンズラすると俺が後々泣きを見る!
軽い舌打ちをして苛立ちをまぎらわしているヨウを須垣先輩が面白がるように笑っているんだから、またヨウの怒りが上がるんだよなぁ!
隣に立っているだけでヒシヒシ伝わってくるぜ、ヨウのお怒りが。
あのさ……どーでもいいけど俺に八つ当たりとかはしてくるなよ。
「ケイ、これが終わったらゲーセン行こうぜ。マジ腹立つ。やってられねぇ」
「お、おお。いいけど」
思ったそばから、ヨウからのお誘い。
うっわぁ。絶対ゲーセンでエアホッケーをするんだぜ! 気が済むまでエアホッケーをしまくるんだぜ! ……い、いやだなぁ。気が済むまでヨウとエアホッケーに付き合うなんて。
ヨウの奴、メチャクチャ強いから、俺ボロクソに負けるんだよな。
いつもボロクソに負けているのに、今日のヨウとエアホッケーをしてみ? ボロクソどころか惨敗どころか、怒りの捌け口にされる! その光景が目に浮かぶから気がドッと重くなった。
だからってお誘いを断るわけにもいかない。っつーか恐いからできねぇよ! マジ、どーして俺ってこんな役回りばっかなんだよ! ついてねぇー!
俺が嘆いている間に(あくまでも心の中で)、須垣先輩が生徒会室のドアを引いた。
中に入ると生徒会役員であろう生徒達と、先輩の言ったとおりワタルさん達が席に着いていた。
俺達が入って来たことに気付いてワタルさんが挨拶代わりに片手を上げると俺達を手招きしてきた。
迷うことなくヨウと俺はワタルさん達のところへ向かう。
「遅いじゃーん。何してたの? 二人が来るまで僕ちゃーん達、待ちぼうけ喰らってたんだけど?」
「ウッセェな。担任に呼び出し喰らってたんだよ」
「まさか舎兄弟揃って?」
「悪いかよ」
不機嫌そうに答えるヨウに、「ダッサー!」声を上げてワタルさんは大笑いした。ワタルさん、スゲェよな。こんな状態のヨウを笑い飛ばせるなんて。
机に通学鞄を置きながら二人のやり取りを見てたら、ブレザーを軽く引っ張られた。
「ちーっす、ケーイ」
満面の笑顔で挨拶してくるのは弥生だった。
弥生の隣には銀に髪を染めているハジメが座っている。
「ケイ、昼休みぶり」
同じようにハジメが柔らかな表情を作って挨拶してきてくれた。
ハジメ。
本名は土倉(つちくら) 肇(はじめ)。
俺と同い年で、一ヶ月前に大怪我まではいかないけれど廃工場で不良達に袋叩きにされて怪我を負ったヨウのダチ。俺と同じようにあんま喧嘩はできない。
だから初めてハジメと顔を合わせた時、ワタルさんが、
『フルボッコにされた同士だねねねねん!』
余計なことを言ってくれた。
マジあれを言われた時、俺もハジメも引き攣り笑いしかできなかったぜ。
ワタルさんにとっては笑い話でも、フルボッコにされた俺達にとっちゃゼンッゼン笑えなかったって。
ちなみにハジメと弥生と俺は同じクラスなんだ。
弥生は同じクラスだって知っていたけど、まさかハジメまで一緒にクラスだとは思わなかった(不良と同じクラスかよ! って嘆いたことは俺だけの秘密だ)。
二人とも不良なだけあって学校をよくサボる。
ハジメは今の今まで怪我してたから学校に来れなかったみたいだけど、怪我が完治してから俺達とよく体育館裏でふけているよ。今日も一緒にふけてたし。
弥生は学校をよく抜け出して他学校に通っている響子さんやココロと一緒にいるみたい。三人はスッゲェ仲が良いってヨウから話を聞いた。
あ、俺達のところに来る時もあるんだぜ。今日も二時限目まで俺達と一緒にいたしさ。
ヒトコトで言えば弥生って自由奔放な性格の持ち主だ。ヨウと関わりを持たなきゃ知り合うことも無かっただろう(是非とも知り合いたくは無かったよ)二人に挨拶をした俺は、席に着いて抱いていた疑問を投げ掛ける。
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