04-04
下唇を噛み締めて、引き剥がそうとするヨウ達の手を振り切って利二に思うがまま手を上げた。
気持ちをぶつけるように殴れば、負けじと利二の拳が飛んでくる。至近距離にいる俺は、それを避けることも出来ず、フルボッコされた身体で受け止める他なかった。
「俺にどうして欲しかったんだよッ、言ってみろよ!」
「どうかして欲しかったわけじゃない!」
「なんだよ、それ! お前の言うこと分かんねぇよ! 利二には関係ないことだったのに、ああやって巻き込んでッ、俺はあの時どうすれば良かったんだよッ。どうしようもなかったじゃないか……っ、ああするしかなかった! そうだろ?!」
お前には分からないくせにッ。
あの時、追い詰められていた俺の気持ちなんて分からないくせに。
知り合って日の浅い日賀野に目を付けられた上に、ダチを巻き込んで、惨めに負けてフルボッコされた俺の気持ちなんか。
「言うとおり、どうしようもなかった。どうしようもっ、あれが最善の手だっただろうっ」
思わず振り翳した手を止めてしまった。
あがった息を整えもせず、俺は利二を凝視する。
「お前にとっても、自分にとっても。そんなこと分かっているッ……! だからっ、だから腹が立つんだっ」
俺に向けていた手を下ろし、一呼吸置いて利二が今までにないほど静かな声を出してきた。
「途中の過程がどうであれ、お前の判断は自分の目から見た限り間違っちゃいなかったんだ。日賀野の誘いを断ったことも、自分を逃がしたあの行為も、」
利二の言葉はまるで冷や水。一気に怒りが冷めていく。
「ヤラれたから何だ。ダサいから何だ。お前は間違っちゃ判断なんかしてない。頼むから自分の判断に胸張れ。お前は自分を逃がした。舎弟として舎兄を裏切らなかった。日賀野の誘いには乗らなかった。そう、なんで主張しないんだ」
「利二……」
「でなければ、お前を置いて助けを求めに行った自分の行動さえ……間違いだと思ってしまうだろ。別の手があったんじゃないかと、お前にも自分にも腹が立つだろ。悔いるだろ。どんな思いでお前をあの時置いて行ったと思うんだっ……何も分かっていないッ、お前は何もッ」
顔を背ける利二に、俺も手を下ろして俯いた。
不思議と目頭が熱くなった。フルボッコされた時も、ヨウ達の前でも気丈に振舞えていたのに、利二のヒトコトで張り詰めていた気持ちが緩む。
抑え付けていた悔しさが襲ってきた。熱くなる目頭を冷ますように頭を軽く振った、けど、視界が滲む。俺の力でもどうしようもない。意思に関係なく勝手に視界が滲む。
それがまた悔しくて、掌に爪を立てた握り拳を利二にぶつける。
本気でぶつけたいのにカラダに力が入らない。ぶつける拳の力、メッチャ弱いと思う。情けねぇ。
「おまっ、そういうことは…先言えよ……なんだよ。なんなんだよ」
利二のカラダを叩いた。何度も何度も。
「なんだよ……としじっ、だって……分かってねぇよ……おれが、あの時、どんなおもいでっ」
利二は何も言わない。何も反撃してこない。何かぶつけてくれたらいいのに、さっきみたいにぶつけてくれたらいいのに。
じゃないと今の俺、スッゲェダッサい奴だろ。
一方的に感情ぶつけている俺、癇癪起こしたガキみたいだろ。
馬鹿みたいに情けない拳を利二のカラダにぶつける。手が止まらない。止める術を知らない。同じ動作を繰り返す。
ふと手が止まった。俺の意思で止まったんじゃない。止められたんだ。
ノロノロと顔を上げて、叩いていた自分の手に視線をやる。何度も叩く手を止めてくれたのはヨウだった。
「もう、いいだろ」
ヨウの言葉で俺は項垂れて身体の力を抜いた。
惨めだったんだよ、日賀野に太刀打ちできなかった自分が。フルボッコにされた自分が。
情けなかったんだよ、日賀野の誘いに少しでも乗ろうとした自分が。利用されそうになった自分が。
許せなかったんだよ、利二を巻き込んだ自分が。ヨウ達に背を向けようとした弱い自分が。
「……なんだよ…っなんなんだよ」
「ケイ……」
滲んだ視界を振り切るように俺は俯いて下唇を噛み締めた。
何よりも悔しかった。ヨウの舎弟とかさ、不釣合いとかさ、そんなの関係なしに、ただただ悔しかったんだ。
「ダッセェ。だっせーの……」
すっげー、悔しかったんだ。
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