04-03 弾かれたように俺は声の方を見る。 今までに見たことのないような険しい顔で俺に歩み寄ってくるのは、小1時間くらい前まで一緒にいた利二だった。 お前、此処にいたんだな。全然気付かなかった。 利二が地味というのもあるけど、此処に来た時の俺の意識が朦朧としていたせいで気付かなかったってのもあると思う。 ヨウ達に助けを求めてくれた後、ゲーセンで俺と同じように手当てを受けていたみたいで、右頬に絆創膏が貼ってある。 その傷を見ると罪悪感が出てくるけど、利二が無事に逃げてくれたみたいで良かった。安堵の息が漏れる。 束の間、速足で歩み寄って来た利二に容赦なく胸倉を掴まれて、力いっぱい引っ張られて無理やり立たされた。利二にこんな力があるなんて驚きだ。 思った瞬間、胸倉を引っ張られてそのまま向こうの床に投げられた。 受身を取れず俺は床にたたきつけられ、手から絆創膏の箱が滑り落ちる。ボロ雑巾のようになった俺の身体になんて仕打ちだよ! イッテェ! 「何すんっ、」 「田山! お前、ひとりで敵う相手だとでも思ったのか! 勝手なことばかりして……ふざけるな!」 倒れた俺に馬乗りになってくる利二は、また胸倉を掴んで怒声を張ってきた。 いつも冷静な利二がこんなに感情を剥き出すなんて珍しい。呆然とする俺を余所に利二が言葉を続ける。 「よくもあんな勝手な判断ッ、独り善がりもいいところだ! 流れ的に自分が逃げることになったがッ、もっと別の流れも作れただろう! このカッコ付け!」 「ッ、俺がいつどこであの状況でどうやってカッコつけたって?!」 「すべてだ。お前の判断全てがカッコつけなんだ!」 今の言葉は頂けないぜ、ヒジョーに頂けないぜ。 忘れかけていた怒りが込み上げ、俺は利二の手を振り払って逆に胸倉を掴むと身体を起こして床に押し倒した。身体の痛みなんて一切関係ない。 「おッ、おいケイ! 五木!」 「ちょ……やめろって!」 ヨウやモトの制する声が聞こえるけど関係ない。 とにかく目の前の野郎にメッチャ腹が立つ。気付けば腹の底から声を出すように怒鳴り散らしていた。 「お前には関係ないことだっただろ! 何か? お前は俺と同じようにフルボッコされたかったってか?! それともお前と一緒だったら日賀野に勝てたってか?!」 「そうは言ってないだろ! お前の勝手な判断に腹を立てているんだ!」 「ああするしかなかっただろ! 他に手なんかなかっただろッ、つ、」 手加減無しに腹に蹴りを入れられた。 フルボッコにされた身体によくも蹴り入れやがったなチクショウ! もう堪忍袋の緒が切れた! 痛みに呻きながらも頭に血がのぼった俺はお返しとばかりに、利二の横面を引っ叩いた。 乾いた音がゲーセンのBGMに掻き消される。 「あ、あああっ……ケイさん。五木さん。その辺で」 ココロのオドオドした声もゲーセンのBGMに掻き消される。 「もう、そんくらいにしとけ。怪我に障る」 「ヨウさんの言うとおりだ。アンタ等離れとけよ! 面倒な奴等ッ、イデッ! ヨウさんなんで叩くんっすか!」 「お前はそろそろ空気読め」 「いや、オレはァアア!」 ただならぬ空気にヨウとモトが俺達を引き離そうと、こっちに歩み寄ってきたけど、もう遅い。 いつもいつも平和をこよなく愛する地味平凡少年でもなー。 「田山ッ……」 喧嘩を売り買いするもんだぜ。 「先に喧嘩振ってきたのはそっちだッ、利二」 相手が不良ならまだしも、似たもの同士なら尚更売られた喧嘩は買うっつーんだ! 完全に俺も利二も、闘争心に火がついた。 睨み合った刹那、怪我のことなんて頭から飛んで感情のまま手を上げた。 お互いにワザと怪我した箇所を狙い、服を引っ張り合って床に押し倒して、転がっては相手よりも有利に立とうと馬乗りになる。 引っ掴み合いの喧嘩をしながら利二が怒声を上げてきた。 「お前が勝手な判断をしたばっかりに、こんなことになったんだ! 分かるか田山!」 「分かるかよ! 大体、さっさと利二が帰っていたらもっと別の流れになっていたんだ!」 「あの状況で帰れるか?! 帰れるわけないだろう! あの状況で帰れるような器用な奴なんていないだろ! いるなら自分の前に連れて来い!」 利二の拳が肩や腹部や面に当たる。俺も負けじとやり返して怒声を張った。 「いたとしてもお前の前になんか連れて来るかよ! 日賀野にビビッてたくせに!」 「その言葉、お前にだって言えることだろ! それに田山よりはビビッてなんかいなかった! ビビりの腰抜け!」 「お前はビビりじゃないってか?! んじゃ、今度髪染めてお前をビビらせてやるよ! ぜってーお前ビビるから!」 「やってみろ! 中身を知っているんだ! 染めたとしても鼻で笑ってやる!」 「ケイ、ケイ! テメェ怪我しているんだ! やめろ! 落ち着け!」 「五木、あんたもヤメロって! ちょ、落ち着けよ!」 俺達の間にヨウとモトが入ってきた。 掴み合う俺達を引き剥がそうとしながら「落ち着け!」とヨウが声を荒げる。 けど頭に血が上っている俺達には聞こえない。ヨウ、モトの声が無情にもゲーセンのBGMによって消えていく。 俺はとにかく悔しかった。利二の吐く言葉の意味が分からなかった。 あの時ああするしかなかったじゃないか、何で分かってくれないんだ、何で俺がカッコつけなんだ、色々と気持ちがぶつかり合って昂ぶる。 [*前へ][次へ#] [戻る] |