03-11
――田山は、古本屋の近くの人通りの少ない自販機にいます。
真っ向から吹きつける風を受けながら、ヨウは目まぐるしく過ぎていく景色を睨み付ける。
見事に染まっている金髪と交じっている赤メッシュが、吹き付ける風によって大きく揺れ靡くが一切気にする余裕が無かった。
自分の舎弟があの日賀野大和に目を付けられた。
しかも舎弟になれと迫られ、ケイは自分を裏切れないからと断った。
ケイは友だけを逃がして今もヤマトと共にいるだろう。
ヤマトのことだ、断ったケイをどうするかなんて目に見えている。
「俺の舎弟になれませんか。そうですか。うんじゃこの話はなかったことに」なんて軽く事を済ませてくれる奴ではない。断ったら最後、無傷で済む筈がない。
ヤマトの性格を知っているからこそ、ケイの安否が気になる。
下唇を噛み締め、ヨウはポケットから携帯を取り出す。ケイからの連絡はまだ無い。
ケイとは成り行きで舎兄弟になった。
自分は不良、相手は普通そうな少年、正反対の自分達が舎兄弟になった理由は単純。ケイという存在が面白かったから。
チャリ爆走させて自分達にぶつかってきそうになったあの日、タコ沢を踏ん付けてチャリを飛ばしていたケイが妙に可笑しかった。
翌日、ケイの姿を見かけて同じ学校だと知った。礼がてらに話してみたら意外と馬の骨が合う奴だった。
地味で日陰な奴なのに、話してみれば自分と同い年なんだって思った。
不良の自分と話が合わないなんて思い込んでいたからこそ、ケイと話が合ったことに何となく新鮮さを覚えた。
タコ沢と一緒に逃げた時、チャリに乗せてもらいながら「こいつマジで面白い」という気持ちは一層高まった。
ケイのようなタイプとつるんだことが無かったせいだろう。
こういうタイプを舎弟にすれば面白いんじゃないか、なんて軽はずみな気持ちで舎弟を作った。それがケイだった。
自分達不良の間では“舎弟”は自分の後継者とか背中を預けるとか、そんなことを言われているが実際そんな能書きなんて気にしたことも無かった。
こいつは面白い、だから今日から舎弟にしてみた。
それだけだ。ケイとの関係は舎兄弟、というよりただのダチ関係。肩書きだけの舎兄弟関係だった。
そんなケイが、自分の後を追いかけて来てくれたことがあった。
ハジメと弥生のピンチだと知ってナリ振り構わず飛び出した自分を、チャリに跨って追いかけて来てくれた。
“舎弟は舎兄の後を追うもんだろ。違うか?”
言葉が脳裏を掠る。ヨウは掌が白くなるまで携帯を握り締めた。
ケイのピンチに自分は間に合うのだろうか、いや、
「頼む。間に合ってくれ……ッ、シズ! もっと飛ばせねぇのか!」
「……警察沙汰にさせるつもりか」
背中を小突いてスピードを出すよう催促すれば、シズが欠伸を噛み締めながら肩を竦めた。
今、ヨウはシズと共に利二の言う自販機に向かっていた。
古本屋の近くの人通りの少ない自販機にケイとヤマトがいる。その情報を頼りにバイクで向かっているのだが、気持ちが先走っているせいか五分ほどで着く場所がやけに遠く思える。
「モトや響子を連れて来なくて良かったのか? ヨウ」
「大人数で行ってどうこうなる相手じゃねえ。五木の話じゃ、ヤマトの単独行動みてぇだしな。俺とお前の二人で十分だ」
「……いや、三人だな」
チラッと横を一瞥するシズに、ヨウも右横に視線を向けた。片手を軽く上げてくるのはワタルだった。
「ワタル……あいつ、いつの間に」
「モトか響子かココロが連絡を入れたんだろう。ヨウ、お前、自分と一緒に警察沙汰になる覚悟はあるか?」
シズの問いにヨウは愚問だとばかりに背中を小突いた。軽く吐息をついてシズは速度を上げる。吹き付ける風の強さに、ヨウはやや目を細めてしまった。
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