私を捕まえてごらんなさい 玉子焼き、真っ赤なタコさんウインナー、から揚げ、魚肉ソーセージとキュウリのつまようじ刺し、茹でたブロッコリー(マヨネーズ付き)。 母さん、今日の弁当のおかずは比較的食べ易いものばかりですね。 おかげで片手で摘みながら食べられます。 でも贅沢を言えば、デキれば今日のご飯はおにぎりが良かったですね。 だっておにぎりだったら、逃げながら食べられます。 いえ、今日の白飯(ふりかけ付き)に文句を言っているワケじゃありません。 ただ……おにぎりの方が色々と俺の為だったんじゃないかと思うんです。 だって逃げながら、白飯の上にふりかけは降り掛けられませんし、走りながら箸を使うのは至難のワザです。 心の中で母さんに語りかけてみる。 母さんだったらたぶん、「走りながら食べるなんて行儀が悪い!」とか言ってくるんだろうなぁ。 けどさ、仕方が無いじゃん。今のこの現状。 「待てや田山圭太ー!」 「ッ、しつけー!」 廊下を全速力で走っていた俺は、から揚げを口に入れながら後ろを振り返る。 真っ赤な髪をした不良さまが俺の後を追い駆けて来ている。しかも全速力で。 運動能力が悪いわけではないけれど、でも飛び抜けて良いわけでもないから困った。 廊下で話している生徒、擦れ違う生徒の視線を感じながら、俺は階段を駆け下りる。 どうにかこの不良さまを撒かなければ。 俺は階段を下りながら、何処か逃げられる場所を考える。 図書室、保健室、職員室に体育館。体育館裏。 人気の多いところが、俺的に有利だよな。 不良さまが問題行動を起こせば諸々厄介なことになるわけで(例えば教師に見つかって職員室行きとか)、それはつまり俺的には有利で好都合で。 だけどこの場合、逃げながら弁当を食っている俺にも厄介事諸々が降りかかってくるわけで。 ……ダメだ! これ以上厄介事には巻き込まれたくないっつーの! どうすりゃいいんだ。 取り敢えず、全速力で逃げるしか手は無い。 どうにか後ろから追っ駆けてくる不良さまを撒くことに決めた俺は、混乱させるように他の教室に入って生徒に紛れる。 生徒達に「何だこいつ?」とか、痛々しい視線を向けられても俺はめげない! 今日は注目しっ放しなんだ! こんなの屁でもない筈。 教室に入っては出て行き、教室に入っては出て行き、入ると見せかけて入らなかったり。 階段を下りると見せかけては駆け上がって、逆に上がると見せかけて駆け下りて。器用に弁当を食いながら俺は逃げまくった。 暫く、そうやって逃げていると不良さまの気配がプツリと消えたような気がした。 それでも俺は振り返らず、体育館裏付近まで逃げた。 まだ逃げた方が良いだろうけど、そろそろ地味凡人の体力は限界に達していた。 「ハァハッ、もう無理……限界ッ」 その場にしゃがんで、俺は息を整える。 今日は朝から厄日だ。 ヨウとふけたり、ワタルさんと知り合ったり、挙句の果てには赤髪の不良さまに狙われたり。 これはやっぱり、ヨウが俺を舎弟とやらにしたせいではないだろうか。 いや、大元の原因を辿れば俺が赤髪の不良さまをチャリでひいたせいなんだろうけど(ひいてはないんだけどさ)。 よく考えてみれば、ヨウが俺に礼を言うとか何とか言って、体育館裏に呼び出したのが俺の不幸の始まりだよな。 ヨウと一緒に帰ることになったせいで、赤髪の不良さまに再びお会いしたわけで。 やっぱり、元凶はヨウじゃん。 俺は弁当に目を落とした。 おかず、大半は食べたけど食べた感じしない。味わってないせいだよな。 味わう暇がなかったんだけど、やっぱ弁当ぐらいゆっくり味わって食いたいって。 大きく溜息をついて弁当に付いているふりかけを白飯にかける。白飯だけでも味わおう。 ふりかけをかけ終わったと同時に背中に大きな衝撃がきた。 おかげで俺は前に大きく倒れてコケた。どうにか器用に弁当は死守する。 「イッテー! 誰だよッ、後ろから蹴ったヤツ!」 「やっと、見つけたぜ。田山圭太」 ゲッ、その声は。 恐る恐る後ろを振り返れば、あらまぁ素敵な形相をしておられる赤髪の不良さまが立っておられるじゃアーリマセンか。俺は愛想の良い顔を作った(つもり)。 青筋がいくつも立っている赤髪の不良さまは、俺の愛想の良い顔が相当気に喰わなかったらしい。 ズッコけて地面に倒れている俺の胸倉を掴んで立たせてきた。 「ギャァアアア! ストップ! 喧嘩は良くないっ、暴力は何の解決にもならないって!」 「ウルセェ! このッ、俺に喧嘩を吹っ掛けてきたのはそっちだゴラアア!」 「いやぁ、俺はそんなつもり全く無かったんだって」 「あ゛あ゛?」 こやつも母音に濁点を付ける輩か。 おかげで俺、足が竦み上がっているんだけど! どうして不良さまは一々母音に濁点を付けるんだろうなぁ。俺には分からん。 [*前へ][次へ#] [戻る] |