01-10
「テメェのせいでな。俺は荒川庸一に二度も負けたんだぜ?! 一度目はテメェがチャリで俺をひこうと……いやひいたせいで。二度目はテメェが荒川庸一と一緒にチャリで逃亡したせいで」
「あ、逃げたことは負けにならないんじゃ。ホラ、ロープレでも戦闘から逃げ出したらノーカンだろ?」
「ロープレだぁ?」
いや、だってロープレとか戦闘場面で逃げ出したらノーカンされるじゃん。
最近のゲームは逃げ出した場面もカウントして記録に載ったりするけどさ。
俺の発言に赤髪の不良さまは、口元を痙攣させていた。
うん、もしかして怒りを煽った? 煽ったんだろうなぁ……俺のおばか! 怒らせてどうするんだよ!
「テメェ、俺はゲームなんざしねぇんだ! 知るか!」
「へ? あ、そうなんですか。あははは、こりゃまた失礼。けど、逃げることと負けは」
「逃げる際、俺の顔面に鞄ぶつけてきやがった野郎は何処のどいつだ!」
鞄……俺ですね、投げましたね、スミマセン!
でもあれは、自己防衛が働いたんですよ!
だって、あんた恐かったんですよー! 片手の指の関節を鳴らしながら、赤髪の不良さまが俺を見据えてくる。
ヤバイ、これは殴られる一歩手前だ。
俺を見据えていつでも殴れるようタイミングを見計らっているんだろうな。
とにかく、話題を逸らさなければ。殴ることを一時でも良いから、忘れさせなければ。
「あ、あのーよく俺を見つけられましたね」
「あ゛?!」
一々母音に濁点付けやがって、恐いんだよチクショウ。
でもめげるな俺、やれば俺もデキる子だ!
「お、おお俺って地味じゃないっすか。見つける方が苦労するみたいな? 各学年十クラスあるんですよ?」
「そりゃ探し出すのに普通は苦労するな。テメェみたいなクソ地味な野郎」
クソ地味な野郎。
正論だけど、他人から言われるとヒジョーにムカつく。
「だが荒川庸一絡みだって知れば、案外すんなりと見つかる。あいつと絡む物好きな野郎はそういないからな。絡むとすればチャラけた野郎が殆どだ。お前みたいな地味な野郎が絡むなんて、相当異例なんだよ」
「そ、それで簡単に見つけ出したと?」
「ああ。人をちっとシメて、テメェのいるクラスと名前も割り出した」
俺のことを調べるために、人をシメちゃったんですか。
すみません。地味な俺のせいでこのお方からシメられた人。今、スッゴイ罪悪感を抱く。
「ちなみに一年ですか?」
「タメだな」
「あーそうですか。タメなんですか。先輩に見えましたよー。いやぁ、俺と違って立派なガタイですね。羨ましいな」
「……話を逸らそうとしてねぇか?」
ヤバイ。
『貴方に思わず尊敬しちゃいますよ、褒め殺し作戦』は、どうも相手に効かないみたいだ。
俺は首を大きく横に振って、取り敢えず否定する。赤髪の不良さまは「そうかそうか」と意地悪い笑みを浮かべてきた。
ヤバイ、これは1発殴られる。絶対殴られる。
痛いの嫌なんだけどなッ、とか思っていたら赤髪の不良さまが拳を振り上げてきた。
俺は咄嗟に、片手に持っていた弁当を空高く放り投げて身構えてしまった。
――ボトッ。
そんな音が辺りに寂しく響いたような気がする。
放り投げた弁当箱は見事に地面に転がった。
だけど弁当が宙に待った際、赤髪の不良さまの頭に弁当の中身が落ちた。落ちてしまった。
嗚呼ッ! 赤髪の不良さまの頭に白飯(ふりかけ付き)が!
嗚呼ッ! 最後に食べようと思っていた真っ赤なタコさんウインナーが頭の上に乗っている! なんて勿体無い!
突然のことに呆然としていた赤髪の不良さまが、我に返ったように俺の胸倉を握り締めて大きく揺すってきた。
「テメェ〜〜〜ッ!」
「ごめんなさい! すみません! 自己防衛が働いてッ」
真っ赤なタコさんウインナーが白飯(ふりかけ付き)と一緒に、赤髪の不良さまの頭の上に乗っている。それを見るだけで笑っちまう!
クッソー踏ん張れ、俺、堪えろ、俺!
どんなに阿呆な光景でも、笑える光景でも、笑ったら最後で最期になるだろ!
極力、赤髪の不良さまの頭は見ないように努力する。
でも一度興味を持ったら気になって気になって、恐る恐る赤髪の不良さまの頭を見たら噴き出しそうになった。
ま、マヌケの他なんでもないって!
「今、笑いやがったな?」
「と、と、とんでもないですっ、笑って……ッ、ないです!」
赤髪の不良さまがカラダを震わせている。
その度に真っ赤なタコさんウインナーが微動。白飯(ふりかけ付き)と一緒に微動。赤髪と真っ赤なタコさんウインナーが微妙にマッチ。
これさ、笑わない方が辛いって。
我慢していたら赤髪の不良さまがキツく胸倉を掴んできた。
息苦しいけど笑いたくて仕方が無い。
必死に我慢していたら、赤髪の不良さまが舌打ちしてきた。
うわっ、今度こそ殴られる! けど真っ赤なタコさんウインナーが落ちないか気になって危機感が湧かない! 寧ろ、腹抱えて笑い転げたい!
素早く拳が振り上げられた瞬間、俺はやっと危機感が湧いて冷汗が流れた。
次の瞬間からスローモーションだったような気がする。
振り上げられた拳が俺に向かっていると同時に、赤髪の不良さまの頭に凄まじいスピードで缶コーヒーが飛んできた。
その缶コーヒーが赤髪の不良さまの頭にぶつかって、赤髪の不良さまの拳が俺に向かって飛んでくることはなかった。
相当痛かったのか赤髪の不良さまはその場にしゃがみ込み、胸倉を離されて俺は3歩ほどよろけて後退り。
缶コーヒーが飛んできた方角を見れば、やきそばパンを頬張っているヨウの姿。
「何やっているんだ。ケイ」
「いや、何って、喧嘩に巻き込まれた? ……見れば分かるだろ?」
カッケー。お前、なんでこうやってナイスタイミングで助けてくれるんだよ。
この喧嘩らしきものの元凶がお前だとしても、原因はお前にあるとしても、今のはカッケーよ。
イケメンって何しても格好良く見えるから癪にくるよな。
買い物袋片手にぶら提げて、やきそばパンを食っているヨウは意外そうな顔をして俺を見てきた。
「お前、喧嘩買う奴だったんだな。マジ意外」
「違う! よーくこいつを見ろって!」
「ん? ……こいつ、誰だ? 知らねぇぜ」
俺を此処まで巻き込んでおいて、「知らねぇ」って……お前は何を言っているんだよ。
「ホラァ、一回目は俺がチャリで踏み付けて。二回目はチャリで一緒に逃げたあの不良さん」
「あー思い出した。あの時のマヌケ負け犬不良」
「ゴラァアア! 荒川庸一! この俺を一瞬でも忘れるなんてイイ度胸だな! しかもマヌケだとッ…いてて」
赤髪の不良さまが頭を押さえながら、ヨロヨロと立ち上がる。威勢だけはイイよな。この人。
立ち上がった拍子に、真っ赤なタコさんウインナーが白飯(ふりかけ付き)と一緒に地面に落ちてしまった。
折角缶コーヒーの衝撃にも堪えていたというのに、残念。
そして笑える。笑っちゃイケねぇけど笑いたい。
必死に我慢していたら、米粒が赤髪の不良さまの頭についているのが目に飛び込んできた。
しかも本人は気付いていない。
いや気付いているんだけど、どうしようもないんだろうな。
とにかく赤髪の不良さまは敵意剥き出しでヨウを睨んでいる。
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