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01-04



心地良いチャイム音が聞こえてくる。

一時限目の授業が始まったようだ。俺は心臓をドキドキバックバクさせながら、校舎を見つめ、否、明後日の方向を見つめていた。 


生まれて初めてサボったぞ。サボっちまったぞ。

あ、今のは大袈裟だったかも。

サボったことないっていうのは嘘だ。


だけど俺、今まで学校をサボる行為として使っていた手段は仮病を使って学校を休む。

もしくは保健室に行って授業をサボることくらいしかやったことなかったから、こうやって堂々と教室を抜けてサボりを起こしたことはない。


これからも、仮病以外のサボる手を使うことはないと思っていた。思っていたのに、俺、フツーにサボちゃったよ。


心の奥底で溜息をついて、俺はヨウに流し目。

本当にダルかったのか、はたまた単に眠いだけなのか、大きな欠伸を繰り返し零している。

俺は紙パックが売っている自販機の前で、飲み物を選んでいるヨウに質問した。


「なあヨウ、どうして寝不足なんだ?」


するとヨウは先輩に付き合って徹マンをしていた、と返答。

徹マン、俺は聞いたことのない単語にキョトン顔を作る。


「ゲームの名前か? それ」


途端にヨウが噴き出した。

失礼な反応だなおい。妙にハズくなったぞ。


「確かにゲームだけどよ。徹マンの意味は徹夜で麻雀すること。麻雀やったことねぇのか?」 


自販機から珈琲を取り出しているヨウは、笑いながら質問返し。俺は頬を掻いて唸った。

「それこそパソコンでちょっとやったことあるくらいだけど。あ、ツモとかロンとかなら分かるよ」

「麻雀は面白いぞ。やり始めたら夜が明けちまう。ケイ、今度教えてやるよ。生の方が燃えるぜ」

そうなのか。

俺、わりかしゲームは好きだし、ゲームには結構が興味がある。

パソコンの麻雀は意味が分からなかったけど、生の方が面白いならやってみたいかも。


「ケイは麻雀以外になんか知ってるゲームあるか?」

「えー? テレビゲームばっかだしな俺。ヨウ、そっちのゲームは?」

「分かんねぇな。やってみてぇとは思うけど」

「じゃあ今度俺の家に来いよ。させてやるから」


おばか、俺のおばか。

能天気にそんなことを言っている場合じゃないだろ。

なんで不良さんと友好を深めているんだ。

ヨウが珈琲飲みながら俺に視線を向けてきた。

何となく視線の意味が分かったから、俺は両手を軽く上げる。


「財布は教室。だから買いたくても買えないンデス」

「はあ? マジかよ。財布と携帯は常にポケットに入れておくものだろ?」

「携帯は普段、家に置いてあるんだけど。学校じゃ滅多に使うことも無いし、見つかって没収されたら面倒じゃん?」


「クソ真面目だな。ケイ」


悪かったな。真面目ちゃんで。

俺はメンドー事に巻き込まれたくないんだよ。と、心の中で悪態をついてみる。

心の中の俺は強いんだ。どんな不良サマのお言葉も反論デキちゃうんだからな。


でも、実際の俺。


何も言えていません。言えません。言えるわけありません。恐いから!

断じてチキンではないと思う。不良を目の前にした一般人ならば、誰だって俺のようにすると思うから!


「しゃーねぇな」 


ヨウが自販機に小銭を入れ始める。

俺が止める暇もなく、適当にボタンを押すとヨウは自販機から紙パックを投げ渡してくる。

どうにか紙パックをキャッチして、ヨウに礼を言うとパックに目を落とした。


豆乳。何故、豆乳?

おもむろにストローの袋を開けて、ストローを飲み口に刺す。

そのまま豆乳を一口飲んで、思わず歌いたくなる。

「豆乳はー歩いてこない。だから毎日飲むんだねー」

「ククッ。一日一本。三日で三本って、その後歌うつもりかよ」

「……って! それは一昔前の牛乳のCM! ツッコんでくれよ! しかも、何で豆乳だよ!」

「カラダには良いぜ?」


そりゃカラダにはイイよ? イイけど、豆乳って。豆乳って。

奢ってもらっている身分だから、あんま文句は言えないけどさ。


どーも、俺、からかわれているような気がしてならないんだよなぁ。


豆乳を飲んでいるとヨウが顎で前をしゃくってくる。

場所を移動するって意味なんだろうな。

素直に頷いて俺はヨウの隣に並んで体育館裏に移動する。


体育館裏っつったら、昨日ヨウに呼び出しを喰らった場所。


イイ思い出はないんだよなぁ。

昨日の記憶が鮮明に蘇ってくる体育館裏に着いた俺は、ひっそりと溜息をついた。

階段のとこに座って俺達は適当にたむろする。


体育館裏は風通りが良くて気持ちいい。

しかも階段から空を仰いだら、高くて遠い遠い空が俺達を見下ろしていて居心地がイイんだ。


俺、結構、体育館裏好きになりそうかも。


体育館から聞こえる生徒達や教師の声をBGMにしながら、俺は飲み終わった豆乳のパックに空気を入れたり逆に吸って空気を抜いたりして遊ぶ。

ヨウも眠いのか、それともダルイのか。飲み終わった珈琲のパックを地面に置いて大きな欠伸を一つ零して目を閉じていた。

頭の後ろで腕を組んで壁に寄り掛かって目を閉じているヨウを、俺はチラッと一瞥する。

ヨウは寝ているみたいだ……俺、ヨウの舎弟なんだよなー。


「舎弟って何するんだろうなぁ。兄貴、お供しやす! ……って感じなのは分かるんだけどなぁ」

「俺の弟分だって考えればいいんだろ」

「うわっ、起きていたのかよ。ビビッたー」


ダルそうに欠伸を噛み締めているヨウは、頭を掻きながら重たそうな瞼を開ける。


「弟分って言われてもなぁ。兄貴! お供しやすって俺、言うべきか?」

「なんでそういうイメージしか持たないんだよ」

「だってイメージ湧かないっつーかさ」


ホントは舎弟なんてなりたくないんだけど。

内心、本音を垂れながら俺はヨウに視線を送る。

「っつーか、俺みたいな奴、舎弟にしても価値ねえって」

「面白ぇからな。お前」

「それで舎弟にするお前が凄いって。バッカだろ」

そこまで言って俺はハタッと気付く。

天下の荒川庸一を『馬鹿』呼ばわりしてしまった俺。度胸あるないの問題じゃない。ヤバイ!

真っ青になる俺とは対照的に、ヨウは呑気に「大したことしてねぇぜ」って笑っている。


そりゃお前にとっては大したことねぇかもしれねぇけど、俺にとっては死活問題にまで発展する出来事なんだって。



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