これで俺もイケメンを立たせるパシリのひとりに(ry 「うっわ。やっぱ夢じゃないよなぁ。昨日のメールが携帯に残ってらぁ」 目が覚めるとすべてが夢でした。 なーんてよくある漫画のオチを期待していたんだけど、寝起き一番に携帯を開いてメールを確認した俺は落胆の絶望。 起こしていた上体をベッドに沈ませ、 「学校に行きたくねぇよ」 グチグチと愚痴って布団を被った。 視界が利かなくなる布団の中で、俺は携帯の辞書を起動させる。 検索する文字は“しゃてい”。 検索結果、しゃていには二つの熟語が出てくる。 【射程】 銃の発射の起点と、着弾点との距離をいうらしい。弾丸が届く最大の距離ともいうとかなんとか。 【舎弟】 弟。他人の弟。それでもって弟分って意味らしい。 ……はぁ、舎弟か。 俺はうんぬん唸りながら携帯を閉じる。 サボりたい。 今日学校をすこぶるサボりたい。 サボッちゃおうかなとか甘い考えが浮かんでは消え、消えては浮かんで。 「サボれねぇよな。母さん、仮病を見抜くのは上手いし」 嘘って分かった途端、張り手が飛んでくるだろうな。 結局、悩んでも気が滅入るだけだから、何も考えず学校に登校してみる。 愛チャリに跨って颯爽と風を切りながら学校に向かう、この道の途中まではマジ最高。テンションフルテン。 だけど学校が見えて来た瞬間、俺の表情は本日の天気に反してどんより曇り模様。 学校の敷地に入った時の俺の顔はたぶん笑えたと思う。 チャリ置き場に愛チャリを置いて昇降口に向かう。 「あ、田山」 すると俺を見捨てた奴そのイチ(別名:薄情者そのイチ)に挨拶された。 「生きて登校できたみたいだな。良かった良かった」 面白可笑しそうに俺に声を掛けてきたのは、長谷(ながたに)光喜(こうき)。 よく読み方を『はせ』と間違えられるけど、こいつの名前は『ながたに』だ。 俺はこいつに出会うまで長谷を『はせ』と呼ぶなんて知らなかったけれど。 光喜は地味グループに所属している、代表的な日陰組男子。 でも地味に野球部で活躍している、地味スポーツマンくん。したがって俺よりかは、幾分地味じゃないと思う。幾分な。 そばかすを散りばめた顔を視界に入れた俺は、「光喜かよ」白眼視に近い視線を飛ばしてそっぽを向く。 ニタニタ笑う光喜は、 「顔は腫れてないし、青痣もない。喧嘩はしていないようだな」 と、ご感想を述べてくれた。 ドチクショウめ! 俺は舌を鳴らして、光喜に唸り声を上げる。 「薄情者め。昨日、助けもせずに逃げやがって」 「馬鹿。お前が俺の立場なら絶対逃げるだろ? なんたって、あの荒川庸一に呼び出し食らったんだぜ? お前」 荒川 庸一。 俺の通っている学校で恐れられている不良。俺とタメ。同級生。 嗚呼、思い出しただけで俺は溜息をつきたくなる。 深いふかい溜息をついたら、光喜が目を輝かせながら「何があったんだい?」と肘でワザとらしく小突いてきた。 面白ネタ話を手に入れたって目をしている。こいつ、シメたろうか? 「で、どうだったんだ? 呼び出しは? まさかの告白? お熱ぅ!」 それを聞いた瞬間、俺は腹部に鋭い痛みが走った。 胃がギリギリしてきたよ。眩暈もしてきたよ。思い出せば出すほど、マジで胃が痛い。 嗚呼、ストレス。俺はもう駄目だ、ストレスで死ねる。アイタタタっ、しゃがんで俺は横っ腹を押さえる。 「お、おい田山?」 大丈夫か、俺の様子に光喜が一変。 屈んで優しく体調を気遣ってきてくれる。が、言葉で慰められると思うなよバカヤロウ! 俺は、俺はっ、嗚呼、あろうことか不良と関係を作ってしまったんだからなっ! オトモダチなんて軽い関係じゃないんだからな! 「なんで俺なんだろう。俺じゃなくたって、他にも面白いヤツ沢山いるだろうに。いるだろうに」 「田山?」 「俺の人生終わった。もうやだ、お家に帰りたい。お家に一生引き篭もっていたい」 [次へ#] [戻る] |