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ぎこちなく相手を盗み見ると、向こうも顔を赤くして嘘だとばかりに俺を一瞥。


視線がかち合えば、向こうは俯いてしまった――ココロが俺の気持ちに察している。同じように俺もココロの気持ちを察しちまった。

馬鹿みたいに心臓が高鳴る、体温がグングン上昇していく、口内がカラカラに急速に渇いていく。


(ココロは俺のことを。ヨウじゃなくて、俺のことを?)


これは夢か幻か、それともドッキリか。

違う。
これは現実だ。
まぎれもない現実なんだ。

彼女は俺をそういう対象で見ていたんだ。

もしここでうやむやにしてしまえば、ココロは自分の気持ちを隠してしまうだろう。時間が経てば経つほど隠してしまうことだろう。

そんなの嫌だった。

俺は彼女の口から気持ちを聞きたかった。これは夢じゃないのだと信じたかった。


だから俺は今この瞬間に伝えないといけない。自分の気持ちを。

緊張のあまりに頭が真っ白になりそうだ。

だけど、まずは、まずは否定をしないと。
彼女の誤解を訂正しないといけないと、前にも後ろにも進めない。


「弥生のこと友達として好きだよ。弥生はお喋り好きだろう? 調子ノリな俺と気が合うんだ。クラスも一緒だからだし、彼女といる時間は多い。でも弥生を異性としては見ていない。あいつにはハジメがいるしな。俺自身、良いお友達感覚。そういう好きじゃないんだ。俺の好きな人は弥生じゃないんだよ」 


意を決して相手を直視する。

瞬き一つ俺を見つめている彼女の瞳を見つめ返すと、揺れる黒い瞳に光が宿った。返答のかわりにぎこちない笑みを向けてくれる。

彼女もまた緊張しているんだと分かった。

怖いんだ、相手に気持ちを伝えることが。

分かるよ、俺も同じだから。
変に汗は出てくるし、できることなら調子のいいことを言って誤魔化したいし、今のはナシと逃げて笑い飛ばし、事を済ませたい。


「俺の想いを伝えたい人はここにいるんだ。目の前にいるんだよ」


だけどそれじゃ何も変わらないし、決意も口先だけに終わる。

相手に伝えたい、この気持ちは本物なんだ。
理由をつけて逃げることはもうやめると誓った。彼女の前で宣言した。だから。

「ココロ、俺の話を聞いてくれるか?」

もったいつけるように彼女に問い掛けると、小さく相槌を打たれる。期待を篭めた瞳が可愛らしく見えた。



「集合、榊原チームに動きがあったらしいぞ! 集合、直ぐに集合!」




何処からともなく聞こえてくる不良の怒号。それによって我に返る俺達。
吹き抜けていく風によって、今の現状を思い知らされてしまう。おいおい……まさか。

「……もしかして召集?」

「み、みたいですね」

あはは、あはは、お互いに乾いた笑いを浮かべた。

今からが恋の正念場だというのにっ、この仕打ち!

そりゃないぜマドモアゼル!
榊原チームのKY! 神さまのいけず!

こんな大事な時に……いや、あっちも大切なんだけどさ。何もこんな時に、人生初めてのイベントを経験している真っ只中で、こういうオチはないと思うんだけどな!

せめて告白タイムを終えてから、そういうイベントが発生して欲しかったな!

告白ムードだったのに、何も言えてないなんて出鼻挫かれた気分なんだぜ。

脱力する俺は仕方がなしに木材から下りて、ココロに中に入ろうと誘う。

頷くココロも木材から下りて、皺の寄ったプリーツを軽く伸ばし、俺に行こうと苦笑い。戻る前に、俺はココロから視線を逸らして照れ隠しするように、頬を掻いた。


「あのさココロ。『エリア戦争』が終わったら……ココロに言いたいことがあるから。予約な」


先を歩く彼女が足を止めて振り返ってくる。
プリーツから手を放すと、恥ずかしそうに、でも何処か照れたような笑顔で、


「はい。待っています。私もケイさんに言いたいことがあるので……予約ですよ」


ココロは真っ直ぐ俺を見て頬を紅潮させながらも、満面の笑顔を向けてくれていた。
 
それは出逢った中で一番の笑顔。誰にも勝る女の子の笑顔。大好きな子の笑顔。

見ているだけで幸せになれるのだから、気持ち的には凄くあたたかい。

彼女の隣に並ぶと、「戻ろう、ココロ。榊原達のことが気になる」ぽんっと肩に手を置いた。

こくんと頷き、彼女は何事もないといいのだけれど、と眉根を下げる。

だけど召集があるということは何かが遭ったということだろう。

俺とココロは駆け足で倉庫へと戻った。
予約のことをいつまでも念頭に入れながら。



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