11-12 ぎこちなく相手を盗み見ると、向こうも顔を赤くして嘘だとばかりに俺を一瞥。 視線がかち合えば、向こうは俯いてしまった――ココロが俺の気持ちに察している。同じように俺もココロの気持ちを察しちまった。 馬鹿みたいに心臓が高鳴る、体温がグングン上昇していく、口内がカラカラに急速に渇いていく。 (ココロは俺のことを。ヨウじゃなくて、俺のことを?) これは夢か幻か、それともドッキリか。 違う。 これは現実だ。 まぎれもない現実なんだ。 彼女は俺をそういう対象で見ていたんだ。 もしここでうやむやにしてしまえば、ココロは自分の気持ちを隠してしまうだろう。時間が経てば経つほど隠してしまうことだろう。 そんなの嫌だった。 俺は彼女の口から気持ちを聞きたかった。これは夢じゃないのだと信じたかった。 だから俺は今この瞬間に伝えないといけない。自分の気持ちを。 緊張のあまりに頭が真っ白になりそうだ。 だけど、まずは、まずは否定をしないと。 彼女の誤解を訂正しないといけないと、前にも後ろにも進めない。 「弥生のこと友達として好きだよ。弥生はお喋り好きだろう? 調子ノリな俺と気が合うんだ。クラスも一緒だからだし、彼女といる時間は多い。でも弥生を異性としては見ていない。あいつにはハジメがいるしな。俺自身、良いお友達感覚。そういう好きじゃないんだ。俺の好きな人は弥生じゃないんだよ」 意を決して相手を直視する。 瞬き一つ俺を見つめている彼女の瞳を見つめ返すと、揺れる黒い瞳に光が宿った。返答のかわりにぎこちない笑みを向けてくれる。 彼女もまた緊張しているんだと分かった。 怖いんだ、相手に気持ちを伝えることが。 分かるよ、俺も同じだから。 変に汗は出てくるし、できることなら調子のいいことを言って誤魔化したいし、今のはナシと逃げて笑い飛ばし、事を済ませたい。 「俺の想いを伝えたい人はここにいるんだ。目の前にいるんだよ」 だけどそれじゃ何も変わらないし、決意も口先だけに終わる。 相手に伝えたい、この気持ちは本物なんだ。 理由をつけて逃げることはもうやめると誓った。彼女の前で宣言した。だから。 「ココロ、俺の話を聞いてくれるか?」 もったいつけるように彼女に問い掛けると、小さく相槌を打たれる。期待を篭めた瞳が可愛らしく見えた。 「集合、榊原チームに動きがあったらしいぞ! 集合、直ぐに集合!」 何処からともなく聞こえてくる不良の怒号。それによって我に返る俺達。 吹き抜けていく風によって、今の現状を思い知らされてしまう。おいおい……まさか。 「……もしかして召集?」 「み、みたいですね」 あはは、あはは、お互いに乾いた笑いを浮かべた。 今からが恋の正念場だというのにっ、この仕打ち! そりゃないぜマドモアゼル! 榊原チームのKY! 神さまのいけず! こんな大事な時に……いや、あっちも大切なんだけどさ。何もこんな時に、人生初めてのイベントを経験している真っ只中で、こういうオチはないと思うんだけどな! せめて告白タイムを終えてから、そういうイベントが発生して欲しかったな! 告白ムードだったのに、何も言えてないなんて出鼻挫かれた気分なんだぜ。 脱力する俺は仕方がなしに木材から下りて、ココロに中に入ろうと誘う。 頷くココロも木材から下りて、皺の寄ったプリーツを軽く伸ばし、俺に行こうと苦笑い。戻る前に、俺はココロから視線を逸らして照れ隠しするように、頬を掻いた。 「あのさココロ。『エリア戦争』が終わったら……ココロに言いたいことがあるから。予約な」 先を歩く彼女が足を止めて振り返ってくる。 プリーツから手を放すと、恥ずかしそうに、でも何処か照れたような笑顔で、 「はい。待っています。私もケイさんに言いたいことがあるので……予約ですよ」 ココロは真っ直ぐ俺を見て頬を紅潮させながらも、満面の笑顔を向けてくれていた。 それは出逢った中で一番の笑顔。誰にも勝る女の子の笑顔。大好きな子の笑顔。 見ているだけで幸せになれるのだから、気持ち的には凄くあたたかい。 彼女の隣に並ぶと、「戻ろう、ココロ。榊原達のことが気になる」ぽんっと肩に手を置いた。 こくんと頷き、彼女は何事もないといいのだけれど、と眉根を下げる。 だけど召集があるということは何かが遭ったということだろう。 俺とココロは駆け足で倉庫へと戻った。 予約のことをいつまでも念頭に入れながら。 [*前へ][次へ#] [戻る] |