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01-11



「本当のことを言ってください。貴方が俺の下に来た理由を。単純にオトモダチになりたいわけじゃないでしょう?」


ストレートに物申すと楓さんが大きな笑声を零した。

車内に満ちる声に翳りはない。

「これは予想外だね」

彼はサイドブレーキをおろすと、アクセルを踏んで車を発進させる。勢いにより座席に体が押し付けられた。


「僕は豊福くんを見くびっていたよ。僕の想像する君は物事に従順で、何でも首を縦に振る性格だと思っていたけれど……ちゃんと脳みそを使って物申す子だったみたいだね。勉強ができても“脳みそ”を使わない連中は沢山いるから一安心だよ。意外と聡い子だということも分かったしね」


「ご名答」単純にオトモダチになりたいわけじゃない。

楓さんは俺を横目で見やると意気揚々に肩を竦めた。

御堂財閥関連で近付いたことも半分は当たっていると彼はへらりと笑い、警戒心を募らせている俺の視線を真摯に受け止める。


「安心してよ。僕はどっかの誰かさんと違って誰かを食らってのし上がりたいとは思っていない。ましてや玲ちゃんを食らおうだなんて馬鹿げたことは思わないよ。あの子とは付き合いも長い。君があの子を守りたいと思うように、僕も傷付けようとは一抹も思わない」


「なら何故?」もったいぶる青年の横顔を見つめ続けると、彼は一呼吸置いて口を開いた。


「君が聡いと分かった以上、単刀直入に言う。豊福くん、僕と手を組んで欲しい」


その声音はずんと低くなり、真剣み帯びる。

手を組んで欲しい? 財閥界に無知な俺と?


「僕は今、財盟主のひとりに喧嘩を売っている。そいつは君もよく知る輩。相手はかなりの曲者でね、どうしても味方を増やしたいんだ」


まさか、その財盟主って。

息を呑んで瞠目する俺に、「ご察しのとおり」喧嘩を売った相手は御堂淳蔵だよ。楓さんは財閥界ではやってはならないタブーを冒したのだと意味深長に笑みを浮かべた。

財盟主に喧嘩を売る、それは身の破滅に繋がる行為だと言われ、財閥界ではご法度だと示唆されている。

けれど楓さんは財閥界一の禁忌を冒したという。間接的ではなく、面と向かって本人の目の前で喧嘩を売ったのだと楓さんは得意げな顔を作った。


なら、やっぱり楓さんが俺に近付いてきたのは……眉を寄せると、「御堂財閥を食らおうなんて思っていないよ」そこは勘違いしないで欲しいと楓さん。


「僕の狙いはあくまで頭の硬い財盟主。敢えて誰かを食らわないといけないなら、僕は財盟主を食らいたいと言うね」

「けれど御堂財閥は噛んでいますよね? 先ほども申し上げたように、俺を媒体に御堂財閥と繋がろうとしているなら期待しない方がいいですよ。俺個人に力はないんですから」

「ああ、分かっているよ。君は弱い。だから御堂淳蔵に目を付けられると厄介なんだ。あいつは簡単に人を手駒にするからね」


それは経験済みだ。俺も手駒にされかけた。大切な人達を人質に取られた上で。

口を閉ざす俺に、「経験は生かさないと」また同じ過ちを繰り返すのかと楓さんは鋭く突いてきた。


遅かれ早かれ御堂淳蔵は何かしらアクションを起こすだろう。


実の息子である御堂源二と対峙しているのだ。

彼の周囲に取り巻く人間に手を下さないわけがない。


それこそどんな輩だろうと目を配り利害を見極める筈。

楓さんは自分と似た思想を持つ御堂源二と積極的に手を結びたいと胸の内を明かし、その接合の役目を俺に委ねたいのだと語った。

御堂源二と俺をいっぺんに手中におさめることで、好感を持てる人々の弱点を減らし、御堂淳蔵と対抗する基盤を築き上げたい。

人の良さそうな顔で語り部に立つ楓さんの瞳は熱帯びていた。


一方、俺は戸惑いを表に出すことしかできなかった。

前触れもなしに政略的な話題を振られても返事に困ってしまう。

御堂淳蔵に対抗したいから手を組め、という申し出に対して、安易に分かりましたの一言など返せるわけもない。

二階堂楓のことすらよく知らないのに。


俺の借金を肩代わりしてくれようとしたことは知っているから、警戒心を抱くような悪人ではなさそうだけど。


「返事はすぐに求めないよ」


混乱を貶めた犯人は、俺に助け船を出して眦を和らげる。


「あんな事件があった後だ。心の整理もついていないだろうし、いきなり手を組めと申し出る僕に警戒心を向けるのも仕方がないこと。本当は親密になってこの話題を切り出すつもりだったんだけど」

「どうして淳蔵さまに楯突くようなことを?」


返事の代わりに疑問をぶつけてみる。

再び流れるルパンのテーマ曲。

歌つきの曲に合わせ、鼻歌を歌う楓さんはサビの部分を口ずさんで片目を瞑った。


「ちょっと財閥界の空気を入れ替えたくてね。ほら、定期的に換気をしないと部屋の空気って篭るだろう? 今の財閥界の空気は埃っぽくてね」


比喩的な表現だ。

おかげで俺は首を傾げるしかない。



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あきゅろす。
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