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03-08

   
 

「カタテンに親切にしてくれる人なんて、そうはいませんもん。ぼくは片方しか翼の無い出来損ないだから」
 

 ぼく、生まれながら片方しか翼が無くて。
 よく叔父さん叔母さんに咎められます。どうしてそんな姿で生まれてきたんだって。
 
 あ、叔父さん叔母さんはぼくを引き取ってくれた人たちなんです。
 
 というのも、両親はもう亡くなっています。
 父はぼくが生まれる一年程前に亡くなってしまったそうです。どうして亡くなってしまったのかは存じませんが…。
 母は命と引き換えにぼくを産んでくれたので他界しています。母が命を懸けて一生懸命産んでくれたというのに、こんな情けない姿で生まれてきてしまったぼくに非がありますから、咎められて当然なんです。

 片方しか翼が無い出来損ないだから、叔父さんや叔母さん、周囲のみんなに迷惑掛けている存在ですし、疎ましがられて当然の存在なんです。
 
 ぼくはとても自分が情けなく思います。とてもとても不甲斐なく思います。どうしてまともな天使に生まれられなかったんだろうって。
 聖界にとっても、ぼくのような存在はとても不名誉です。汚点なんです。お荷物なんです。こんな風に皆に迷惑を掛ける存在なら、いっそ生まれてこなければ良かった。
 
 そう思うほど、ぼくはぼくという存在を情けなく思います。
 

「だからこうやって優しくされて、カタテンはとても幸せ者です。今日のことは一生忘れません」

 
 幼い子のあどけなく紡ぐ言葉が千羽の胸に突き刺さった。
 こんな子供が、こんなにも残酷な言葉を吐くのか。そう思わざる得ない環境にいるのか。聖界は平和と平等をモットーとしている筈。なのに、どうしてこんな子供が、こんな台詞を吐かなければならないのか。
 たかだか片方翼が無い。それだけで生まれなければ良かったなんて残酷な台詞を吐かなければならないのか。
  
 さも当たり前のように吐く幼い子の言葉にショックを受ける千羽に対し、それまで揚げパンを口に運びながら黙然と話を聞いていた異例子がポツリ。
 

「出来損ないは出来損ないなりに努力して生きていくしかないんだよね。みんなと違う分、何か努力しないと。みんなに認めてもらうために」
 
 
 それは誰に向ける言葉でもなく、自分自身に向ける独り言だった。
 
 揚げパンを口に押し込み、それを噛み締めながら異例子は包み紙を綺麗に折り畳む。
 そして何やら作業を始めた。やや油で汚れた包み紙は異例子の手により、奇妙な形へと変わっていく。紙切れから刺々しい形へと変わっていく包み紙は綺麗な星へと姿を変えた。

 「お星様だ!」歓声を上げる流聖に異例子は綻ぶ。
 「凄いでしょ」そう言って流聖の分の包み紙を手に取ると、また何やら折り始める。今度はコップへと形を変えた。凄い凄いと喜ぶ流聖を尻目に、千羽は紙で形を作るなんて器用だなと素直に褒める。異例子は苦笑いを零し、「人間界の遊びなんですよ」と千羽に教えた。

 千羽の分の包み紙を受け取り、また何やら折り始める異例子は作業の手を止めず口を動かす。
 

「ずっと人間界で暮らしていましたが、人間という生き物はとても器用な生き物ですよ。魔法が使えない分、こうやって自分達の手で物や暮らしを作っていくんですから。最弱種族と呼ばれている人間ですが、人間は人間なりに努力して生きている。
そういった意味じゃ俺は人間で良かったのかもしれません」
 

 まあ、聖界にとってしてみれば、人間の異例子は不名誉な生き物なんですけどね。
 
 微苦笑を零し、異例子は折った包み紙を流聖の手の平に載せる。
 「鳥さん?」見たことも無い形に流聖は首を傾げた。「鶴さんだよ」人間界にいる鳥なのだと異例子は子供に教えた。
 興味津々に折鶴を見つめ、流聖は折ってもらった星やコップを貰って良いかと異例子を見上げる。「いいよ」彼は微笑んだ。本当は綺麗な紙で折ってあげたかったんだけど、詫びを交えると流聖は充分だとはにかんだ。
 
 これは宝物にする。
 割れ物を扱う手つきで布鞄に仕舞うと、「そろそろお勉強しなきゃ」流聖は噴水の縁から下りた。彼は今から夕方にかけて西図書館で勉強をしなければならないと言う。千羽は昼食はあるのかと尋ねた。
 先程、あれほど腹を空かせていたのだ。昼食を持っていないのでは?




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