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03-09

   
 
 案の定、流聖は昼食を持参していなかった。持参する余裕が無かったのだと語る。
 けれど家に帰れば夕飯を貰える。昨晩は自分が失態を犯したため夕飯を抜きにされたが、今日は夕飯を食べさせてもらえる。だから大丈夫だと流聖は表情を崩した。流聖が家でどのような扱いを受けているのか想像できる説明だった。

 こんな子供に酷な扱いを擦るなんて、憤りを感じる千羽だったが流聖は仕方が無いのだと失笑した。


「ちゃんと生まれてこなかったぼくが悪いんですから」
 
 
 諦めたように失笑を零す流聖は年齢相応の歳には見えなかった。どこか大人びた、どこか哀愁漂わせる子供に見えた。千羽は目を細めた。
 ―…非は本当に子供にあるのだろうか。非があるというのならば、それはあまりに理不尽な理由ではないか。

 胸にもやもやとしたものが募る中、異例子も噴水の縁から下り、西図書館まで送ると申し出た。
 「ついでに昼食を千羽副隊長に買ってもらおう」チラチラとこちらを見ては含みある笑みを向けてくる異例子に、千羽はヒクリと口元を引き攣らせた。こいつ、自分が金がないからって他力本願か。
  

 しかし流聖の昼食事情を知ってしまった。買ってやらないわけにはいかないではないか。

 大体、見て見ぬ振りをするほど自分も落ちぶれた天使ではないのだ。子供の昼食代くらい人情で出してやるつもりだ。
 

 千羽は遠慮する流聖を引き連れ、並んでいる出店の一つに入ると昼食になりそうなパンやサラダや果実を買ってやった。申し訳無さそうに顔を顰める流聖だったが、「気にするな」千羽が微笑んでやると行為に甘んじるとばかりに子は微笑を返した。
  
 流聖は買ってもらった昼食を外で待っていた異例子に見せるため、一足先に出店を飛び出し彼に駆け寄る。
 「司お兄ちゃんに買ってもらいました」異例子に一々買って貰った品を報告をする子供の顔は本当に幼い。そして異例子にとてもとても懐いたようだ。目を輝かせ、期待を込めて報告をしている。
 異例子は子供の期待を見抜いていたのだろう。「良かったね」そっと頭を撫で、子供に優しく微笑んでいた。

 遅れて出店を出た千羽は二人の様子をそっと見守る。
 異例子とカタテンと呼ばれる子供は似たような境遇を持っている。似たような境遇に立っている。だからこそカタテンは、自分の気持ちを察してくれる異例子に懐いているのかもしれない。擽ったそうに異例子の手を受け止め、はにかんでいた。無邪気に笑うその子供の姿が千羽には心苦しく思えた。

 弱い立場にいる子供は、不完全と呼ばれる子供は、一の立場にいる者は、他の民と同じように幸せにはなれないのだろうか。権利はないのだろうか。平等に扱われないのか。と。
 
  
 
 千羽は異例子と共にカタテンと呼ばれる子供を西図書館まで送る。
 その際、異例子は西図書館まで子供と手を繋いでいた。異例子から子供の手を取ったのだ。呆気に取られていた子供も、手を繋ぐことに喜びを覚えたようだ。始終しっかりと彼の手を握っていた。

 西図書館前の大階段に着くと流聖は名残惜しそうに手を離し、千羽と異例子に頭を下げた。


「此処まで送って頂き、本当にありがとうございました。優しくしてもらってぼく、凄く嬉しかったです。―…またお会いできますか?」 
 

 おずおずと質問を投げ掛けてくる。また会えるか、と。

 今度はもっとゆっくり時間を取って話をしてみたい。こんなにも話してくれる人はいなかった。もう一度、会って話がしたい。声を窄めて流聖は二人を見上げた。
 千羽が何か言う前に、「また会おうね」守れる根拠も何も無いことを異例子は口にした。必ずまた会えるから、そう微笑む異例子に子供はやや不安そうに頷く。本当にまた会えるのか、と何処かで疑念を抱いているようだ。

 その気持ちを見抜いた異例子は子供の前で右の小指を立てて見せた。
 
 キョトンとする子供に右の小指を出すように言う。
 言われたとおり、子供が小指を立てると異例子はそれに自分の小指を絡めた。不思議そうに首を傾げる子供に異例子は微笑む。「これは約束のおまじない」




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あきゅろす。
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