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01-17



 修羅場は幾度と無く潜り抜けてきたつもりなのだが、今回ばかりは参ってしまいそうだ。
 千羽は報告書から目を逸らし、音を上げてしまいたくなった。

「千羽。仕事にならないか」
「いえ。失礼いたしました」

 尊敬する郡是にだけは呆れられたくない。
 努力に努力を重ねて彼の下で働けるようになったのだ。絶対に失望だけはさせたくない。

 しかし郡是は千羽が一件を引き摺ってしまっていることを見抜いていた。

「報告書は俺がする」

 他の仕事をしろと言われてしまい、千羽は自己嫌悪に陥った。
 泣く泣く報告書を隊の長に任せるものの、他の仕事を始めたところで結果は同じだった。気持ちが沈んで仕事が手に付きそうにない。

(千羽を帰すか)

 ある程度、目を瞑っていたが郡是だが、千羽の様子に今日は帰宅させた方が良いかもしれないと判断した。
 現場検証をしている間、顔色がまったく優れなかった。

 切迫した顔で検証に望んでいたため、倒れるのではないかと懸念したほどだ。
 それほど千羽副隊長にとってジェラール・アニエスの死亡は心に大きな深手を負ったのだろう。部下の誰より有能な千羽だが、今の様子ではいつもの半分も仕事がこなせないだろう。
 
 羽根ペンを走らせながら千羽に帰るよう命を下そうとした時、扉がノックされた。

 郡是が返事を返せば、扉が開かれる。

 中に入って来たのは部下だった。血相を変えて自分達のもとにやって来る。

「どうした?」

 千羽が訝しげに尋ねると、部下がその場で膝を立て「ご報告します」と顔を上げた。

「本日の夕刻、監視でトラブルが発生いたしました」

「トラブル? 異例子が何かしたというのか?」

 郡是の問い掛けに、

「いえ……それが」

 部下は表情を曇らせる。
 
「どうも仲間内が異例子に何かしていたようで、異例子は重傷を負っているそうです」
 
 衝撃的な報告に郡是と千羽は愕然とした。
 異例子が起こしたトラブルではなく、聖保安部隊が起こしたトラブルだと。

 まさかそんな、しかも自分達の部下がトラブルを起こしたなんて。
 目を白黒させていると、怒声が回廊から聞こえてきた。

「まだ待たせるのか! 俺等はさっさと郡是隊長に会わせろって言ったよな!」

 ビクッと部下は身を震わせ早口で二人に報告を重ねる。

「一件について鬼夜柚蘭さまと螺月さまがお話があると廊下で待っておられます。騒動を起こした仲間も一緒です。此方にご案内しても」

「お怒りの様子ですよ、郡是隊長」

「だったら尚更だろ。通してくれ」
  
 隊の長の許可を貰うと部下は扉を開き、廊下で待っていた者達を中に入れる。
 浮かない顔を見せている部下三人に異例子の兄姉。まったく微笑を崩さない柚蘭とは対照的に、螺月はド不機嫌な面持ち作っている。

 共通して言えることはどちらもご立腹ということだろうか。纏うオーラが怒を帯びている。部下達の存在が掻き消されてしまうほど二人の纏うオーラは凄まじかった。
 
 郡是と千羽はチラッと部下達に目を向ける。
 彼等はこちらをまったく見ようとしない。まずは事情を聴く事が先決だろう。郡是は二人に何があったのか説明してくれるよう頼んだ。
 
 片眉をつり上げ、何も言わない螺月の代わりに柚蘭が淡々と今日の出来事を話す。

 事情を聴いた郡是と千羽は頭痛のする思いがした。
 まさか部下達が異例子の右腕の骨にひびを入れたり、背に大火傷負わせたり、挙句の果てに斬撃を飛ばして怪我を負わそうとするなんて。聖保安部隊がすることではない。

「事実か?」

 郡是が部下達に問い掛けると、小さな声で肯定した。
 虚言を張ると後々どうなるか分かっていたため白状するしかなかったのだ。

「菜月の態度も悪かったと思うの。あの子、聖界人には失礼なことばかり言うから。以後、こんなことがないようキツク言っておくわ」

 だけど。
 柚蘭は怒りを瞳に宿らせたまま机越しに郡是に歩み寄ると机上を叩き付け、声音を張った。
 



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あきゅろす。
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