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06-02


 

「だが確実に人間界に情報は眠っている。魔聖界は俺とお前で随分調べたんだしな。人間界にもフラグメントが眠っている可能性はあるんだろ?」

「ええ。僕の調べでは各々の世界にフラグメントが眠っていると思いますよ」 


 魔聖界は当然のことながら、魔法と縁のない人間界にも必ずフラグメントは眠っている。必ず。
 鉄陽は断言し、煙草をゆっくりと吸った。
 

「でも探し始めてどれほどの月日が流れたか。いい加減、ひとつくらい手に入っても良いと思うんですけどね。簡単に入るとは思いませんけど、そろそろ手に入ってもなあ。元竜夜の天才さんはどう思います?」

「さあな。俺には何とも言えねぇよ、元竜夜のおとぼけさん。いつだった? お前が俺にフラグメントのことを教えたのは。まだ俺等が聖界でのらりくらりしてた頃だろ? ありゃ確か長候補だった時代だったな。あー随分昔だったような気がするぜ」


 思い出しただけでも反吐が出る、天才だと呼ばれていたあの時代。自分の意思とは関係なく長候補に選ばれたあの時代。なんで自分が四天守護家の指示にすべて従わなければいけなかったのか。なんで自分の人生を四天守護家に管理されなければいけなかったのか。
 
 あのまま聖界に従っていたら、今頃自分はどうなっていたことか。

 顔を顰める雅陽に苛立ちを見せていた鉄陽の表情が一変。
 今では笑い話じゃないかと笑声を漏らし、銜えていた煙草を手に取って赤く発光している先端を見つめる。

 
「これの笑うツボは竜夜の長候補二人が揃いも揃って聖界に背いたことですよ。あはは、今でも“聖の堕落”を受けた日のことしっかり憶えてますよ。あの時は冥界送りにでもされるかと思っちゃいましたよ」
 
「今思い出しても笑える。ありゃ最悪だったな。あれを受けて一時期、俺とお前は魔力の一切を封じられちまったんだからな。それでもって魔界に落とされる。よくもまあ生き延びられたもんだ。悪運強ぇ」


「天使だからって目をつけられましたもんね。いやぁ、天使はお金持ちなイメージでもあるんでしょうか? 魔界を歩く度に『金出せ』とか『身包み置いていきな』とか。しかも魔界人は聖界人と違って過酷な生活を送っているせいか、一般人も普通に強いですからね。魔力なしは非常にしんどかったです。武器も出せませんでしたし」
 

 それでもこうやって生き延びて二人でパライゾ軍を立ち上げたのだから、やはり自分達は悪運が強いのだろう。
 
 鉄陽は雅陽の左頬に目を向ける。そして軽く自分の右頬に触れた。互いの頬に刻まれたパライゾ軍の証であるスペードの刺青は自分達がパライゾ軍を立ち上げた証拠でもある。パライゾ軍ならば誰でも体のどこかに刻まれている刺青だが、自分達の刺青は特別に意味がある。
 自分達の出逢いから、聖界に歯向かうと決意した日から、パライゾ軍を立ち上げた日から、どれほどの月日が経っただろう。懐古していた鉄陽は微苦笑を零し、短くなった煙草の先端を噛み締める。


「僕も雅陽もろくな死に方しませんね」


 「今更だろ」雅陽は鼻で笑った。


「手前の死に場所さえ決められねぇ長候補時代よりかはマシだろ。何もかも四天守護家に管理されてたあの頃を取るか、ろくでもねぇ死に方を取るか、選べっつったら後者を取る。聖界に背いた時点で腹は決まって…ン? あれは」

  
 空を仰ぐ雅陽につられ、鉄陽も天を仰ぐ。
 自分達の遥か頭上を待っている一羽の鳩。伝書鳩だ。純白の羽毛を持つ伝書鳩はメモ紙を銜え、雅陽の肩に止まった。メンバーの誰かが元帥宛に一報を送ったらしい。メモ紙を手に取った雅陽は中身を開いて黙読。

 「誰からです?」鉄陽が問い掛けると、「赤祢(あかね)からだ」返答。直後、彼は嘲笑。
 

「鉄陽、面白い情報が飛び込んできた。読んでみろ」
 

 メモ紙を投げ渡される。
 キャッチした鉄陽は中身を開いて目を通した。「あはは!」歓喜の声を上げ、鉄陽はご機嫌になる。

「聖界の北区北大聖堂で暴動ですか! こりゃまた面白いのなんのってっ、管轄している竜夜はてんてこ舞いでしょうね。反聖界派139名が逮捕ですか。これって使えません? 運が良ければ全員、僕等のお仲間にできるじゃないですか」

「ああ。反聖界派は俺達パライゾ軍にとってプラスな存在だからな。仮に仲間にできなくとも、俺達にプラスな行動をしてくれるに違いない。これから先の聖界は荒れるだろうぜ」
 
 聖界は反聖界派や聖界に相応しくない者を捕らえる方針で固めていくだろう。
 そういう者達の大半が百と一の精神でいう一の立場。肩身の狭い思いをしている彼等は、ますます反感の念を抱くに違いない。反聖界派の自分にとって喜ばしい方向に流れていくだろう。
 
 「良いニュースを聞いたな」雅陽は吸殻を地に落とし、それを踏み付けて腰を上げる。
 
「今日は引き上げだ。残りは後日だ。残り三つだろ? それを確かめたら、クダラネェ聖界を少し掻き回してやろうか。なあ、元竜夜のおとぼけさん?」

 同じく吸殻を落とした鉄陽は先を歩く雅陽の後を追い駆ける。
 

「わっるい人ですね、元竜夜の天才さんは。勿論、僕は異論なんてありませんけどね。聖界を引っ掻き回す。面白そうじゃないですか! で、どう引っ掻き回すんです?」

「そうだな。手始めに俺とお前で竜夜の長の前に現れてみる。どうせまだあのクソジジイが長なんだろ? 驚かしてやろうじゃねぇか」

「あははっ。元長候補が揃って顔を出すなんて最高の嫌がらせじゃないですか」


 元長候補だった二人は人間隊が忘れてしまっている遺跡を後にする。
 捨てられた二つの吸殻からは微かにだが紫煙がのぼっていた。
  



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あきゅろす。
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