反乱軍の近況 【パライゾ軍の近況報告】 パライゾ軍:たった七人しかいない少数反乱軍。実力派。魔聖界に最高レベルで危険視されている。 各々で目的達成のために動いている中、パライゾ軍の一員・竜夜鉄陽は元帥の竜夜雅陽を連れて人間界に降り立っていた。彼はこの二ヶ月、度々元帥を連れて人間界に足を運んでいる―――…。 「―――…此処も有力な情報は載ってませんでしたね」 鉄陽は重々しく溜息をついて開いていた手帳を静かに閉じた。 目前には巨大な石盤。そこにミミズのような筆記体で綴られている文字が彫り込まれている。“古代魔聖文字”と呼ばれる古代文字が刻まれているのだ。軍の目的を達成するための情報がそこに載っているかと期待を寄せて黙読していたのだが、残念な結果が返ってきた。 「期待外れもいいところです」手帳を懐に仕舞い、鉄陽は踵返して石盤に背を向けると早足で歩き出す。 風化している柱や石壁を通り過ぎ、時に遺跡の破片を靴先で飛ばしながら、建物の外で待たせているパライゾ軍の頭の元に向かう。 崩れた石壁に腰掛け、退屈そうに欠伸を噛み締めながら喫煙、そして足を組んでいるパライゾ軍元帥・竜夜雅陽は、歩み寄って来る鉄陽の表情を一瞥するや否や肩を竦めてポケットから煙草の入った箱を放り投げる。謂わずも表情で結果は分かると鼻を鳴らした。 箱をキャッチした鉄陽は苦笑い。 「有力と思ったんですがね」煙草を取り出し口に銜えて、持ち主に投げ返して火もくれと頼む。雅陽はジッポを放り投げてきた。手中に掴み蓋を開けて、先端を火で焼くと鉄陽はそれも持ち主に投げ返した。 向かい側の崩れた瓦礫に腰掛け、鉄陽はやっぱり不味いと煙草の味に眉根を寄せる。 「よく吸えますね。こんなもの」好き好んで吸う意味が分からないと言う鉄陽に、「ガキ」雅陽は鼻で笑い足を組み替えた。「どーせガキですよ」悪かったですね。でもすえないわけじゃないですから。反論しつつ、紫煙を吐き出しポツリ。 「雅陽が煙草を吸う時って、必ずっていいほど不機嫌な時なんですよね。普段は吸わないくせに苛立つと煙草に走りますから。 あーあーあー、分かってますよ。アレの情報をいくつか掴んできたくせに、有力な情報が一切手に入っていないからですよね。分かってますから。でもまだ三つ目です。残り二つの内、どちらかはアレの有力な情報が載ってる筈ですから」 だから怒らないで下さいよ? 苛立っているのは分かりますけど。 あははーっ、と、おとぼけ面で笑声を上げる鉄陽は眼鏡のブリッジを押した。何かあればすぐに不機嫌になる雅陽だが、今は意味深に鉄陽に視線を投げやり、組んだ膝に頬杖をついている。そして口角をつり上げる。「苛立ってるのはどっちだか」 「“フラグメント”の情報が載っていなかったことに、一番苛立ってるのはお前だろ。俺におとぼけが通用すると思ってのんか?」 嫌って程、おとぼけ面を見てきたのだ。 今更胡散臭い笑顔の仮面で自分を誤魔化させると思ったら大間違いだと、シニカルに笑いながら雅陽は短くなった煙草の灰を地に落とす。 持ち前の群青色の瞳で自分を捉え笑ってくる元帥に、笑顔を貫き通していた美青年の表情が崩れる。 ムッと子供のように不機嫌になり、ふてぶてしく紫煙を吐き出す。彼が素は希少なことだった。パライゾ軍のメンバーでも彼の素を見ることができるのは元帥くらいしかいない。どのような状況でも大半が胡散臭い笑顔で場を凌ぐのだから。 パライゾ軍の中で一番付き合い長い元帥だからこそ彼の素を見られる。苛立ちを見せている青年の表情を面白おかしそうに見ている雅陽の前で、鉄陽は荒っぽくを頭部を掻いて足を組んだ。 「つっくづくヤな人ですね、雅陽って。そういうこはそっとしておくものじゃありません? デリカシーがないって言うんですよ」 「ククッ。お前にだけは絶対言われたくないお言葉だな。お前のデリカシーの無さで、魔界の三妖女の勧誘を二人も失敗してるんだからな」 また人の失態をほじくり返す。 その話は二ヶ月も前の話ではないかと文句垂れる鉄陽に、くつくつと雅陽は笑うだけ。悪びれた様子もない。「雅陽ってそういう人ですよね」鉄陽は諦めたように項垂れ、煙草の灰を地に落とす。 彼に指摘されたとおり、自分は苛立っている。 人間界にフラグメントの情報が眠っていると掴み、二ヶ月前に人間界に降り立った。人間に忘れられてしまっている遺跡に足を踏み込み、フラグメントの情報を幾つか掴んだまでは良かったのだが(あの時は嬉で胸が占めていた)、その情報を確かめに人間界を転々。にも拘らず、待っていたのは期待はずれな情報たち。 いい加減、期待以上の情報が飛び込んできても良いと思うのだが! 舌打ちを鳴らす鉄陽に、「ま。簡単には現れねぇだろうな」予想はしていたと雅陽はぼやく。 [次へ#] [戻る] |