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03-19



 眠たそうにシズが意見した。
 お前、なあんでこんな事態になっても眠気を噛み締められるんだよ。俺なんて、今からでも喧嘩がおっ始まるんじゃないかって胃が悲鳴を上げてるっていうのに。

 心中で呆れていると、「ケイとタコ沢を組ませようぜ」響子さんがすったもんだなことを言ってきた。

 目を点、次いで「はい?」、最後に「何を言い出すんですかっ!」完全に狼狽しちまう。
 いやだってっ、ちょ、お、おぉおお俺があのっ、た、た、タコ沢と組めとっ、うぇええええい?! 響子さんは俺に死ねと仰るんですかっ、あやつは俺をフルボッコにしたい願望をお持ちなんっすけど! そ、そりゃあ、日賀野と組んだこともあるから大丈夫なんじゃね? って言われりゃ、大丈夫かもしれないけど、いやでもやっぱ願い下げしたいっていうかぁあああ!

 冷汗滝汗何汗を流す俺に、「なんか文句でもあるか?」ニッと響子さんが極上の笑顔を向ける。
 
「ケイ、あんた。この喧嘩、早く終わらせたいだろ?」

「え?」
 
 
「喧嘩を終わらせて、早く平穏な日常生活に戻りたいよなー? まっさか気付いてないわけじゃないよなー? ココロが『喧嘩ですか。じゃあケイさんといられる時間、割かれちゃいますね』とか言ってションボリ肩を落としていることにっ、気付いてないとかほざくわけじゃ。なあ?
どっかの馬鹿彼氏さんはな、すーぐ喧嘩や男友達のとこに行っちまって、なーっかなか二人だけの時間を作ってくれないようだが。んーんーんー、ウチの気のせいだよな? あーん?」

 
 気のせいじゃなかったらどうしてくれようかな、パキッと両手の関節を鳴らす響子さんは俺の肩に手を置いて「な、ケイ?」と笑みを向けてくる。
 ひ、左肩が超痛いのは俺の気のせいじゃないですよねっ。うううっ、ご、ごめんなさい。か、彼女に寂しい思いさせてごめんなさいっ、一応これでも考慮しているつもりでッ…、イダダダダッ、か、肩が砕ける!

 「た、タコ沢と組みます」早く喧嘩終わらせたいです、カタコトで返答すれば、「だよな」よしと満面の笑顔を作る響子さん。
 
 これぞ姑に弄られる嫁の気分だよな。解放された俺は、「わ、ワタルさーん!」真っ先に近くにいたワタルさんに泣きついた。「あーよしよし」慰めてくれるワタルさんは、怖いお姑さんを貰っちゃったね、同情はするぴょんと声を掛けてくれる。
 
 ほ、ほんとに怖いお姑さんを貰っちまったよぉおお!
 お…、俺だってこれでも娘さんっ、じゃね、響子さんの妹分は大切にっ、大切にしてるつもりっ…、うわぁああもうあの人怖いですぅううワタルさんぅうう!
 
 おいおい泣きついている俺にワタルさん、「僕ちゃーんは三男坊の味方」何かあったら助けてあげることはできないけど、同情はするからと仰ってくれた。
 助けてはくれなくとも優しくはしてくれるんですねっ。なんかわっかんないけど今のワタルさんっ、神にも仏にも天使にも見えるんだけどっ! 鬼畜カツアゲ伝説とか屁でもないくらい、優しさが胸にっ、これから兄貴って呼んでもいいですかねっ!
 
 グズグズと落ち込んでいる俺を余所に、「なんでタコ沢とケイ?」その意図は? ヨウは響子さんの意見に疑念を向ける。
 短くなっていく煙草の先端、揺れる紫煙を見つめつつ、彼女は仏頂面に答を返す。
 

「ケイの土地勘とタコ沢の不良網を掛け合わせるんだよ」


 確かにケイは道メインの土地勘かもしれねぇが、うち等よりかは遥かに優れた土地勘を持っている。使えねぇってことはない。ある程度は土地についても知っている。何処の地が奇襲を掛けやすい土地か、地元を隈なくチェックさせるんだ。
 その後、タコ沢に不良達の動きを掴んでもらう。あいつは不良の動き・情報に長けてるからな、チェックした土地に不良の動きがないかどうか見張らせるんだ。好き好んでその地を出入りしてる輩がいたら、そりゃ可能性大で楠本達にちげぇねぇ。
 
 少しでも可能性を感じたらさっきの作戦、オトリ奇襲返し作戦を使う。
 取り敢えずオトリを使ってそいつ等が本当に楠本達かどうか、見極めないと話になんねぇ。襲われたら、はい、そいつ等は敵さんだった。反撃開始。…と、ザックリ流れを考えてみたが、うちの案は大体こんな感じ。

 此処まででご意見・感想・反論その他諸々はないか? 一応受け付けるぜ?


「響子の案には納得だけど、でも手間と危険が被(こうむ)るのも否めないよね」
 
 
 チーム一の捻くれ頭脳派が物申す。
 ハジメは問題は二つあると指摘した。
 
 その1、この手でいくとやたら土地を把握する時間と不良達の動きを探る時間に手間取られてしまい、その間にも楠本達が奇襲を繰り返すかもしれないということ。状況を把握している間にも奇襲を繰り返され、痛手を負いかねない。
 
 その2、地元をチェックするということは土地に赴く必要になる。
 本当に奇襲を掛けやすい地なのか、その目で見ないと分からないことも多々あるだろう。また奇襲返しをするにあたって、その地をどう利用するかも考えないといけない。ということは土地に赴く人間が危険に見舞われるということだ。オトリをする組もそうだけど、赴く組もしている最中に襲われないとも限らない。
 最悪、此方の目論見に気付かれてしまう可能性もある。

 目論みに気付かれる事が何より厄介だ。良い案ではあるけどリスクも高い。
 染めたシルバーの髪をボサボサに乱し、「奇襲返しに至るまでの動きは小さい方がいいと思うしね」ハジメはこうのたまった。
 
 確かに手間と時間と危険が伴うよな…、この作戦。


 でも他に作戦があるとも思えないし。





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