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03-08




『きーめた。俺、これを貰う。お前の弟分は今日から俺のだ』
 

 言うや否や、介抱してやっているモトの首根っこを掴んで戦利品を決めたらしい。
 兄分は相当反対したし、モトはモトで驚いたまま自分はモノじゃないんだけど、っと直談判したそうなんだけどヨウは問答無用で、こう言ったそうな。


『この喧嘩、勝者が敗者の持ち物を取っていいんだろう? だったら俺はこいつを貰う。テメェ等見てたら、弟分っての、なんかいたら楽しそうだし。テメェ、基樹っつったな? ンー、言い難いからテメェは今日からモトだ。行くぞモト、今日からテメェは俺の弟分。そんなヘボ兄分だった男なんざ、ほっとけほっとけ』

『え、あっ、あのマジで言ってるんですかぁああ?!』

『文句は言わせないぜ。だってテメェ、俺の戦利品だしな!』


 ……シーン。

 なにそれ…、え、ヨウがモトを戦利品に選んだ?
 じゃあ何か。ヨウ、モトを助けたとかそういうので知り合ったわけじゃなく、単にモトを戦利品として弟分に引き込んだのか?
 絶句する俺はギギギッ、オイル切れのロボットのようにぎこちなく首を動かしてヨウをジトーッと見つめる。視線から逃げるヨウは「あん時は若かった」俺も馬鹿だったからな、と引き攣り笑いの誤魔化し笑い。

 なあにが若かったで、馬鹿だった、だ。
 この思いつき行動魔め。今もお馬鹿なことはするだろっ! ちょっとはマシになったけど、やっぱ馬鹿なことはする直球型不良だよ、お前は!
 
 呆れ返る俺だけど、「ヨウさんの戦利品になれて良かったと思ってるんだ」モトは微笑を零して目を伏せた。
 だって戦利品になってからずっと、ずっと、ずっと、自分のことを弟分として可愛がってくれたんだから、と。
 
 最初こそ荒川庸一のパシリにされるかと思っていたけれど、兄分はパシリとじゃなく弟分として、仲間として受け入れてくれた。楽しいことにいつも誘ってくれ、何かと強引に腕を引いてその面白い景色を見せてくれた。

 それが堪らなく嬉しかったのだと、モトは瞼を持ち上げて頬を崩す。
 
 自分に何かあれば駆けつけてくれたし、相談にも乗ってくれた。とてもとても懐の広い人なんだって気付いたモトは、心の底からヨウを慕うようになり、その背中を追い駆けるようになったらしい。こんな人になりたい、大きなおおきな目標を見つけたとか。 
 日賀野達と対峙した時も迷わず自分は兄分について行った。
 
 何故なら、自分に素晴らしい世界を提供してくれた人と離れたくなかったから。この人のためなら何だってしよう、モトは胸にいつも刻んでいるらしい。それが自分の兄分に対する恩返しなのだと恍惚に語るモトは、「だから分かるんだ」楠本の気持ち、と失笑を零す。
 誰かのせいで兄分が消えてしまったらオレも復讐に走るんじゃないかな。それこそ楠本のように。居場所をくれた人なら、尚更だよな。他人事のように吐露する。
 

「そうすることで感情処理をしてるのかもな。やり場ないじゃん? そういうの。やきもきするっていうのかな? だからオレ、誰かさんに初対面で喧嘩を売ったんだけどさ。ヨウさんに気に入れられてるそいつ、チョー気に食わなかったんだよ。存在自体が苛立ちの素っていうか」


 はい、それ俺ですよね。
 初対面でありながら清々しく蹴り飛ばそうとしてくれましたよね、モトさん。
 言葉さえあの当時、交わしていなかったっていうのに、おんどりゃあ気に食わないんじゃあああ! で蹴ろうと…、はぁ、とつてもとつても美しい思い出だよ。
 
 まあ…、あの時は畜生って思ったけど、こうやって話を聞いてみると俺、モトの居場所を脅かしたのかな。
 なんか不条理な罪悪感を感じるぞ。まったくもって不本意だけどさ。寧ろ、俺は舎兄(コイツ)のせいで気苦労バッカ背負ってたんだけどさ。
 
 辛辣な台詞に苦々しく笑った刹那、「けど今は」の声で向こう側の椅子が勢いよく音を立てながら引かれ、斜め前から容赦なく胸倉を掴まれた。
  
 「おぉお?!」イキナリなんだよ、キョドる俺は軽く両手を挙げて早々降参ポーズを取るんだけど、意味ナーシ。

 「ちょ」驚くキヨタと、「お、おい」戸惑うヨウの声を無視し、構わずモトは青筋を立てて、

「アンタが誰かに馬鹿にされる方がムカつくんだよ!」

 大喝破。
 目を点にする俺をがっくんがっくん揺すって、何で見返そうとしねぇんだと怒られた怒鳴られた罵られた。




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