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「間違っていたとしても、さ」



 前もってガッツリ食いたい気分だとヨウが申告していたから、俺達は駅の中にあるファーストフード(改めハンバーガー)店に赴くことになった。
 某ハンバーガー店は俺等、学生の味方だと思っている。安く肉系や油っこい系も食えるし、千円以内でガッツリ食える。懐の寂しい学生さんにとってはパラダイスな店だ。お味もなかなかだしな。

 通路の一角に存在している某ハンバーガー店に入った俺達は、席を陣取る組、メニューを注文する組の二手に分かれて行動。
 俺とキヨタはメニューを注文する組としてカウンターに足を運んだ。ピークタイムを過ぎていたせいか、並ぶこともなくスンナリオーダーに成功。ちょいと商品を待った後、無事に全員分を席に運ぶことが出来た。
 前もってヨウ達に金を貰っていたからそれを返して、揃ってイタダキマス。ようやく俺とヨウは昼飯にありつけることができた。

 既にキヨタとモトは昼飯をすましていたから、デザートがてらにバニラシェイクとアップルパイで腹を満たしている。
 俺の隣に座っているキヨタはご機嫌にアップルパイを頬張っている。文字通り、本当にご機嫌だ。一目で分かるくらいご機嫌なもんだから、俺は微苦笑を零しちまう。単純な奴だな、お前も。

 「なんかイイコトでもあったのか?」ご機嫌くんのことが気になったのかヨウが質問を飛ばした。
 「はいっス」でも俺っちだけの内緒っス、キヨタは頬を崩してアップルパイをぱくり。ははっ、内緒とは言え、誰がどー見ても、兄分関連ってことは分かるんだけどな。キヨタの性格上からして。
 
 だからだろう、ヨウも追究はせず「そっか」良かったな、と一笑を零している。
 

「やっぱあれだな、弟分とかいると可愛がりたくなるよな」


 突拍子もない言葉を真っ直ぐ受け止めて、「ほんとにな」俺は相槌を打つ。
 
 「俺もさ。こいついねぇと」ぜってぇ寂しいもん、ヨウは隣に座っているモトの頭に手を置いてグーリグリ。
 下に兄弟がいない分、こういう奴は可愛がりたくなると心情を語った。痛いと声を上げながらも、どことなく照れくさそうに笑っているモトは鼻の頭をカリカリ。しきりに指で掻いて照れ隠しをしている。
 

「だからこそさ。俺、分かる気がする」


 ヨウはポンっと弟分の頭に手を置いて、ちょっとだけ榊原の気持ちが分かる気がするんだと吐露した。ほんの少しだけ、舎弟の楠本を置いて消えた気持ちが、なんとなく分かる、と。

 まさか此処で榊原の話題を切り出されるなんて思ってもいなかった。
 驚き呆ける俺等を余所に、「もし俺が榊原なら」きっと同じことをしてると思う。ヨウは平坦な声音で語り部に立つ。
 
「榊原は楠本の舎兄だったが、同時に短期間チームのリーダーをしていた。リーダーっつのーは、やっぱチームの責を取る必要があると俺は思っている。あくまでこれは憶測だが榊原は自分中心に起こした問題、そして敗北の責を取って姿を消えちまったんじゃねえかな。例えそれが卑怯者の臆病者だって言われても」

 奴にはそうするしか責を取る手立てがなかったんだと思う。

 消えることで仲間を浅倉の下に返そうとしたのかもな。元々榊原が立ち上げた新チームは浅倉の下にいた仲間が大半。力で相手を捻じ伏せ、手腕のある不良だけを引っこ抜き、お仲間ごっこの念を抱く甘っちょろい浅倉をどん底に陥れようとした。
 だけど無常にも奴は敗北を味わい、尚且つチームで内発が起きた。チームの在り方に独自の美学と強い信念を持っていたが故に、内発は奴にとってスンゲェ堪えたと思う。
 
 榊原をよく知ってるわけじゃねえけど、あいつの話を聞く限り、性格上…、死んだって自分が間違ってた、ああごめんなさい、なんざ思ってないと思う。簡単に変えるような信念は抱いてないだろうよ。
 けど敗北の責くらいは取ろうと思ったんじゃねえかな。そのリーダーとして、一端の舎兄としてな。
 
 べっつあいつの肩を持つわけじゃねえし、やり口も受け入れ難いし、あいつを好く見るわけでもねぇけど…。
 多分榊原は自分一人で敗北を持って消えようと思ったんじゃねえかな。引っこ抜いた仲間は向こうのチームに返してさ。自尊心(プライド)も高そうだから、敗北を背負うのは自分だけでいい…、とかカッコつけなこと、思ったのかも。
 
 榊原は楠本を可愛がっていたらしいから、尚更奴から姿を消しちまったんだろうな。
 勝利した浅倉の下にいかせようと思ったのかしれねぇ。向こうのチームにいた方が、楠本のためだって思ったんだろうよ。俺が榊原と同じことをしたら、迷わずモトを向こうに返すと思うぞ。ケイとも舎兄弟を切っちまって、責任くらいは取ろうって思う。
 

 ま、これはあくまで俺の憶測にしか過ぎねぇから、榊原の本意がどうなのかは不明だけどな。





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