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03-02


   
 憎々しい俺等の返答に前橋、おもむろに席を立つと俺等の前で仁王立ち。血管を浮き上がらせている握り拳を見せ付けたと思ったら、容赦ない拳骨を食らわせてきた。
 
 イッデーっ、今のは痛いっ、目から星が出そうなんだけど。
 頭を擦る俺の隣で、「体罰だろそれ!」ヨウが非難の声を上げた。「体罰もクソもあるか!」さっさと書けっつてるんだよ、前橋は青筋を一本増やし、怒声を張る。これじゃあいつまで経っても終わらんぞ、なんて口端を痙攣させている我が担任。知るかとばかりにヨウはフンと鼻を鳴らしてそっぽ向いた。


「てか書く意味が分かんねーし。時間の無駄」


 こんなのポーイだ的ノリで原稿用紙をぞんざいに床に放っちまうヨウは、まだ昼飯食ってない。腹減った。休み時間終わっちまう。矢継ぎ早に文句垂れている。
 なんっつー態度だ。俺には真似できない態度だぞ。


「荒川…っ、なんでお前はそう協調性がないんだ」

「はーいセンセー。きょーちょーせーってなんですか?」


 俺、馬鹿だから難しい言葉の意味分かりません。
 この期に及んで耳の穴に指突っ込みながら協調性の意味を聞くヨウに、怒りを通り越して呆れが出たらしい。前橋は小さな溜息をついてこめかみを擦っていた。俺はそんな担任に同情するほかない。
 

 話をリロードし、俺とヨウは貴重な昼休みを担任の前橋と一緒に過ごしていた。んで、反省文を書かせられていた。カッコ空き教室でカッコ閉じる。

 
 理由は単純。校則違反をし過ぎて生徒指導対象になっちまったからだ。
 ヨウは一目でアウトだし(キンパにメッシュ、ははっ、ピアスに香水当たり前)、俺は俺でじっみーにピアスをあけちまってる(制服は着崩してねぇよ?)。更に今朝、偶然にも前橋にチャリの二人乗りを目撃されちまって呼び出しを食らっちまったってわけだ。
 
 本来二人乗りは、交通違反だもんな! 最悪罰金だもんな!
 いや片隅では悪いって分かってたんだけどついつい。教師として生徒を指導しないといけないんだよな、前橋。マジこんな生徒を持ってドンマイなんだぜ、俺が教師なら胃を悪くしそうだ。教師にだけは絶対なりたくないって思うよ。
 
 同情しつつ、シャーペンを回して原稿用紙を眺める俺はなんて書こうかと息をつく。こういう反省文を書くのって超苦手なんだよな。一枚で仕上げろって言われたけど、その一枚をどうやって埋めればいいのか。あーあ、昼休み終わっちまうぞマジで。腹減った。
 「ったく」悪態をつく前橋は俺の左耳に目を向けて、これまた深い溜息をついた。んで頭を鷲掴みにしてグーリグリ押さえ付けてくる。い、痛い、前橋っ…痛いから!。
 

「田山っ、お前はなに粋がってピアスなんか始めたんだ? んー? ピアスしたいなら、高校を卒業してからにしろ。このバカタレ」
 

 そりゃ無理やりピアスをあけられたから、とも言えず、俺はスミマセンごめんなさい申し訳ございませんのオンパレード。
 
 とにもかくにも攻撃してくる手を止めて欲しかった。

 だってマジ痛っ! くっそう、俺にこんなことするならヨウにもしてくれよ! 俺より酷いじゃんかよっ、地味で大人しい類だからし易いってか? なんで俺バッカ攻撃受けなきゃなんないんだよっ、そりゃ弱そうには見えるだろうけどさ! 教師なら生徒は平等公平に扱えっつーの!

 「また中途半端なことしやがって」制服は違反してないってどういうことだ、前橋の毒づきに逸早く反応したのはヨウ。
 「半端じゃねえっつーの」シャーペンを放って、俺の首に腕を絡めてきた。
 

「こいつは地味だけど不良で俺の舎弟なんだ。ピアスくれぇとーぜんだろ。しかもこれ、俺があけてやったんだぜ。上手いだろ」

 
 なんの自慢だよ、ヨウ。
 苦笑を零す俺に前橋はやっぱり溜息。


「お前は…、そうやって問題児を増やすのが上手いんだな荒川。まったくもって天晴れだ。おかげで俺の仕事が増えるばかり…、学年主任になんて言われるか」

「ンなの放っておきゃいいじゃねえか。お前もクソ真面目だな、前橋。真面目に勤めて、俺等を更生できるとでも思ってるのか? ジンセーそんなに甘くないぞ」

「荒川、ガキのお前になんで人生を説法されにゃならんのだ。30年早いっつーの」





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