03-03
ご尤もですね前橋。それにヨウ、前橋は給料貰ってるんだから真面目に働かないとクビだろクビ。
てか、更生ってっ…、そこまで言われるほど、俺、落ちぶれちゃいねえぞ! 俺の悪い点っつーたら、ピアスだろ、チャリの二人乗りだろ、それから煙草……、うん、わりと落ちぶれてるな俺。ごめんなさい、落ちぶれちゃって。
「とにかくだ」反省文を書き上げるまで今日は家に帰さん、前橋はヨウの捨てた原稿用紙を拾い上げると、元の場所に置いて宣言。俺とヨウはゲンナリ顔で抗議の声を上げた。
そりゃ勘弁だぞ前橋。俺達だって今はとある喧嘩に関わってるから忙しい身の上なのに。それに腹減った。
「大体お前等は」鬱憤を晴らすように説教を始める前橋を尻目に、腕時計で時間を確認してみる。
昼休み終わり十分前か。飯食う時間は無さそうだ。前橋もチャイムが鳴るまで解放してくれなさそうだし。反省してない俺等が反省文を書いても無意味だと思うんだけど。
ちょいちょい、ヨウが俺のブレザーを陰で引っ張ってくる。
視線を流せばやたら笑みを浮かべるあくどい兄貴のお顔がそこに。……お前、ナニ考えてるんだ? チョー嫌な予感しかしねぇんだけど。と、ヨウが机上に筆談。気付かれないよう黙読した俺は思わずゲッと叫びそうになった。
マジかよ、お前やる気? ンなことすれば俺等、後でもっと酷い目に遭うぞ。後悔するんじゃねーの。筆談返しをすると、カリカリ、シャーペンが机上を走る。
『後悔? ははっ、上等。ひとりじゃねえし』
はぁーあ、ったくもう、俺はぜぇってぇ後悔するっつーの。
肩を竦めてやれば決まりだとヨウは口角をつり上げて、静かに椅子を引く。
俺もシャーペンを胸ポケットに仕舞い、音を立てないように椅子を引いて準備。前橋が黒板側を見た刹那、「ダッシュ!」ヨウの掛け声と共に俺等は椅子を倒して教室を飛び出した。
「あ、お前等!」前橋の怒声が聞こえてきたけど、知らんぷりでBダッシュ。廊下を駆け抜けた。
一階まで駆け下りた俺とヨウは、呼吸を整えながら自分達のした行為に笑声を上げる。
やっちまったな、説教は逃れられないな、それどころかシバかれるかも、なーんて会話しながらハイタッチ。馬鹿なことはしたって思ってるし、後悔するって分かっていても、後からもっと酷い説教を食らうと知っていても、なんとなくこのスリリングな逃走は楽しかった。
「放課後が怖いな」「超ヨユーだろ」顔を見合わせてまた一笑する俺等。
「さあ俺とケイは今から昼休みだぜ。なんか食いに行くか」
ヨウが腹減ったから何か食おうぜと誘ってきた。
ということは学校を抜ける気だな。午後の授業をサボる気だな。ったくもう、俺、弁当持ってきたのに。しょーがない、付き合ってやるか。幸い生徒手帳に千円札を挟んでるし、昼飯代には足りるだろ。チャリの鍵も携帯もヨウのせいでいっつも持ち歩く羽目になってるしな。
学校を抜け出すために廊下を歩いていると、「おっ」ヨウが声を上げた。
何か見つけたのか? …あ、向こうを歩いているのは中坊二人組! ちがった、新入生二人組! ヨウはラッキーだとばかりに指を鳴らして、颯爽と二人の下に駆けると、背後から二人の首に腕を絡めた。
驚きの声を上げるモトとキヨタは、ヨウの顔を見てこれまた驚きの声を上げている。そんな二人に、ヨウは「よっ」と挨拶して早速勧誘を始めた。
「よっしゃ、行くぜお前等。何処に行きてぇ? 俺はそうだな、ガッツリなんか食いたい気分だ」
……いや、キャツは勧誘どころか強引に拉致っちまうつもりらしい。
お得意の思いつき強制行動に出るヨウに、目を白黒させる二人だったけどそれなりの付き合いだから誘われてるって分かったんだろう。誘われて超感激しているモトは喜んでついて行くと目を輝かせた。
キヨタは…、なんか控えめに笑ってるだけ。
ヨウの腕から解放されたキヨタは、ちょいと距離を置いて何処に行くかで盛り上がっているヨウとモトのやり取りを眺めている。
行きたくないのかな? うーん向こうが嫌なら無理やりは…、ダメダメ。消極的だと弟分の心には触れられないぞ。ちょ、ちょっとは強引になっちまってもいいよな。ヨウを見習って…ってのも癪だけど、強引に引き込むってのも手だ。
舎弟にするかどうかは置いておいて、俺だって兄分なんだからヤるときゃヤらないと。
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