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07-05




「足。ケイやハジメと似た類か」


 モトは顎に指を絡める。

 荒川チーム内で喧嘩ができない非戦闘員は大抵、手腕の代わりに己の得意分野で補う。ケイが自転車と土地勘、ハジメが戦略と司令塔、弥生が情報収集でココロが個々人のサポート。
 うん、喧嘩ができないからといって矢島舎弟組を軽視することはできなさそうだ。自分達にはない足の速さを持っているのだから。

 「こう思うと」オレはナニが得意なんだ、モトは腕を組んでぐーるぐると考え込む。
 手腕は中途半端、特別これといった能力もない。誰よりも兄分を思う気持ちは強いのだが、この状況下では使える能力でもないし。いや、兄分の思う気持ちにケチをつけているわけではない。わけではないのだがビバ劣等感である!


「アァアア! どうしてオレってこうなんだっ…、ヨウさんの弟分でありながら何もかもが半端なヘチマじゃないか! ヨウさんは容姿も性格もカリスマ性もパーフェクトなのに、オレはヘチマ! ごめんなさいヨウさんっ、オレは駄目な弟分ですウワァアア!」


 ごんっ、ごんっ。

 背後の扉に頭をぶつけて嘉藤基樹(16)は自己嫌悪に陥った。だってしょうがない。自分には何も誇れるものがない上にヘチマだと気付いてしまっては、落ち込むどころか気分はムンクの叫び。中途半端なヘチマは所詮腐ってもヘチマなのだと気付いてしまい、モトの心中は嵐嵐大嵐だ。
 「もう駄目だ」オレは終わったんだっ、オイオイシクシク落ち込むモトに周囲は「……」だったりする。心境はいきなりどうした、である。
 
「……、妄想癖でもあるのか? こいつ」
 
 川瀬はグズグズと落ち込んでヘチマを連呼しているモトに若干引きながら、モトをよく知っている荒川チームに真意を尋ねる。
 「あー…少しあるッスかね?」キヨタは助けを求めるようにココロに視線を流し、「どうでしょう?」視線を受信したココロは誤魔化し笑いでその場を凌ぐ。フォローできない点からして相手に肯定を示しているようなものだろう。
 
 ドンッ、背後の扉が振動する。
 大きな揺れはモトが頭をぶつけているせいではない。ハッと弾かれたように視線を上げれば、曇りガラスに亀裂が入っていた。
 
 「まさか」モトは息を呑む。続け様に扉が振動と衝撃、上1/3を占めている曇りガラスが悲鳴を上げた。
 扉が開かないと判断した廊下にいる連中は強行突破に出たようだ。物でガラスを叩きつけて分厚い曇りガラスを割ろうとしている。いくら曇りガラスでも、強化ガラスではない。昭和から建てられているであろう古い建物ゆえ、ガラスに耐久性があるとも思えない。
 このままでは数回の大きな衝撃で破られてしまう。

(ガラスが破られたら、オレ達、かーんなりピンチだぞ。内鍵を掛けているとはいえ、破られたら最後、開けられる可能性も窓から入られる可能性もある)
 
 チッ。舌を鳴らしモトは最優先にココロをキャビネットから下ろした。
 次いで自分達もキャビネットから飛び下りると破られるであろう曇りガラスを睨んで、この状況をどうするかと眉根を寄せる。ガラスの突破は防ぎようがない。かといって人数が把握できていないため、安易にやり合えば此方が圧倒的に不利になるのは一目瞭然。
 どうする、どうすればいい。口内の渇きを覚えながらモトはココロに視線を流す。せめて彼女だけでも避難させたい、が、密室空間になりつつあるこの部屋に避難場などないに等しい。だったら。

「アンタ達、喧嘩はできないけど女一人くらいは守れるだろ」
 
 ブレザーを脱ぎながらモトは矢島舎弟組に問い掛ける。
 訝しげな眼を飛ばす二人に、「部屋の隅に行ってろ」此処は自分とキヨタが受け持つと告げた。なるべく敵の注意を此方に促すよう努める。だから隙を見つけ次第、彼女を連れて逃げて欲しい、モトは彼等に提案した。
 
 「はいぃい?!」これに異議申し立てをしたのはキヨタである。
 
 キヨタは何を言い出すのだと目を丸くした。ココロを矢島舎弟組に任せる? そんなのできるわけないではないか。彼等がココロを守ってくれるなど、何処にも保証がない。大事な兄分の彼女なのだ。自分達が守るべきではないかと直談判するが、「無理だ」オレ等だけじゃ守れないし、力不足だとモトは言い切る。

 例えキヨタに手腕があり、それなりに合気道を習っていたとしても、守り切れるとは言えない。




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