07-04 「女なのにやるじゃん」 谷も同調した。 珍しいことに褒めてくる矢島舎弟組。荒川チームに気を許したのかと思ったのだが、「お前等は使えねぇよな」谷が荒川弟分組を毒づいた。少しは心を許したのかと思ったのだが、そうでもなかったようだ。 「アンタ達だってゼンゼンじゃんか」キヨタが舌を出す。また水掛け論となりそうなので、モトがやんわり口論を制した。 川瀬や谷の言うとおり、此処まで先を読んで作戦立てるココロはお手柄である。 意外と彼女は先を読むのが上手いのかもしれない。腕っ節がない分、補うように喧嘩の眼が肥えてきたのだろう。彼女もそれなりに喧嘩に巻き込まれてきたのだ。彼女の視点の見方、少しは見習わなければ。 (単に指揮すればいいってもんじゃないよな。こういう時、ヨウさんだったら、独断せずに複数の意見を収集する。昔のヨウさんは独断が多かったけど、今のヨウさんは違う。必ず他の奴等の意見を聞くんだ。-…あ) 肩を並べるココロの様子に気付いたモトは、それに気付かない振りをして視線を逸らす。 携帯を握り締めている彼女の手が小刻みに震えていた。気丈に振舞っているようで、内心は恐怖心で一杯らしい。 そりゃそうだ。ココロは喧嘩慣れしていないのだから。それでも気丈に振舞うのは、彼女自身のプライドからだろう。いざとなれば、ココロは自ら喧嘩に参戦する覚悟をしている。過去、彼女は喧嘩に参戦しているのだ。さすがは調子ノリ舎弟の彼女なだけある。 (おいおいおい、ダッセェぞオレ。ココロがオレ達のために、ここまで腹括ってるのに。もっとしっかりしろ) 例え、此処に居合わせた面子が寄せ集めでも、寄せ集めであったとしても、立たされている境遇は同じ。 濡れ衣という汚名をかぶった、謂わば被害者なのだ。こっちが激情している相手に、「オレ達無関係なんで!」と言ったところで神経を逆立てするだけ。信じてもらえる筈もない。 だったらこの状況を打破するしかない。仲間達が来るまで、自分達の手で。 「なあ、ぶっちゃけアンタ達って喧嘩できるのか?」 仲間内の能力は把握しているため、モトはまだ実力を知らない矢島舎弟組に声を掛ける。 キヨタに食って掛かった谷の動きを見ている限り、そんなに手腕があるとは思えないが。モトの問い掛けに、「さあな」谷が肩を竦めた。多分ある方じゃないか、と小生意気口を叩く。前に千草と共に荒川の舎弟とやりあったことがあるが、どっこいどっこいだったとか。 それを聞いた瞬間、荒川チームは揃って重く溜息をつく。 「ケイさんと同等ですか…」それは困りましたね、ココロが両端にいる仲間に視線を配り、「マージかよ」モトが嘆き、「てかケイさんより弱いのか」二人掛かりで兄貴とどっこいどっこいだったなんて、キヨタは鼻を鳴らした。次いで、よくもそれで手腕があると言えたもんだとキヨタは二人を馬鹿にした。 カッチンくる矢島舎弟組だが、モトが溜息混じりにチームの内情を教えてやる。荒川の舎弟は男性陣でも一、二を争う非戦闘員だと。ぶっちゃけ喧嘩ができないのである。その舎弟に手こずっていたようでは、あまり使えるとは思えない。 素直に喧嘩ができないといえばいいのに、モトのぼやきに川瀬はうるせぇと舌を鳴らした。 「確かに手腕はねぇよ、俺も渚も。けどそれを補うための足があるからいいんだよ」 足? 意表を突かれたような顔を作るモトに、「一応俺達は」陸上部だった、だから足だけは速いのだと川瀬は肩を竦める。 これでも部内ではレギュラーに選ばれるほどだった。彼の物静かな語りに谷は昔のことだけどな、と補足するように舌を鳴らす。陸上部だったということはもう、退部しているのだろう。諸事情は知らないが二人の足は“俊足”なのだと視野に入れておくべきだとモトは考えた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |