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05-13


 
 ぶすくれながら頬杖付いてケーキを食べる俺に、隣テーブルから響子さんが仕方が無さそうに笑声を漏らした。
 「こりゃ暫くは」機嫌が直らないな、お気に入りの煙草を喫煙して灰皿に灰を落とす。学生が喫煙していることに店員は気付いたみたいだけど、注意を促す素振りは見られない。団体様が不良だから、何も声を掛けられないでいるんだろうな。俺が店員だったら同じ事をしていると思う。トラブりたくはないし。

 
「にしても、毒舌の波子さんって奴は置いといて。後輩は良かったのか?」


 「あんなに縋ってたじゃないか」響子さんが堤さんの名を口ずさむ。

 少しばかり怒りの熱を冷ました俺は、間を置いて肩を竦める。
 あれほど(毒舌の波子に)激怒したんだ、もう頼んでこないんじゃないかな。俺の気持ちとあの時の空気を読んでくれるとは思う。それに本当に堤さんとは頼む頼まれるような関係じゃなかったんだ。
 習字教室では殆ど喋ったことない後輩で、敢えて言うなら挨拶程度。どういう子かも記憶には殆ど残っていない。

 今回接したことで、明るくて積極的な子だってことは分かったけど。
 んでもって粘り強い子ってのも分かったよ。最後の最後までしつこかったもんなぁ。俺がブチキレても、暫くお願いしてきたし。

 そりゃあもう…、

『田山先輩っ! もう私を救えるのは貴方しかいないんです! お願いですよぉおおお! 私一人じゃ無理なんですっ…、先輩。セーンパイィイイ!』

 すっげぇしつこかったな。
 


「そんなにアンタって習字の腕、凄いのか?」
 


 モトが疑念をぶつけてきた。


 「そんなことないよ」俺は即答する。習字教室で上位だったとは言え、一番じゃなかった。
 小学生が主だった習字教室の中に高校生のお姉さんがいたんだけど(俺は喋ったことすらない)、あの人がいっちゃん習字、上手かった。今は大学生ってところかな? そういや堤さんとお姉さんが喋ってる姿、よく見かけたな。出展ならあの人に頼めばいいのに。
 俺よりか遙かにあの人の方が字、上手かったぞ。習字の先生に聞けば居場所くらいすぐ特定できると思うんだけど。
 
 どちらにせよ、俺は堤さんの頼み事を受け入れられそうにない。頼み事を聞いたら最後、キャツと関わりを持つことになるからな。
 
 崩れたケーキを綺麗に食べ終え、フォークで生クリームを掬い取る。
 「けどケイも」マジ負けず嫌いを表に出すようになったな、向かい側に座るヨウが能天気に笑声を上げた。前のお前なら絶対、ああいうタイプに喧嘩を売らねぇよな、ヨウの言葉に俺も苦笑いで同調する。
 
 ヨウ達と関わったことで、じょじょに変わっているんだよ。
 担任にも言われたけど、俺は良し悪し問わず変わっている。前の俺は絶対に人と口論なんてしなかった。引っ込み思案とまではいかなくとも、おとなしめな性格だったから。今もヨウ達に比べたらおとなしめなことには変わらないんだろうけど、少しはヤンチャになっているのかもしれない。

 それが自分の首を絞める状況下に置かれることも多々なんだけどな。
 

「ん? シズ、どうしたんだよ。全然減ってないじゃないか」


 と、俺は生クリームを掬い取っていた手を止めて斜め前のシズに声を掛ける。
 
 ワタルさんの隣でぼんやりとミルフィーユをフォークで突いているシズは、二、三口、それを食べただけで全然平らげようとする素振りを見せない。
 おかしいな、いつもならおかわりタイムに入っている筈なのに。

 俺の呼び掛けによって我に返ったシズは、「いるか?」食べるならやる、と皿を差し出してきた。




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