ただね、美味しくない 【近場のファミレスにて】 (PM7:24) 「―――…ケイがあそこまでブチキレる姿を見たのも久々だったな。話には聞いてはいたけど、マジ好意の『こ』もねぇ嫌われ方だったよなぁ。けどまあ、ケイも相当……、毒舌の波子、恐るべしだな」 グサっ。 (まずは真っ二つに割って) 「ひゃははーん。まあさ、ニンゲン誰にでも気の合わない奴っているっしょ。ヨウちゃーんがヤマトちゃーんと気が合わないように、ケイちゃーんは毒舌の波子と気が合わなかっただけだって。逆にそういう人間がいない人の方が凄いっぴ! ま、僕ちん。ああいう気の強い子、嫌いじゃないけどねんねん」 グサっ、グサっ。 (次は四等分程度に割って) 「気が合う合わない以前の問題な気も、オレはしますけど…、ちょケイ。アンタ、形がやばくなってるから」 グサっ、グサっ。 (四等分よりも六等分にしてやる。くそっ、くそ!) 「わぁ、不味そうなケーキ。でもまあ、あれじゃあケイが怒るのも仕方がないんじゃないかな。私でも怒りそうだし」 グサっ、グサっ、グサっ。 (わぁい。フォークがクリームですっごいことになってらぁ!) 「……、け、ケイさん。私のケーキと替えましょうか? こっちの方が美味しそうですよ? チーズケーキ、お好きですか?」 「ははっ、ダイジョーブ。ココロが食べなよ。このケーキは俺の今の気持ちだから。わぁ、オイシソウダナ」 ドスっ。 俺はケーキに乗っかっている苺をフォークで垂直に突き刺すと、隣でおろおろと気を遣ってくれている彼女に笑みを向けた。で、ヤケクソで俺は苺を口に突っ込む。繰り返し咀嚼して苺の甘酸っぱさを堪能。 あーウマイウマイ。苺、超美味い。なんて美味しいんでしょう、ささくれ立った気持ちが癒されるようだわ。 「ケイさん。まだ怒ってます?」おずおずとココロが声を掛けてくれる。「ゼーンゼン」俺はひたすら笑みを貫いて大げさに肩を竦めた。 「ボクはもう怒ってないヨ。たかが毒舌の波子に『まあ田山クン。あんた、とうとう化けの皮を剥がしたわね? あんたってそういうニンゲンだったのね? 女の子に対してあんなヒドイことを言えるなんて、男の風上にもおけない奴よサイッテー!』なんて言われても、ゼーンゼン! むふふっ、田山クンサイテーなのかぁ。じゃあなんですか? 男の子に対してはヒドイことを言っても良いと? なんですかそれ、地球上の何処を探せばそんな法律があるんですか? 男女平等じゃないんですか? え、毒舌の波子さんよ。田山クン、ちっともワカンナーイ!」 ガンッ―! 勢いよくフォークをケーキにぶっ刺したせいで先端が皿と激突。 「おっと勢い余った」俺は作り笑いで気持ちを抑えようと努めたけど、じわりじわりと出来事を思い出してこめかみに青筋を立ててしまう。 くそう、思い出しただけでも血圧が上がりそうだ。 あんの疫病神ッ、人が黙っていればやれヘボだの。やれ負け犬だの。何様だよ。あんなに腹の立つ奴だったか? マジ、あれなら日賀野の方が可愛げがあるっつーの! イラッイラッする…、もうぜってぇ口きかない。きくもんか。あの畜生女っ! 皿の上で無残な姿になってしまったケーキの生クリームをフォークで掬って、俺は再三再四決意を噛み締める。 四方八方から怒ってるだろ、とツッコミを頂いたけど、俺は怒ってない、怒ってないぞ。 あくまで血圧が上がっているだけだ。あいつのために怒ってやるなんてモッタイナイ! [*前へ][次へ#] [戻る] |