05-11
それに、
「あんま俺と関わらない方がいいよ。さっきも言ったけど、俺は荒川の舎弟。習字教室に通っていた昔とは…、違うんだから」
小声で、だけど意味深に吐露する。
意味を理解してくれない堤さんは、「不良でも」習字は書けるでしょ、と縋るばかり。毒舌の波子に至っては、俺の背中を蹴って「グダグダ言ってるんじゃないわよ」男のクセに女々しいと毒を吐いてくるばかり。なんてこったい、収拾がつかないぞ、この状況。
「マジで勘弁してくれよっ。俺は」
「楷書と行書、草書、先輩は書けますよね! ですよね! 私、いつも見てましたもん!」
「……、まあ、一応させられてはいたからできないこともないけど。でもそれ、三年も前の話だし」
「どうして書くことをやめちゃったんですか! あんなに上手だったのにっ…、先輩、トラウマがあるならソレを乗り越えないといけませんよ! さあ、これを契機に乗り越えましょう! 毛筆、楽しいじゃないですかー!」
「どっかの少年漫画のような展開だってそれ。てか、俺はトラウマがあるから習字をやめたわけじゃないって」
「トラウマがあるからヤサグレて不良に「なったわけじゃないよ?! 違うからな!」
スポ根漫画にありがちの展開を勝手に作ろうとするんじゃない!
なんで習字ができないイコール、ヤサグレの不良にならなきゃいけないんだよ。展開の過程が分からんぞ!
どうにかこうにか堤さんを引き離そうとするんだけど、「イーヤーです!」承諾してくれるまで絶対放さないと根性魂を見せてくれた。
ええい、しつこい!
「なあケイ。此処まで頼んでるんだし、やってやったらいいじゃんかよ。アンタ、習字とチャリしか取り得ないんだし、力が発揮できるチャンスじゃん」
やり取りを遠巻きに見ていたモトが呆れた様子で肩を竦めてくる。
「ぜぇったい嫌に決まってるだろっ、堤さんはともかく毒舌の波子がいるんだぞ! 関わってもロクなことっ……あ」
しまった、本人の前であだ名を口走った。
背後から感じる禍々しい怒気に田山圭太は青褪めましたとも。
次の瞬間、後頭部にグーパンチを頂き、俺はしゃがみ込んで悶絶。「宣戦布告と見たわ」上等よ、絶対にあんたの自尊心を砕いてやるから、このヘボ。フンッと鼻を鳴らして、「勝負に逃げたら」あんた、一生負け犬だから、と好き放題言いやがった。
は、は、腹が立つっ、まじこの女っ!
どんだけ田山圭太がおキライなんですか?!
ブッチン切れた俺は、頭部を擦りながら腰を上げると挑発してくるキャツに満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ負け犬でいいです。俺は引き受ける気、毛頭アリマセンし? まあ、いっつも俺に負けていた犬は何処のどなた様だったか? 俺が負け犬なら、誰か様は何犬になるんでしょうねアハハハハハ」
「なっ」
「というか、勝手に目の仇にしてくれちゃって超迷惑してることに気付いてます? KY? 貴方様、KYですか?」
引き攣り顔を浮かべる毒舌の波子に、あくまで笑みを貫き通した俺は堤さんの腕を振り払ってズンズンと倉庫の中へ。
「クソ田山ァアアア!」吠える馬場さんや焦る堤さんを総無視。
倉庫の四隅に腰を下ろした俺は握り拳を作って、銜えている煙草の先端を噛み潰す。田山圭太は不良と関わったおかげさまで、相当負けず嫌いになったようだ。あれだけメチャクチャに言われても、昔の俺はチキンになって頑なに反論を拒んでいたけど、いたけどさっ!
「あ。あのケイさん」おどろおどろしい手つきで俺の肩に手を置くキヨタの行動を合図に、俺は腹の底から叫んで大反論。
「うっせぇええ毒舌の波子! 人を貶すのも大概にしとけ畜生ッ、二度と俺の前に現れるなぁあああ!」
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