018 『じゃあ、アルスは此処でへこんで腐って諦めるか? それは俺ちゃまをメチャ裏切るぜ?』 「……裏切る?」 『最初の頃のアルスは、ドラゴン使いになるどころか、上辺だけでもなった振りをしていたらそれでイイって思ってただろ?』 「そりゃあ……」 『俺ちゃま。主人がいれば別にそれでもイイって思ってたんだ。そりゃ俺ちゃまはドラゴンだから、本気でドラゴン使いを目指してくれたら嬉しいけど、アルスにその気が無いなら仕方ないって思ってた。クジ引きだもんな。仕方ないよなって。でもやっぱ俺ちゃまが選んだ主人、その気がなくてもアルスについて行くつもりだった』 いつも馬鹿ばっかりしているラージャは、そんなことを思っていたのか。 少しばかりアルスが驚いていると、ラージャがそっとアルスを見つめる。 『けどアルス、前に言ってただろ。死に物狂いでベルトル以上に立派なドラゴン使いになるってよ。俺ちゃま、本気で嬉しかったんだ』 目指す理由なんてホント単純だったけれど、嬉しかったのだ。 だって自分は『ドラゴン使い』と共に生きる為に、守る為に、生まれてきたドラゴンなのだから。本気で『ドラゴン使い』を目指すと言ってくれた時は、とても嬉しかったのだ。 確かにベルトルやフォルックに比べると、アルスはまだ『ドラゴン使い』として何も開花していないけれど、本気で目指そうと志している。 それが自分にとっては嬉しかった。 『俺ちゃまはお前の気持ちに応えたい。だから今日みたいなこともしたんだ。そりゃ、アルスに【マナ】以外の魔力が身体に毒だって黙ってたことは……悪かったとは思うぜ。でも、少しでもお前が自信付けてくれるなら、ベルトル打ち負かして自信付けてくれるなら、別にイイと思ったんだ』 ラージャの目から見たアルスは何処かで、自分に自信を持っていなかった。 出来の良いベルトルやフォルックと比べては溜息付いている姿を、チラホラ目にしていた。 自分のペースがあると自分に言い聞かせても、心の何処かで焦燥感があるんだろうなぁって、この一ヶ月ずっと思っていた。 だから自信を付けて欲しかった。 『自信持てよ。才能ないなんて、そんな俺ちゃまのすべての萌えが消えちゃいそうなこと言うなよ』 「……俺、まだ【マナ】を一度も成功させたこと無いんだぜ? お前が強いドラゴンでも、俺、まだ一度も」 『俺ちゃまの主人はアルスだ。そしてアルスはフォルックやベルトル以上だ。なにせ、俺ちゃまが見込んだ奴なんだからな』 「……ラージャ」 『アルス。俺ちゃま、お前を信じてるぜ』 何の躊躇いもなくアルスを見据えてくるラージャ。 不意打ちを喰らったアルスは少しばかり言葉を失っていたが、何処か嬉しそうに微笑して「おう」と短い返事を返した。 「俺、腐ってる場合じゃないな。頑張るよ」 『おう。それでこそアルスだぜ』 「ン。ワリィ……俺、どうにか【マナ】使えるようにして、今日みたいなことしねぇようにするからな。っつーか、ラージャの身体に負担が掛かるなら、あれは二度としねぇ」 『ベルトルに喧嘩吹っ掛けられた時ぐらいはイイんだぜ? 俺ちゃま、最強乙女ドラゴンなんだからよ!』 「バーカ。その後、体調崩したら一緒だろ?うっし、気持ち引き締めて明日から、また頑張るぜ」 って、言っても今日、あんな騒動を起こしたしな。 明日のギュナッシュが、少し恐ろしい気がする。 嫌な予感を感じながらも、アルスがラージャを見下ろした。 「早く元気なれよ」 『だから、俺ちゃま、最強だっつーの』 「はいはい。お前は最強乙女ドラゴンだもんな」 嫌な予感を振り払うようにアルスは、ラージャの看病に専念することにした。 この嫌な予感が的中するなんて、今のアルスには想像も付かないことだった。 To be Continued... ⇒中篇 [*前へ] [戻る] |