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018


  
 
「馬鹿っ、無理するな! …フォルックっ、ギュナッシュ先生に報告してくれ! 俺はベルトルを保健室に連れて行くから!」
 
 
 追いついたフォルックに向かって、アルスはこの事態をギュナッシュに報告してくれるよう頼む。
 最初こそ目を剥いていたフォルックだが、冷静に事態を把握したのか、「ナーガ行くよ!」踵返り、颯爽と職員室のある方角へと駆けて行った。背を最後まで見送らず、アルスはベルトルに視線を戻し、「立てるか?」声を掛ける。
 
 ベルトルはアルスの言葉を聞いていないのか、聞こえないのか、前へ前へ向かおうと体を引き摺り動こうとする。

「じ…らんだ…、っ、が…」

「ジランダ? ジランダに何か…」

 途端にベルトルは顔をクシャリと顰め、現実を思い出したのか、身を震わせて握り拳を作った。
 
 
「アルス…、俺は…パートナーだと…言うのに、奪われた。ジランダ…を…、目の前で…」
 

 助けてやれなかった、自分のパートナーを奪われた。
 ベルトルはプライドも何もかなぐり捨て、アルスに弱くも脆い姿を見せた。虚勢を張る余裕もないのだろう。好敵手に向かって、「奪われたんだ」悔しさを吐き出し、アルスの胸部を拳で叩いた。
 

「ベルトル…」


 お前、ジランダを守ろうとしてそんな姿に…。
 「笑いたきゃ笑え」自暴自棄になっているベルトルに、「誰が笑うかよ」大人相手に勇敢に守ろうとした好敵手を、誰が笑うものか。寧ろ彼を笑う輩がいたら張り倒してやる。

 アルスは強い力でベルトルの肩を掴み、笑わないと繰り返す。寧ろ立派だと紅色の瞳を相手に向けた。


「この不器用三流馬鹿っ…、ボロボロになるくらい、あいつが大切だったんだろっ。なんで笑わないといけねぇんだよ。俺はお前を笑わない、絶対に。
……なんだよ、俺の入る余地なんてねえじゃんか。お前等、出逢った頃よりもずっと強い絆ができてるじゃんかよ。不器用の馬鹿、最初からその姿、見せてやれば良かったんだ。たった一言、ジランダに言ってやれば良かったんだよ、大事だってっ。それだけでお前等は上手くいったんだ。馬鹿だろ、こんな怪我してっ、ほんと馬鹿だろ!」

 
「上手く…、そうだったら…、いいな」

「え?」


 虚ろな目を向け、ベルトルらしくない力ない微笑を、彼は小さく浮かべる。


「言えば…、お前等のように…、なっていたのか…。今の俺には分からない…、なにも、わからない…」
 
「ベルトル…、あ、おいベルトル! しっかりしろ!」

 
 力尽きたように自分の腕の中で崩れるベルトルに、「おい!」アルスは何度も揺すって声を掛けた。応答はない。今度は何度やっても応答がない。応答なし。
 ああくそっ、アルスは喪心しているベルトルを背負い、周囲を偵察、飛行しているラージャを呼びつけて駆け出した。



「馬鹿、この馬鹿っ、魔法技術が長けてるくせに、俺等以上のペアなくせにッ…。どうしてお互いにこんなに不器用なんだよ、ド阿呆!」




 To be Continued...



後篇



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