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「不器用過ぎるんだよ!」


  
 * *
 

【日誌記入欄】

時刻:翌日の朝のSHR。
場所:ドラゴン使いクラス。
状況:クラスメート三名、ドラゴン三匹、担任一名、合計四名と三匹全員出席。健康状態良好。

今日の伝達:
ドラゴン使いへの注意呼び掛け。
ウェレット王国でドラゴン盗難が相次いでいる。特にベビードラゴンの盗難が深刻。窃盗団の犯行である可能性もある。

 


「―――…ということで、最近ドラゴンの盗難が相次いでいます。ドラゴンは危険動物と称され、人々から恐れられている生き物ですが、同等に価値ある生き物でもあります」



 知ってのとおり、ドラゴンの鱗や角、牙、血、骨は強力な魔具(魔法の道具)を作り出す材料に使われています。

 皆も授業で習いましたよね?
 
 しかも高価な材料として取り引きされていますので、欲に眩んだ悪い輩は、度々飼育されているドラゴンを狙って窃盗を働いています。物騒な事に今回、どうやら窃盗被害がウェレット王国で出ているようなので…、ドラゴン使いの卵の君たちは十分に注意するように。
 ベビードラゴンは特に高価な値で取り引きされるから、とても狙われやすい。その場で撲殺してしまうこともありうるから、もしも怪しい輩を見掛けたらすぐに民家に駆け込む。もしくは学校に報告するように。

 子供の君達は大人に舐められる可能性もある。容易に奪いやすい…ってね。
 
 
「いいかい? 皆、くれぐれも注意してね。ドラゴンはとても高価で、価値ある生き物だけれど、人間の都合で魔具にも使われるけれど、こんな犯罪あっちゃならないんだ。大体取り引きされている材料になったドラゴンたちは野生のドラゴン。もしくは死骸のドラゴンだけれど、君達のパートナーだって同じドラゴン。狙われる可能性は十二分にあるから」
 

 ドラゴンブリーダーとしての血が嫌悪しているのか、担任は窃盗の話題に険しい面持ちで熱弁。言い聞かせるように説いてくる。
 
 「物騒だな」机上に頬杖をつき、アルスは肩に乗っているラージャを横目で見た。
 気を付けろよ、心配の言葉を掛けてやれば、『俺ちゃまに不可能はない!』ラージャは踏ん反り返った。そういう問題じゃない、身の危険が及ぶかもしれないというのに。アルスはほとほと能天気なパートナーに呆れるしかなかった。


「そういえばお父さんがそんな事件が発生してるって言ってたな…、ナーガ、駄目だよ!」


 「僕の傍を離れちゃ駄目だからね!」涙ぐむ泣き虫フォルックの涙につられ、『死ぬ時は一緒だぎゃー!』ナーガはパートナーの胸に飛び込む。このペアは既に、窃盗に遭う前提で話を進めている。縁起でもない話である。


(いいなぁ。私もあんな風に会話したいものです)

 
 各々のペアのやり取りを眺めていたジランダは軽い羨望を抱いていた。
 あんな風に心配されているなんて羨ましい。主人に心配して欲しいとは思わないけれど(嘘。本当は何処かで思われたい)、もしもあんな風に言葉を掛けてもらったら、少しは心の不安が拭えるのだろう。

 まあ、自分の主人が心配するなんてこと、ウェレット王国が滅ぶと同等に有りえないことだろうけれど。

 小さく吐息をつくジランダは、主人の肩に留まり直し、窓の向こうに目を向ける。
 今日も快晴、空に雲ひとつない、好い天気だ。嗚呼、今日も演習場で【マカ】の練習をするのだろう。空は晴れているのに、気持ちは鬱々と曇ってしまう。ジランダは目を細め、そして瞼を下ろした。今日こそは主人の【マナ】を受け止めたいものだ。
 


「……。おい」
 


 と、主人から声を掛けられる。

 『はい?』ジランダは首を傾げ、主人の方に視線を投げた。神妙な顔を作るベルトルは腕を組んだまま、眉根を寄せ、口をへの字に結んでいる。なにやら言いげな様子。『?』何度も首を傾げ、ジランダは思案。


 そして気持ちを察し、努めて笑顔で答えた。





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